162 あなたのチルカ
パチパチパチパチと手を叩く音が聞こえる。
「感動的な話だった。
ケロライン……やはりお前のような腑抜けにはもったいない。再び俺の嫁としてもらい受けよう」
芝居がかったような大げさな拍手とセリフ。
オランドットは一部始終を見届けた後、二人の世界へと割って入った。
「ふざけるなよ。お前なんかにケロラインは渡さない。ケロラインは俺の大切な相棒だ!」
「ますたー……」
水を差された格好のウルガーは、この期に及んでまだそんな事を言うのかと敵意を露わにし、そんなウルガーの様子を見たケロラインは心に温かなものが広がっていくことを感じて目を潤ませる。
「それは十分に分かったさ。美しい絆だ。
だが……だからこそ奪いたくなる。ケロラインという最高の女を、その絆を断ち切って奪う事でさらに俺に相応しい嫁となるのだ」
「フン、話すだけ無駄なようだな。その口、二度と開かないように叩きのめしてやる」
「出来ると思うのか?」
オランドットは話しながら歩を進め、ゆっくりと間合いを詰めて来る。
ウルガーは抱き留めていたケロラインを自身が身に着けていた赤マントにくるむと地面にゆっくりと寝かせ、近づいてくるオランドットを迎え撃つために立ち上がろうとする。
「ぐっ!」
だが、立ち上がることはかなわず、うめき声と共に地面に膝をついた。
「ほらな。お前はケロラインとの戦いでダメージを負い過ぎた。好きな女に強がりを言う気持ちは分からないでもないが、あれだけケロラインの攻撃を受けたんだ。ただで済むはずはない。極めつけは最後の技だ。あれだけ大威力の技を放ったんだ。技の反動が大きいのは自明。案の定、お前は立ち上がることも出来ない」
なおも間合いを詰めるオランドット。
「どうした? ケロラインに助けを求めるか? お前は人間だ。グロリアに頼ってもいい。お前が無様にもそうするというのなら少しくらいは待ってやろう」
「ふざけるなっ!」
「強情なやつだ。なら仕方がない、そこで成す術も無く俺にやられるといい」
もはやオランドットは目前だった。だがヤツから目を逸らすわけにはいかないと、顔を上げて睨みつけるウルガー。
都合のいいサンドバックであるかのように、この顔をねらって回し蹴りの一つでもこようものなら、顔面にヒットした後、噛みついてでもこいつを引きずり倒してやる。
自分がたとえ死んだとしてもケロラインには指一本触れさせてなるものか。
そう思っていた矢先――
――ドウッ
「背中……」
憎らしい髭面の男を映していたウルガーの瞳は突如現れた背を捉えた。
轟音と共に目の前に現れた少女の背中。
自分の半分ほどしか背丈の無い小さな少女の後ろ姿。
見上げた
「ウルガー様、後は私が」
今まさに戦いが始るという寸前で二人の間に割って入ったのは、ウルガーの
◆◆◆◆
ふう、間一髪だったなレナ。
俺とレナが戦っていた二人。
あいつら結構厄介で、引きはがすタイミングがなかなか取れなかったのだ。
なんとか隙を作りだして、俺はレナを体内に取り込んで。そして思いっきり跳躍してウルガーと髭おやじの間に割って入ったってわけだ。
着地と同時にレナを後方に排出した俺は今、すべての攻撃に身構えている状態だ。
「驚いたよお嬢ちゃん。あの二人を相手にしてまだやられていなかったどころか、出し抜いて俺の目の前にやってくるなんてな」
そう言うと髭おやじは俺から視線を外し、俺達の遥か後方を見やった。
「おい……危ないから下がってろ。こいつは俺がやる……」
おいおい何を言ってるんだウルガー。
ボロボロじゃないか。そんな体では戦うどころか立ち上がることだって無理だろ。
意地を張る場面じゃないぞ。
ケロラインだってお前が頑張ってくれたのは分かってるはずだ。
「冷静になりなさい自由騎士ウルガー。あなたは傷つき、相棒のケロラインは倒れ、もはや戦う事などできません」
いつもと違うレナのよそ行きの声だ。
目は前方の髭おやじを見据え、背中の後ろのウルガーへと語り掛けている。
「しかし」
「ここであなたが倒れたら誰がケロラインを守るのですか?」
「だがな」
「私が信頼できませんか? 私ではあなたを守ることは出来ませんか?
ケロラインに比べると長い間お仕えしたわけではありませんが、私の誠意は、想いは、これまでの行動で示して来たつもりです。
私は
「あぁ……その通りだ。すまなかった……。
任せたぞ、
「ええ、任されました。しばらくお休みください」
今ウルガーが……ウルガーが初めてレナの名前を呼んだぞ!
今まで「おい」とか「お前」とか言っていたウルガーがレナの名前を!
「さて、そこの軟弱騎士の代わりにお嬢ちゃんが相手をするってことでいいんだな?」
お待たせしました髭おやじさん。
それなりに年を食ってる大人の余裕ってことだろうか。
「お手柔らかにお願いします。なんならこのままお引きいただいても結構ですが?」
おっと、レナのよそ行き声が続いてる。
これは怒っている時の声だ。せっかくウルガーに認めてもらってテンション上がってる時に
――ダンッ
「待ちなさい、お前の相手はこの私です」
上空から
しなやかな尻尾が着地の衝撃を吸収したのか、着地音は耳を押さえたくなるほどの轟音とはならなかった。
「そうよそうよ、逃げるなんてずるいじゃない」
先ほどまでミーシャを掴んで上空を自由自在に舞い、高機動力を見せていた
彼女も髭男を守るため地面に降りて来て……二人して俺達の前に立ちはだかる。
「どうだこの二人は。可愛いだろう。命を賭して俺を守ってくれる。つまりは俺への愛の証だ。ケロラインもその資格がある。
そこのスライムはオスだったな。オスには興味が無いから見逃してやってもいいが……俺の計画を邪魔するというのなら倒させてもらう。
行け、ミーシャ、スピカ!」
蛇の下半身をくねらせながら迫る
左右同時攻撃を狙っているな。
舐めるなよ。ケロラインとウルガーがこれだけ頑張ったんだ。
俺の思いも
うぉぉぉぉ、コズミックバスタァァァァァァァァァァ!
地面を蹴り勢いよく跳ねる。
暖められた空気が膨張し俺の加速度と相まって轟音を上げる。
体温を上げてスライム細胞を極限まで活性化させて放つ超強力な体当たり。かつてサンロードスライムだった時の必殺技の一つだ。
今の俺は練りに練って増殖しまくった輝力を爆発させることが出来る。つまりはコズミックバスター2だ!
高温高速のスライム体が、俺の質量より明らかに大きいであろう
きりもみしながら吹っ飛んでいった二人を尻目に俺は着地で決めポーズ。
どうだ! 手足は無いけど気分は決めポーズなんだよ。
「ミーシャ! スピカ!
な……なんなんだあのスライム。輝力がバカでかいぞ!?
今までは力を押さえていたというのか? あの二人を相手にだぞ?」
まあそうなるな。ウルガーがケロラインを助けるまで俺達はあの二人を足止めできればよかったからな。驚くのも無理はない。
だがもう手加減は必要ない。
俺の大切な仲間を
覚悟しろよ!
「き、輝力の大きさがさらに上がっていくだと!? この輝力、スライムが発していい量じゃない。Aランク……いやSランクグロリア級だぞ!?
なんなんだあのスライムは!?
ま、まさか、
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