310. 一方その頃のヴァードモイ侯爵は
○●○●ヴァードモイ侯爵
ヴァードモイを出発し、高速馬車でマクファーレンまで3日、先触れを出しておいたのにお目通りまで3日か。
もうすでにガレット伯爵領で起きている一連の出来事は終わっているだろうな。
さて、どう切り出したものか。
「待たせたな、ヴァードモイ侯爵」
「急なお願い、かなえていただきありがとうございます、陛下」
「……形式張ったあいさつはこの程度にしておこう。本日の用件はなんだ?」
さすがはマクファーレン公爵陛下だ。
目つきの鋭さが違う。
だが、今回の件は我が家が一方的に被害を受けたもの、引き下がるわけには行かぬ。
「はい。先日、ガレット伯爵領にあるコニエの木を私とリリィで購入したところ、ガレット伯爵の長男がその木を強制的に徴収、さらに私たちが支払った代金まで奪おうとしたためガレット伯爵領に出兵したことのご報告にあがりました」
「ガレット伯爵領に出兵だと!?」
「はい。ガレット伯爵領に少数ながら兵を派遣いたしました」
「待て、ヴァードモイ侯爵。そなた、正気か?」
「もちろん正気でございます。マクファーレン公王家より此度の件は『好きにしろ』と先に承諾を得ておりました故」
私は懐から一枚の書状を取り出す。
先にマクファーレン公王家より私に届けられた書状だ。
マクファーレン公王陛下はそれを手に取り何度も読み返すと、その書状を机に叩きつけた。
その顔は怒りで真っ赤に染め上がっている。
「あの馬鹿息子が! 寄子であるガレット伯爵家の件をないがしろにするとは! しかも、『コニエという木、およびそれにまつわるすべての件はヴァードモイ侯爵家の好きにしてよい』と本当に書いてあるではないか! これではなにかあったとき、ヴァードモイ侯爵家がガレット伯爵家に介入することを許したことになるぞ!」
「はい。その約定に従い、我が家の資産を守るために出兵いたしました」
「兵の規模は! いくら約束があるとはいえ、規模が大きければ領地間の抗争となるぞ!」
「兵は24名ほどです。それから、共同所有者であるリリィとその護衛、従魔たちが出向きました」
「リリィ、あの娘か。……まて、その娘の従魔ということはタラチュナトスが動いたのか!?」
「そうなりますね。兵の数は少ないですが、一地方領主のドラ息子が所有する兵力を制圧するならば1日で可能でしょう」
今度はマクファーレン公王陛下の顔色が焦りからか顔色が変わった。
普段はポーカーフェイスを貫き通すお方といえど、今回はそうもいかないようだ。
「それで、いつ出兵した!?」
「私がヴァードモイを出発した2日あとです。鳥便で出発させましたのでガレット伯爵家まで2日、そのあと制圧に1日。もう昨日にはすべて終わっていることでしょう」
「くっ……兵を引かせることはできぬのか」
「再びコニエの木、およびその木がある村の住民が危険にさらされる危険性がありますので難しい相談です。また、ガレット伯爵領の商業ギルドからも我が家に派兵要請が来ていましたので派兵しております」
「商業ギルドからもだと!? ガレット伯爵はなにをしている!?」
「さあ、それは私にも……」
本当になにをしているのだろうな。
自分の領土に他領の兵が駐屯しているなんて気が気でないと思うのだが。
「わかった。今回の件はすべての原因となった息子を責任者として現場に派遣する」
「よろしいのですか?」
「自分の選択について責任を取るのも為政者の責任だろう」
「かしこまりました。それでは、私は不公平な決を下されないようお供いたします」
「好きにせよ。それから、ガレット伯爵家長男は次期当主だったはず。今回の件の責任を取らせ廃嫡とし謹慎処分とさせる旨の書状を書く。少し待っていろ」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「まったく。余計な人物に自由裁量権など与えおって」
本当にうかつなお方だと思いますよ、シャロン殿下は。
これでは外交で足を取られかねない。
今回の件はいい教訓になったと思わなければなりませんね。
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