エピローグ 夏の終わり

362. キブリンキ・サルタスたちを連れて行く準備

 キブリンキ・サルタスたちをヴァードモイに連れ帰って数日が過ぎた。

 連れてきた群れは、それなりに楽しくやっているらしい。


 人里で暮らすことを望んだ子たちは、ヴァードモイに先住している子たちから人との接し方を学んでいる。

 ヴァードモイにいる人たちは、キブリンキ・サルタスたちが街をうろついているのもわりと日常的な光景だから教えやすいようだ。

 ただ、普段は1匹ずつしかいないキブリンキ・サルタスが複数匹まとまって動いているのは不思議がられているみたい。


 開拓をしたがっている子たちは、ヴァードモイ侯爵様から許可をもらってヴァードモイ近郊に新しい畑を開墾している。

 侯爵様もキブリンキ・サルタスたちもどの程度の早さで開墾できるのか確認しているみたいだね。

 これを元に何匹をどこに配置するか決めるそうだ。


 探索班はヴァードモイを中心に広く散らばったようだ。

 キブリンキ・サルタスたちの群棲地があった場所とは少し植生が異なるらしく、いろいろと発見して楽しんでいるとか。

 ついでにモンスターの拠点も潰して歩いているらしいので街道警備にもなっている。

 便利な蜘蛛たちだ。


 あとは各地にどれだけ配備するかを決めるだけ、と考えていたけどそう甘くもないらしい。

 各地に連れて行く必要があるのだ。


「ヴァードモイ侯爵様だけじゃだめですか?」


「だめに決まっているだろう。従魔を貸し出すのだ、契約主が出ていかないでどうする」


 ヴァードモイ侯爵様にまた叱られた。

 各地から何匹貸してほしいかは連絡がきたみたいだけど、やはりテイムされているとはいえどもモンスターはモンスター、恐ろしいものらしいのだ。

 ヴァードモイは先にタラトがいて私がそのあとキブリンキ・サルタスたちを連れてきたから普通に馴染んでいったけど、これから派遣するのはそういった馴染みのない土地ばかりである。

 まあ、要するに、貸してはほしいんだけど安全なのか心配、というわけだね。


 そのため、貸し出す先にはヴァードモイ侯爵様が連れて行くことになったけど、それに私も付いていかないとだめらしいのだ。

 うん、面倒だな!


「なにもすぐに連れて行くわけではない。あちらにも受け入れ準備は必要だ。それに、新人たちはまだ研修中だろう?」


「研修……まあ、研修ですね」


「それが終わってから連れて行く。お前も準備をしておけ」


「わかりました。なにか持っていくものは?」


「ない。必要なものはすべてこちらで手配しておく。お前の役目はキブリンキ・サルタスたちの貸し出しについての書面にサインをすることだ」


「書面……そこまでします?」


「ややこしくなるから書いておけ。それと、お前が手配しているという新車はいつ来るのだ?」


 ああ、新しい魔道車か。

 確か……。


「秋になってそれほど経たないうちに到着するはずです。そろそろアリゼさんのところに連絡が入っているかも」


「では、それの準備ができたあと向かうとしよう。……仰々しい行列になるがな」


「それは……まあ……」


 1回1回ヴァードモイに帰ってくるわけじゃないから、すべてのキブリンキ・サルタスたちを連れ歩くことになるんだよね。

 街に連れて行くほかにも食材探索班も連れて行くから、スタートは300匹くらいの大集団になるんじゃないかな。

 モンスタースタンピードと間違われないといいなぁ。


 その辺はヴァードモイ侯爵様が手を回してくれるだろう。

 私は新車を待って旅の準備だね。

 はぁ、また長く家を空けることになりそうだなぁ。

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