135. 大幅値引きのわけ

 うーん、標準価格が2億ルビスなのに1億2000万ルビスでいいなんておいしい話には裏がありそう。

 でも、アリゼさんが仲介しているってことはそこも含めて調査済みなんだろうしなぁ。

 ちょっと理由を聞いてみるか。


「あの、どうして8000万ルビスも値引きするんですか? どう考えても値引きしすぎじゃ……」


「ああ。実は、発注者から手付金として4000万ルビスをいただいているんですよ。なので、実際の値引き幅は4000万ルビスになります」


 おやおや?

 実際の発注者という新しい単語が出てきた。

 一体どういうわけだ?

 そこのところも詳しく聞いてみる。


「実はその発注者というのが手付金を支払ったものの実際の購入代金を支払えないと言い出しまして……権利破棄の証書も商業ギルド立ち会いの下書かせましたのでこの魔道車は宙に浮いてしまっているのですよ。それで、新たな購入者を探しているのですが……」


「そこに現れたのが私だと」


「はい。いまや急成長を続けている『蜘蛛の綿雲』のオーナー様でしたらこの魔道車も購入いただけるのではないかと」


 いやいや、1億2000万ルビスってそんな簡単にポンと支払ってもいいものじゃないでしょ。

 私の主な収入源は布の販売だし。

 確か、預金額は1億近くなってるはずだけど。


「リリィ様、失礼ながら助言させてよろしいでしょうか?」


「なんですか、アリゼさん?」


「この魔道車があればいままで日帰りでは行けなかった範囲の魔物まで狩って帰ることができます。オーガは素材が牙と角しかないためコンテナを使う理由はありませんが、商業ギルドが知る限り、この魔道車で日帰りできる範囲には全身まるごと素材になる大物も多数存在しています。また一泊二日を想定するなら更に多くの獲物を狙えます。現在の『山猫の爪』の戦闘力は銅級冒険者並みです。よほどのことがない限り遅れは取らないかと」


 おおう、アリゼさんもぐいぐい押してくるね。

 どうしてそこまで押してくるんだろう。


「正直、このクラスの魔道車が1億2000万ルビスで買える機会などまずありません。中古車でよければ買えますが、やはり中古車は整備を頻繁にしなければ故障しやすくなります。魔物素材も狙って動く魔道車は新品をお勧めします」


 ……なるほど。

 そう考えるとお得かも。

 でも、お金はどうしよう?


「この車の購入資金でしたら、商業ギルドからリリィ様のお店を担保に無利子で6000万ルビスまで貸し出せます。たとえタラト様になにかあっても、いまのリリィ様ならなんとかなるはずです。魔物を狩ってその素材を売る利益も出ますしね」


 うー、そう言われると買いたくなってくる。

 どうするべきか悩んでいると、『山猫の爪』のみんなも買うべきだと押してきた。

 いわく、これがあればもっと大物を狩って帰ることができるからと。

 冬の狩り場に困っていたのも事実だし、買うのも悪くないかなぁ……。

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