第三部 冬の間に

第一章 寒い季節の始まり

124. 冬が始まった

 月が変わり暦の上でも冬になると本格的に寒さが増してきた。

 ヴァードモイで一番寒い時期は冬の二カ月目後半らしいが、やっぱり冬らしく体が冷える。

 自分のお店の中にいる分には大丈夫だけど、一歩外に出れば冷たい風が吹き付けてくるのだ。

 冬ってこういうものだった。


「やっぱり冬は冷えるね。防寒具ももう少し厚手の方がいいかな?」


「そうですね。もう少し厚手の物も用意した方がよろしいかと。あとは、薄くても保温性に優れた防寒具でしょうか?」


「薄い物?」


「冒険者は必ずしも厚着が出来るとは限りませんからね」


「なるほど。ありがとう、ケウコさん」


 冒険者である『山猫の爪』のみんなや孤児院の子供たちの意見を取り入れ、お店のラインナップも順調に増えていっている。

 おかげさまで客足も寒くなってきた時期なのに好調だ。

 こういうときは新品の服の方が売れるんだろうか?


 いろいろ疑問は抱きつつもお昼は『子蜘蛛の巣』で食べることにした。

 ここも寒い中、店の外に行列が出来ている。

 私たちも最後尾に並び順番を待って店内へと入った。


「いらっしゃいませ。あ、リリィお姉ちゃん!」


「こんにちは。席は空いてる?」


「はい! こちらへどうぞ」


 受付係の女の子に案内されて店の席に座った。

 今日の日替わりは……海鮮ポトフか。

 海鮮ポトフってなに、と感じるかもしれないが、海鮮ポトフなのだ。

 ポトフの中にお魚が入っているやつ。


 ヴァードモイ近郊の港町から新鮮な海魚を仕入れるようになったことで、このお店では新鮮な海の幸を食べられるようになった。

 もちろん、ほかのお店に売っている分も仕入れてきているが、このお店が一番早く買い付けているのでいいものはほとんどこのお店に並ぶことになる。

 シンプルな焼き魚や煮魚の時も多いけど、たまにこういう変わったもののことがあるのだ。

 私はこれにしてみよう。


 料理が出てくるまでの間、今後のことについて打ち合わせをしておく。

 お店の経営自体は私の判断だけで出来るから問題ないけど、問題になるのは魔石集めの方だ。

 いままでは崖の向こうにあったオーガの生息地を狩り場にしていたが、冬の間はオーガがいなくなるらしい。

 そうなると、いままでよりも少し効率の落ちる狩り場か日帰りの出来ない一泊二日程度の狩り場になる。

 だが、ケウコさんとしては日帰りの狩り場を推奨し、一泊であっても野営するのは避けたいようだ。

 理由は簡単で、冬の野営はほかの季節に比べ危険が増すためである。

 寒さで体が冷えることもあるし、吹雪で凍えたり見通しが悪くなったりすることもある。

 それならば、格下のモンスターの生息地であっても危険な場所では野営をするべきではない、というのがケウコさんたちの持論だ。

 もちろん、私も異存はない。


 ただ、そうなると、どうしても魔石の質がねぇ……。

 冒険者ギルドでもタラトでショートカットできそうな場所を含めた割のいい狩り場を聞いてみたけどそんな情報はなかった。

 そうなると、商業ギルドの情報頼りとなるが、こちらはモンスター専門ではないので危険地域の情報しか持っていない。

 赤冒険者が活動できそうなヴァードモイ近郊の場所というのの割り出しをいましてもらっている最中だ。

 どこかにいいモンスター落ちていないかなぁ。


 あ、海鮮ポトフは海鮮風ポトフだった。

 普通のポトフを海鮮風の味付けにして大きなロブスターが添えられているの。

 このロブスター風の甲殻類は特に足が早いらしく地元以外では食べられてこなかった。

 でも、今回魚を買い付けるようになったからってこれも売ってくれるようになったみたい。

 入荷数はかなり少ないみたいで、毎日メニューには並んでいるけど早い時間に売り切れる幻のメニュー扱いなんだとか。

 結構運がよかったのかな?

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