432. 王弟からの返事とプラファード公爵からの返事

 あの会談からさらに数日が過ぎ、裏では着々と準備が進められているようだ。

 私の護衛名目で付いてきていたプラムさんの部下のひとりがいつの間にかいなくなっていたし、プラファード公爵という人にも連絡が行ったのだろう。

 あとはそちらの動向を知ることと、王弟からの返事待ちである。


「リリィ様、おられますか?」


 自室で振袖の型紙を準備していたら、部屋の扉がノックされた。

 外からかけられた声も聞き覚えがあり、私の接待役をしてくれているメイドさんの声だ。


「はい。どうぞ」


「失礼いたします。ロベラウド公爵閣下がお呼びです。準備ができ次第、応接間に来てもらいたいとのことでした」


「わかりました。道具を片付けたらすぐに向かいます」


「よろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします」


 ロベラウド公爵様からの呼び出しか、いい内容だといいんだけど。


 型紙などをしまって指定された応接間に行くと、すでにロベラウド公爵様とヴァードモイ侯爵様が来て待っていた。

 机の上には手紙のようなものを広げており、それについて話をしているようだ。

 嫌な予感がする。


「リリィ来たか」


「はい。失礼いたします、ロベラウド公爵様、ヴァードモイ侯爵様」


「よい。そこに座れ」


「はい。それで、その手紙って王弟に送っていた手紙の返事ですか?」


「そうだ。奴め、人質の無条件解放と賠償金の要求をしてきた」


 賠償金の要求?

 攻められたのはこっちなのに?


「ヴァードモイが嘘の情報を流し、わざとヴァードモイへ進軍させた。これが王弟の言い分だ」


「……さすがに無理がありませんか?」


「そんなこと、あちらも承知しているだろう。それだけ追い詰められているということだな」


 うーん、なんというか、あの王様の弟って感じだな。

 よくこれまで北部方面を治められてきたものだ。


「それで、ヴァードモイ侯爵様としてはどう動くんですか?」


「そんなものは決まっている。この手紙は無視、捕虜を連れて王弟のいる街まで進軍するのみだ」


「ですよね。ところで……」


「リリィ、ちょっといいか?」


「はい。なんでしょう、プラムさん?」


「プラファード公爵だったか? あやつに出していた密使が帰ってきた。あちらからの返答を持ってきているようなので、この場に招き入れたい。構わぬか?」


 おお、なんというタイミング!

 これにはロベラウド公爵様もヴァードモイ侯爵様も拒否せず、すぐに招き入れることになった。

 それで、扉の外にいるのかと思うと、そうでもないらしい。

 どこにいるんだろう?


「出てきてもよいぞ」


「はい、失礼します、プラム様」


「ひゃっ!?」


 プラムさんの影が伸び、そこから女の人が出てきた。

 この女の人の顔は見覚えがあるし、確かに一緒に来ている護衛のひとりだ。

 影から出てくるなんて能力があったんだ。


「失礼いたします、ロベラウド公爵閣下、ヴァードモイ侯爵閣下、リリィ様。プラファード公爵閣下より親書を受け取って参りました」


「本当か!」


「はい。内容は口頭で簡単に説明されているのでお話しいたしますが、プラファード公爵閣下は妻や子供たちを王弟に人質として取られているため、自由な行動ができないようです。これはプラファード公爵閣下のみならず、プラファード公爵閣下とともに行動してきた貴族全員のようでございます」


 なるほど、家族が人質に。

 それは大変そう。

 ロベラウド公爵様が親書の内容を確認すると、この護衛の人が話した内容をもっと詳しく説明していたみたいである。

 この親書が正しければ、王弟派閥の半数程度は王弟に脅されて行動を共にしているらしい。

 実際に、見せしめとして家族を処刑された貴族もいるみたいだからね。


 でも、これでやるべきことは決まった。

 王弟に捕まっている貴族の家族を助けることで、私たちはかなり動きやすくなる。

 今回に限っては私も狙われているから、手を貸すのも問題ないし、わりと楽に進みそうかな?

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