106 ニノ・コグナス

 さて、ここからだ。今の状態がレナの言うあれ・・というやつだ。

 俺達がこの選抜試験のために準備した特訓の成果の一つ。

 ニノ・アグナとレナが名付けた、レナからゼロ距離で輝力供給を受けるための闘法だ。

 膨らんだ俺の体の中にレナを入れて、ヒューマンイーターよろしくその輝力をすべて力に変える。そうすることで俺の輝力不足を解消しようと言う訳だ。

 現に俺の体内に輝力は満ち溢れ、すでにダメージの再生は終えている。


 だがこの闘法ニノ・アグナには欠点がいくつかある。

 1つ、俺の体が大きくなるので的になってしまうこと。

 2つ、中にレナもいるので動きが鈍くなってしまうこと。

 3つ、体温を灼熱状態に上げれないこと。

 そして一番の問題が、レナがフィールド内にいるのでとぉぉぉぉぉぉっても危険なことだぁぁぁぁ!


 欠点まみれであるが、輝力を回復し終えたからさあ出て行ってくれとはならない。

 騎士ルールでは一度フィールドに入った契約者マスターがフィールド外に出ると戦意喪失とみなされて敗北するルールなのだ。


「スー、体温を上げて。このままじゃ勝てないわ」


 でもそれは危険だってさっきから!


「危険なだけで出来ないわけじゃないんでしょ。やりましょ。レナ、クリングリンさんに勝ちたいの。それにレナ今嬉しいのよ。スーと一体となって文字通り一緒に戦えるんだから。

 今までずっと、それこそレナとスーとが出会ってからずっとスーばかりに戦わせてしまって……何度も何度もスーは傷ついて……。

 でもこれなら痛いのも辛いのも一緒。スーの痛さも辛さもレナが分かってあげられる。でも痛いのが好きなわけじゃないのよ。スーと一緒っていうのが何よりも重要なの。そうやって全部分かち合って、それで一緒に勝つの!」


 ああもう。もう。もう。


 もうもうもう!


 そこまで言われたらやらないわけにはいかない!


 俺は意識的にレナが触れる部分とそれ以外の部分を分ける。そしてその境界線に熱を遮断する物質を配置する。先ほど体温を上げ切った時に熱が外に漏れないように遮断した方法と同じだ。

 そして境界の外側を温めていく。急速には上げない。念入りに念入りに間違いのないように、それでいて高温に。


 レナ、じっとしておいてくれよ。

 動かれると境界が崩壊しかねんからな。


 そうして体温を上げ切る。

 内側はひんやり、外側はあっつあつの状態が完成した。


「それで準備は完了かしら?」


 待ちモードのクリングリンさん。お待たせして申し訳ない。


「見た所、動くことは出来そうにないですが、そんな状態でわたくしに勝てるとお思いなのかしら?」


 クリングリンさんは知らないんだよ。おれの最強の必殺技を。

 今の俺はまさに固定砲台。レナからの源泉かけ流し状態の潤沢な輝力でフレイムブリンガー最強の必殺技を連発して勝つ!


 そうだよな、レナ。


「違うわよスー」


 えっ!? 違うってどういうことだ!?

 砲台じゃないの?


「動けないと負けてしまうわ。多分だけどあの金色の鎧に遠距離攻撃は効かないと思う。だからその戦法だったら負けちゃう。動けないと勝てないの」


 で、でも、レナも中に入ってるし、バスケットボール大の時ような素早い動きは出来ないぞ?


「鎧よスー! 鎧になって!

 出来るでしょ、体積を縮めて密度を上げて、レナにぴったり張り付くようになって、それでいてシュルクコーチの全身鎧みたいに体を保護するの」


 そしてその後レナは口を閉じ、その考えを俺に伝える。


 『鎧状になればレナが動くことが出来るわ。でも、レナ運動神経に自信はあるけどクリングリンさんのように華麗に動くことは出来ないわ。動けるようになったとしても翻弄されて負けちゃう。だからがっしりと組みあって、あとはパワーで押し切るの。レナだけじゃない、レナとスーのパワーで!』


 なるほど短期決戦ね。お嬢様的でスマートな勝ち方だ。だけどレナ、レナも言っているとおり、華麗に動けるクリングリンさんが素直に組み合ってくれるとは思えないぞ。言いにくいけどレナの動きじゃクリングリンさんを捕えることは出来ないと思う。


 『そこはスーに頼らせてもらうの。クリングリンさんだってあの鎧の能力でスピードを上げてるんでしょ?』


 いや、まてまてまて。あちら側の鎧はそう言った身体能力強化能力があるけど俺にはそんな能力は無いぞ?


 『一瞬でいいのよ。爆発的な推進力を一瞬だけ、クリングリンさんに触れるまでで』


 なるほど分かったぞ。こう言いたいんだろ、足の裏で爆発を起こしてその推進力でクリングリンさんへと取り付く。


 『そうよ、そうそう。そんな感じ! クリングリンさんに触れたら目的は達成。私もがっちり掴むけど、スーは表面にくっつく粘液を塗っておいてね。これで二度と離れないよ』


 OKだ。後は俺達二人の力を高めてクリングリンさんを押し出すんだな。


 『そのまま一緒に場外に出る勢いで行くよ! 先にクリングリンさんが出てしまえばレナ達の勝ちよ!』


 作戦会議が終わり、俺は体を変形させて鎧状になっていく。

 鎧状と言えば聞こえはいいけど、実際はレナの体に合わせて縮んで人型になっただけなので、肩パッドや胸当てがあるわけではない。なので見栄えは今一つだろうな。多分着ぶくれしたような感じになっているだろう。

 でもこれが限界だ。俺の体温を上げたままレナの体に熱を伝えないようにするにはこの大きさと形状が今の限界。


 そうだな、名付けるなら灼熱炎舞の闘法だな。


 『スー、今この状態に名前つけたでしょ……。はっきりとは分からなかったけど、ちょっとレナのセンスには合わないかなって』


 センスの事を問われましても……。

 そうしたらお嬢様、素敵な名前をお付けください。


「そうね……この状態はニノ・アグナの強化版よ。その名は、ニノ・コグナス!」


 ニノ・コグナス。ああカッコいいじゃないか。

 分かった、灼熱炎舞の闘法ニノ・コグナスだな!


 さあ準備完了だぞレナ。

 レナからの合図で足裏を爆発させる。いつでもいいぞ。


「クリングリンさんお待たせしたね。準備は完了よ」


「ええ、待ちくたびれましたわ。でも本気のあなたと戦いたいからいくらでも待ちますわよ」


 二人はそこで口を閉じ、じっとお互いを見つめる。

 クリングリンさんは攻撃姿勢で構え、こちらの隙を伺っている。

 レナもそれをまねて構えている。俺達の次の手を悟られないようにだ。


 無言のまま十数秒が過ぎる。

 クリングリンさんの僅かな動作も逃さないように気を張っているので途方もなく長く感じる。攻撃のタイミングはレナに任せているのでその合図も逃してはならない。俺としては両方へ注意を割いておかなくてはならないのだ。


「そこですわっ!」


 慣れない姿勢を続けたためかレナの体が僅かに揺れた。それを好機とみてクリングリンさんが拳を前にして突っ込んでくる。


 そんな様子にレナの口元が僅かに上がった。

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