163 くさだんごを食べるモノ
「ま、まさか、くさだんご!?」
なにっ!?
今何って言った? くさだんごって言わなかったか?
「そ、そうだ、間違いない。あの色。ただの
「くさだんご? スーの強さに怯えて幻を見てるのかしら」
これは確定だ、やつは俺の事を知っている。
つまり俺と同じく【神カンペ】を見る事の出来るやつか、もしくは【神】そのものか、だ!
「こいつがくさだんごだというのなら、ミーシャとスピカの二人では荷が勝つのも仕方がない。
だが、正体が分かればどうと言う事は無い。なぜなら……」
なんだ? あいつ、急に落ち着き払って……。
髭の男はすーっと息を大きく長く吸い込むとそのまま肺へと留める。
僅かに生まれた静けさ。その瞬間、男の腕が膨らみ上がるとバツンと衣服がはじけ飛んだ。
それは腕だけにとどまらず、胴、足、頭と、体のすべての部位がゴワゴワと膨らみ始めたのだ。
レナ、もっと下がって。距離を取るんだ。ウルガーも!
「ウルガー様!」
俺の意図をしっかり理解してくれるレナ。
背中で束ねた金色の三つ編みがぐいっと前後を変えて揺れ動くと、そのまま俺の後方へと走ってウルガーの元へと向かい、ヨロヨロのウルガーとケロラインを支えてその場からさらに遠ざかるとカバンから取り出したグロリア用傷薬をウルガーに渡す。
そうして急いでこちらへと戻ってきて、俺に指示をだすための適切で最大限な距離のベストポジションに位置取ってくれた。
さて、こいつは人間じゃない。それは間違いない。
俺は変貌を遂げ続ける相手の様子をうかがう。
太くなり続けている両手。男はそれをズダンと地面に付くと、次はモリモリと背中の肉が膨らみ上がっていく。
これはあれだな。ゲームでいうところの魔王が本来の姿に戻る的なやつだ。
もちろんこの間に攻撃することもできるのだが……それは
現にこいつだって俺達が大事なシーンの時に、かなり空気を読んでくれていた。それを俺達が乱すのは良くない。
それにそんな事をして、いずれ騎士になるレナに土を着けたくはない。
レナが、俺達が目指す騎士の姿は正々堂々と悪を打ち滅ぼすものだからだ。
そんな思いで相手の変異を見届けていたのだが、どうやらそれが終わったようだ。
最終的にどうなったかというとだな。
全長は5mくらいの中型ボディで四足歩行、細長くスリムなバクのような顔をしており、その先端にはゾウのような長い鼻を持っている。丸太のように太い手足にはギラつく鋭い爪が光っていて、その体に鱗の類は無く、硬質そうな皮膚が身を守っているだけだ。翼は無いから飛行はしないだろう。
さて、なんなんだこいつは。
神カンペに載っているグロリアの中にはいない。
『スライムイーターさ』
!?
今のは、念話? ナバラ師匠と同じ念話を使うのか?
『俺の楽園をぶっ潰したスライムの情報を見たときは驚いたよ。まさか神達が肩入れする化け物のようなスライムがいるなんてな。お前の存在はいずれ俺の計画を進める際にぶつかる最大の障害になると思っていた。まあ、まさかそれが今だとは思わなかったがな』
間違いない、こいつは【神カンペ】を見ている。
俺の楽園ってのは……なんだ?
「お、オランドット様……」
!?
今、なんて言った?
レナ、聞こえたか?
変貌を遂げたヤツの後方、先ほど吹っ飛ばして戦闘不能になっている
「うん、聞こえたよ。あの蛇の人、オランドットって言ったわ」
聞き間違いじゃなかった。
オランドット。その名前は浮遊大陸クシャーナで司祭のマフバマさんが語った行方不明の旦那さんの名前。
本人なのか? それとも同じ名前の他人なのか?
本当にこいつがリゼルの親父さんなのか!?
――ずごごごごご
うわっ! なんだ、あの鼻、勢いよく空気を吸い込み始めた!
まるで吸引力の変わらない唯一の掃除機。あれの比ではない吸引力が俺や後方のレナを吸い込もうとしている。
砂が、岩が、あの鼻の中に吸い込まれて消えていく。
ウルガーは……大丈夫そうだな。しっかりとケロラインを抱きかかえて何があっても対処できる体勢だ。
よし、
何を企んでいるのかは知らないが、そのデカい図体に一発ぶちかましてやる!
俺は強力な一撃を放つため、高めていた輝力をさらに増殖させようとするのだが……。
なんだ、体が重い……輝力が足りない?
どういうことだ。輝力が吸われているのか?
いや違う……これは……輝力増殖が出来ていない!
『はははは、これが無限輝力増殖か。素晴らしいな』
どういうことだ!?
『お前の力を吸って奪ったのさ。そら、自分の姿を見て見るがいい』
「スーの色が!」
色?
俺の色がどうしたってんだレナ?
って、あーっ!
緑色から赤に……
まさか……。
もう一度無限輝力増殖を試してみるが、俺の体の一部はそれに耐えきれずに破裂してしまった。
こ、これはもしかして、いや、言うまでも無く俺は
レナ! あいつはヤバイ。一撃で決めるぞ。すまんがありったけの輝力をよこしてくれ!
「わかったわ!」
レナから大量の輝力が流れ込んでくる。無限輝力増殖を覚えてからは久しく無かった感覚。それはつまりレナに無理をさせているということで……。
すまんなレナ。戦いが終わったら俺の体をウォーターベッドにしてゆっくり癒してあげるからな。
レナの輝力を体内で熱量に変換する。
俺が撃ち出すのは極小の一粒一粒が灼熱の弾丸!
サンロードスライム最強の技!
フレイムブリンガーだっ!!
『無駄な事を。このスライムイーターには通じんよ』
鼻の先が……大きく広がった!
もはやなんでも吸い込むブラックホールのように、その広がった先端が極高温の雫を吸い取っていく。
あれが体内に通じているのなら多少なりとも影響があるはずなんだが、その様子は全く見えない。おそらく亜空間的な何かにつながっていてその能力を十二分に発揮しているのだろう。
『ほほう、次は灼熱能力か。ずいぶんとチートな能力を持っていたものだ』
し、しまった!
フレイムブリンガーを吸い込まれた事に気を取られていたが、これは!
「また! スーの色が!」
俺の体の色が真紅から黒へと変わる。
とうとうXランクのサンロードスライムからDランクのダークスライムへランクダウンしてしまった。
レナが消費する輝力は少なくなったとは言えこれじゃあ勝てない……。
『もはや俺との力の差は歴然だが、僅かな可能性も完全に潰しておくに限る』
ええい、みすみすやられてたまるか。
この体にだって攻撃方法はある。キサニウム化マルリンとスグロンジナスカ酸トルミストールを4対1。これがこの攻撃の黄金比率だ!
リゼルから教わった硬化体当たり。
岩素材で出来ていたグロリア岩女をも砕く威力をもっている。
一撃で倒せなくても、何度も何度も倒せるまでぶつかってやる!
体内を循環する輝力の流れがいつもと違う事に慣れないながらも、俺は全力を込めてヤツに向かって跳びはねる。
『無駄なあがきだ』
やつはそう言うと俺の体当たりコース上に待ち構えたかのように鼻を移動させ、周囲の輝力ごと俺の能力を吸い取っていった。
「スーが緑になって……それに小さく……」
ぐうう、Eランクのグラスランドスライムにまで……。いや、このまま吸い続けてさらに落とすきか。Fランクの……ただのスライムに!
『哀れなくさだんごよ。いや、もうくさだんごではないな。見た目は似ているがな』
す、吸われる、俺の全てが吸われていく……。
吸引が終わりを告げ、俺は重力に引かれて地面へぽてりと落下した。
俺の体は何の変哲もないただのスライムになっていた。
『Fランクまで下がったか。これ以上吸ってもなんの足しにもならんな。下等なスライムよ。ひと思いに踏みつぶしてやろう』
ずん、ずん、ずんと重い巨体を動かしてスライムイーターが迫ってくる。
まずい……このままじゃ……レナが危険だ。
せめてレナが逃げる時間を稼がなくては。
いくらケロラインを抱えていたとしてもウルガーならレナも抱えて逃げるくらいは出来るはずだ。
「スー! もういいから、逃げて!」
体当たりを……、いや、俺にはあの技がある。召喚初日にレナに襲い掛かってきたグレイウルフを倒した窒息攻撃が。
あの像のように長い鼻をふさいで窒息させれば。
でりゃぁぁぁぁ!
「だめだスー、そんなスピードじゃだめだ!」
ウルガーの声が聞こえた気がしたが、その瞬間、俺には巨大な鼻が鞭のように向かって来ているのが見えて。
――ぱちゅん
水風船を壁にぶつけて割った音。
軽く弾けるようなそんな音と共に俺の体は四散した……。
「スー! いやぁぁぁぁ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます