311. ガレット伯爵領にシャロン様到着

○●○●リリィ


 ガレット伯爵領に着いてから10日が経過した。

 私としては早く帰りたいし、帰りの鳥便も用意されているそうなんだけど、帰ることができない。

 ガレット伯爵家の兵士たちを縛り上げている糸がタラトの糸だからだ。


 最初はキブリンキ・サルタスたちの糸に替えてあって私たちは翌日に帰ることになっていたんだけど、別のガレット伯爵家兵士が捕まっているガレット伯爵家兵士を助け出そうとしたことからタラトの糸の拘束に戻した。

 キブリンキ・サルタスたちの糸は炎で炙っていると溶け出すんだけど、タラトの糸はそもそも切ることが不可能だからね。

 キブリンキ・サルタスたち糸を溶かすにも、捕まっている本人が大やけどをしそうではあるけども。


 ついでに言うと、今回の件の首謀者であるガレット伯爵家の長男坊も私が捕まえている。

 コニエ村で酒盛りをしていたところをまとめて捕まえていたらしい。

 分別して話を聞くまで気付かなかったよ。


 そういうわけで私の帰還もキャンセルになり、10日間が過ぎたわけだ。

 ああ、早く帰りたい。


「リリィ、暇そうじゃな」


「暇ですよ、プラムさん。プラムさんは暇じゃないんですか?」


「儂も暇じゃな。リリィも布がなければなにもできないからのう」


「こんな長期間になるとわかっていれば布もたくさん持ってきていたんですけどね」


 布があれば耐暑用ベストくらいは作れたんだけどなぁ。

 さすがにショーツは外で作れないから作らないけど。


 やることがなくて空をみていたら大きな鳥が飛んできた。

 あれって鳥便じゃないかな。

 それも私たちが乗ってきたものより大型のやつ。


 鳥便はどうやらコニエ村の外に降り立ったらしい。

 どこの鳥便だろう?


「大変だ! シャロン殿下がお見えになったぞ!」


「なぜこのような小競り合いにシャロン殿下がやってくるのだ!?」


「わかるか! とにかく、ごあいさつに行くぞ」


 シャロン殿下?

 ああ、今回の原因を作ったシャロン様か。

 私もあいさつに行った方がいいのかなぁ。


「リリィ、あいさつには行かぬのか?」


「私が積極的に行く理由もないかなって思いまして。必要なら呼ばれるでしょう」


「……それもそうか」


 私たちはまた空を見上げる。

 視界の端に移ったコニエの実が赤く色づいていて美味しそう。

 あれは完熟していて食べ頃だな。

 アミラへのお土産としていくつかもらって帰ろうかな?


「リリィさん、こちらにいましたか」


「あ、ギャンさん。どうかされましたか?」


「シャロン殿下がお呼びです。一緒に来てください」


 うーん、呼ばれてしまったか。

 それなら仕方がない、行くとするか。

 あまりあの人、好きになれないんだよなぁ。


「来たか、リリィ! なにをしていた!」


「シャロン殿下。私は関係ないと思い、空を見ていました」


「お前が関係ないはずなかろう! お前が買った木がそもそもの問題なのだぞ!」


 シャロン様はすごい剣幕で怒鳴りつけてくるけどたいした問題ではない。

 だって、許可をくれたのはシャロン様だし。


「お言葉ですが、シャロン殿下。今回の件についてはマクファーレン公王家にヴァードモイ侯爵家がお伺いを立て『好きにしてよい』と公式な返事をいただいております。私はその返事を受けてからコニエの木を買い取りました。それのなにが問題なのでしょう?」


「くっ、それは……」


「他領にある果物の木の権利だったため、マクファーレン公王家にお伺いを立て問題ないと判断されたのです。それに異を唱えたのはガレット伯爵家、問題があるのはガレット伯爵家でしょう?」


「う、うむ。そうだな……」


「でしたら、私を責めるのはお門違いです。そこははき違えないでください」


「わ、わかった」


 よし、これで私が取った行動に問題がないことの言質は取った!

 やっぱりシャロン様って政治には向いていないんじゃないかな。

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