061 せいぜいあの子と仲良くしてくださいな
「ということがあったの」
レナはいつもの通り文通相手のエミルちゃんに手紙を書いているところだ。
いや、本当に大変だったな。
レナにした事の重大さを考えると軽いような気もするが、まだ若いから再起のチャンスを与える必要があるとも思うので、複雑な気分だ。
まあ当のレナは全く気にしていないようなので、これ以上俺がどうこう言うのもよくない。
ファンクラブ会員達は皆厳重注意となった。矢文を撃ち込んだ会員もレイキにそそのかされたことと、レナからの希望もあって同じく厳重注意。
ただしファンクラブは解散し、再結成することは禁じられた。
今後はまっとうに頑張ってもらいたい。
だがレナは渡さないけどな!
レナは手紙を書き終えると、いつものとおりキャリースパロウに手紙を持たせて飛び立つ姿を見送った。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
――――ルーナシア王立学校内の一室
「本当に決意は変わらないのかい?」
窓が締め切られた薄暗い部屋。
以前と同じようにその部屋の中には3人の男女がいた。
相変わらず一人の姿は影に隠れる形となって判別がしにくいが、残りの二人、一人は茶色のくせっ毛の男子、そしてもう一人は特徴的な4つの縦ロールを兼ね備えた女子だ。
「はい。俺の事をかってくれたことには感謝します。ですが元よりそのつもりでした」
「ドリルロール君も同じかな?」
「ええ、わたくしも
「決意は固いようだね。分かった。ジルミリア・ノイエンバッハ及びクリングリン・ドリルロール両名の
「「はっ」」
二人は声をそろえて返答し、深々と礼をして部屋を後にした。
「まさかお前の目的もレナのファンクラブ壊滅だったとはな。理由を聞いてもいいか?」
「別に隠す事ではありませんわ。わたくしはただあの子のファンクラブが憎かっただけの事。わたくしにはファンクラブがありませんし。わたくしに無いものがあの子にあるのが許せなかっただけですわ。決して、あの子に危害が及んで正々堂々の勝負で勝てなくなったら困るとか、思ったりしてませんのよ」
「なるほどね。分かったような分からないような」
「分かっていただく必要はありませんわ。あなたこそ惚れたあの子のためにファンクラブを壊滅させようなんて、いじらしいんですのね」
「だからあいつはそんなんじゃないって。ちんちくりんだし、うるさいし」
「はいはい、そういう事にしておきますわ。まあこれであなたとお会いすることもなくなりますわね」
「そうだな。お互いまた己の道を行くだけだ。お前には世話になった。ありがとう」
「あらあら、素直ですこと。わたくしもあなたには助けていただきましたわ。おあいこですね。それでは。せいぜいあの子と仲良くしてくださいな。ライバルが減るのは喜ばしいことですので」
「だからそんなんじゃないって」
「ふふっ」
「ふふふ」
自然とお互いに小さな笑いが起こった。
そしてお互いが背を向けて別々の方向へと歩き出した。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
『レナさんはそのジミーさんの事をどう思ってらっしゃるの? お話を聞く限りでは相手はレナさんの事を好いてらっしゃるような感じですが。そこのところもお聞きしたい所ですね。ちなみに私は同年代の男子には興味がありませんの。大きな包容力と優しさを兼ね備えた大人の方、そう叔父様のような方が好きですわね』
おーおー、お嬢様達の恋バナだよ。
そして俺は手紙を覗き見ているわけではなく、レナが見せてくれてるのでデリカシーのかけらもないという訳ではないからよろしく。
「ジミー君がレナの事を好きなんじゃないかってエミルさんは言うけど……そんな風には見えないよね。昔からレナにいじわるしたり……あ、思い出した。手に隠したカエルさんを見せてレナをびっくりさせたこと忘れてないから!」
ぬぬぬ、とうなりながらジミー君との過去を回想しているレナ。
俺から見るとジミー君がレナを好きなのは一目瞭然であって、久しぶりに再会してもそれは変わってないようだった。
レナはジミー君の事をどう思ってるんだ?
この前はピンチにかっこよく登場したけど、好きになったりとかしたか?
「ジミー君の事かぁ。あんまり好きじゃないかな。たまに助けてくれることもあるけど、やっぱりいじわるな人は嫌い。安心してスー。レナが一番好きなのはスーよ。だからレナと結婚してね」
うーん、いつものレナだ。
俺を好いてくれてるのは嬉しいのだが、人間とグロリアが結婚できるわけはないので、いつまでもおこちゃまのような事を言っていてはいけない。
ミイちゃんナノちゃんも、二人が考える最高のシチュエーションは持っているみたいだったけど先輩であったり幼馴染であったりと恋愛観を生育させているようで、それでいて結構現実的な結婚観を持っているようだった。
レナもいずれはそうやってどこかの男の子を好きになって結婚するのだとは思うけど、それはそれで俺の気持ちは複雑だな。
俺離れして欲しいという気持ちと、俺以外の誰かの方をレナが向いてしまうという寂しさと。
まあ世のパパ達がみんな通る道なんだろうな。
百歩譲って誰かと結婚することになったとしても、そんじょそこらの男にレナは任せられないね!
かぐやひめの無理難題を解決するくらいのそういう意気込みを持って、お金持ちで紳士で、顔は、まあ並み以上あればいい。
そんなナイスガイが現れるまでは俺がレナを守っていくぞ!
「どうしたのスー?」
そんな俺の思いを知らず、レナは俺の体を覗き込んでくる。
何でもないよレナ。
ほらもう夜も遅いぞ。寝よう。
「はーい。さあスー、こっちにおいで」
ベッドに入ったレナが俺を呼ぶ。
俺はレナの温もりを感じながら、今はまだこのままでいいかなって思うのだった。
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