398. 配布旅終了

 長かったキブリンキ・サルタス配布の旅も終わり、私たちはヴァードモイまで戻ってきた。

 途中、サルタス商会との契約を結んでいないところとは契約を結んできたけど、そっちもほかのところで前例ができていたからスムーズに終わったね。

 楽なのはいいことである。


 そんなわけでヴァードモイに戻って一晩休み、再びヴァードモイ侯爵邸に全員が集まる。

 今回の旅の総括をするためだ。

 開口一番、ヴァードモイ侯爵様が開始のあいさつをすると今回の旅の成果を報告した。

 少々やりすぎではあるが、概ね十分であると。


「キブリンキ・サルタスたちによって農業開発が進み、開拓地が広がれば税収も増える。それに畑一区画あたりの収穫量も増えるだろう。結果は来年になってみないとわからないだろうが、ひとまず様子を見よう」


「はい。ところで、サルタス商会ってどうしましょうか?」


「いや、お前の商会だぞ、リリィ。お前の好きなように……ああ、あまり好き勝手やられて周りと衝突されてもまずいのか。どのような事業を考えている?」


「そうですね。まずは、キブリンキ・サルタスたちが食べるお野菜の調達でしょうか。お野菜が豊富に取れている地域から買い取ってキブリンキ・サルタスたちのいる場所へ運びたいと思います。あとは、私も戻りましたし、ジュネブの孤児院へ衣料品などの配送ですね」


「野菜の調達か、それは少し待ってほしい。私の方でまとまって購入させてもらう。その一部を各地に散ったキブリンキ・サルタスたちへの報酬へ割り当ててくれ。ジュネブの孤児院への支援は任せる」


 お野菜の調達は止められた。

 私が個人で買うことにより、地域の相場が上がりすぎたり私の発言力が大きくなりすぎたりしないための措置らしい。

 私としても偉くなりたいわけじゃないので、お野菜の調達はヴァードモイ侯爵様に任せるとしよう。

 うまく進めてくれるはずだ。


 孤児院の支援は好きにやっていいそうなので、手始めに服を大量生産して届けよう。

 一緒にジュネブ子爵に手紙を送り、孤児院の補修について見積もりをとってもらう。

 値段についてはあまり気にしないけど、手抜きをされても困るので、貴族としての面子が保てるような業者を紹介してもらうとしようかな。

 費用は商業ギルドの私の口座から引き出してもらえばいいんだし、そこまで難しい問題じゃない。

 あとは……子供たちに教育をするための先生か。

 さて、どうしたものか。


「子供たちの教育か。さすがに貴族向けの家庭教師なら知っているが、一般市民、それも孤児院の子供に教育を施してくれる教師がいるかはわからないな」


「やっぱりヴァードモイ侯爵様でも難しいですか」


「まあ、貴族の家庭教師というものは貴族としての生き方や考え方を指導してくれる教師でもある。そのため、いまは一般市民であっても元貴族家の者も多い。彼らが孤児院の指導者に相応しいかと聞かれると、さすがに疑問が残るな」


「うーん、貴族としてのあり方を教えてほしいわけじゃないですからね」


「アリゼ、商業ギルドの伝手はどうだ?」


「なくはないですが、そういった方々はすでに私塾を経営されています。暮らしやすく稼ぎもよいヴァードモイを離れてくれる方が見つかるかどうかは」


 うーん、こっちをすぐに見つけるのは難しいか。

 教育を施すのも急がなくちゃいけないけど、すぐというわけにもいかなさそうだ。

 こっちも気長に探そう。


 なにはともあれ、ひとまず秋の大仕事は終了。

 サルタス商会で使う魔道車の用意とか人の手配とかやることは山積みだけど、ひとまず休憩かな。

 どこかで息抜きとかしたいなぁ。

 ……旧国の北側は戦時中だし無理か。

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