477. 門出の海鮮盛り合わせ

「その魚ですか? まず、虹色に輝いている赤身魚は『煌めきマグロ』ですね。この時期にしか捕れない貴重な魚です」


「この時期にしか捕れない? それってほかの季節はどこかに行くんですか?」


「いえ。ほかの季節は漁だと捕れないほど深海奥深くまで潜っているのだとか。栄養豊富な金錦鯛が海面付近にやってくるこの時期しか浅い場所にいないんですよ」


 おお、そうなのか。

 そして、金色に光っている刺身が『金錦鯛』らしい。

 どちらも脂がのっていてそれでもくどくない絶品だとか。


 それから、真珠のように輝いている貝柱は『薄日のホタテ』というものだ。

 こっちはコリコリした食感とあふれ出す肉汁がたまらない一品らしい。

 さて、早速食べてみよう!


「では、いただきます! まずは煌めきマグロから……うん、脂がのっていて美味しい!」


「煌めきマグロは冷凍すると味が落ちてしまい、長期間保存ができないんですよ。冷蔵でも3日も経てば脂でギトギトになりますから、本当に取れたてのものしか食べられません」


「金錦鯛は……わ!? こっちも脂がのっているけど、口に入れるとほどけてく!」


「金錦鯛の最大の特徴ですね。金錦鯛の肉は厚い皮で覆われていて、皮を外した肉を熱に晒すとものすごく柔らかくなるんです。調理するのにも神経を使う一品ですよ」


「これは簿日のホタテにも期待が……うん! 身がコリコリしていて、噛めば噛むほど甘みが出てきてこれも美味しい!」


「でしょう? 大港でしか味わえない刺身です」


 これは本当に美味しいかも!

 ほかのみんなは、それぞれ焼き魚を食べている。

 なんの焼き魚を食べているんだろう?


「ねえ、アミラ。それ、なんの焼き魚?」


「千日カツオって言ってたよ。……ところで、お刺身って食べても死なない?」


「ちゃんと処理してあれば大丈夫だよ。少し食べてみる?」


「うん! お姉ちゃんにも少しお魚を分けてあげる!」


 私は刺身を一切れずつ譲った代わりに千日カツオの焼き身を少しもらった。

 これには醤油などをかけず、そのまま食べるみたいなんだけど……おお!?


「すごいですね。塩味がしっかりと効いていてうま味が凝縮されている」


「千日カツオも大港の名物です。『千日』と言いつつ、実際には5年以上の個体しか漁で取りません。それより若い個体は実が小ぶりで味が引き締まっていないのです。10年以上の個体は最高級品ですね」


 歳をとった個体ほど高級品なんだ。

 この世界だと海の中にもモンスターが居そうだし、生き抜くのも大変だろうなぁ。


 さて、私はもうひとつついてきた焼き魚を食べることにした。

 半円状……正確には三日月状の焼き魚は大きな魚を輪切りにした様な形をしている。

 一体なんの魚だろう?


「では……おお、箸で押しただけで身がほぐれていく! 味は……ん!? 煌めきマグロだ!」


 味は間違いなく煌めきマグロのそれだ。

 だけど、刺身で出てきた煌めきマグロよりもはるかに脂が多く身の弾力性も高い。

 これ、どこの部分なんだろう?


「それは煌めきマグロのカマですね。煌めきマグロのカマまで入荷しているだなんて珍しい」


「やっぱり珍しい部位なんですね」


「1匹から左右合わせて10食分程度しか取れませんからね。ただ、脂が多いのでだめな人は本当にだめなんですよ」


「あー、私は平気ですけど」


「私だとだめなんですよねぇ」


 コウロさん、もう結構なお歳だものね。

 ここまで脂っこいと食べられないか。


 でも、私は食べきったのでもう少し追加注文する!

 今度はもっと別のお刺身!

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