164 その時ごっくんしちゃったのだった
「そうなの。スーは凄いの! 怖いオオカミをやっつけたんだから!」
「スー、大きくなって重くなった……」
「スー、元気でね。レナも頑張るから……。ひっく、ぜったい、ひっく、つよくなって、ひっく、スーの契約者マスターに、ひっく、りっぱに、なる、ひっく、から……」
なんだ……? 小さい頃のレナ……。
あの頃は泣き虫だったな……。
「あとね、二つ目の質問は愚問だよ。どんな姿になってもレナがスーを間違うことなんかあるわけないわ!」
「レナ、もうお子様じゃないから、レディとしての贈り物をしたいの」
「こらー、ギラルドン! サイリちゃんの言う事をききなさーい!」
「スー、これよ! レナ、グロリア研究家になるわ!」
「なによおじさん、私のスーを返してよ! このドロボー! ドロボーヘッド!」
「ねえスー。レナに勇気をちょうだい。絶対に騎士になれるっていう勇気を。レナ、スーがいれば、スーと一緒ならなんでもできると思うの。だからお願い。ずっとレナと一緒にいて。レナに勇気をちょうだい」
「うーん。そうなったらそうでもいいかな。ジミー君なら怖くないし、守ってもくれそうだし。でも騎士になったらレナのほうが強くなっちゃうから関係ないかな」
「クリングリンさん! レナにはスーが、ナノちゃんが、サイリちゃんが、それに今は倒れちゃったミイちゃんが、トルネちゃんが付いてるの! だから負けない!」
レナに再会して……学生生活をして……。
沢山学んで……友達も出来て……レナは大きくなった。
「もう一度言うけど、お姉さんは嘘をつく子は嫌いです」
「スー、ほら、チェンジチェンジ、人間にチェンジよ」
「どうしたのよスー。ほら自爆よ自爆、ふふふ!」
「あなたは子供たちの希望。国民の希望! どんな敵にも屈せず、どんなピンチも乗り越えて、必ず勝利を掴む、無敵の騎士。この国ただ一人の
「スー! いやぁぁぁぁ!」
そうだ……、俺は敵にやられてしまって……。
これは……走馬灯か……。
レナの叫び声のイメージを最後に俺の感覚は途絶え、黒く塗りつぶされたような押しつぶされそうな、それでいて何も感じる事の出来ない空間のような、そんな場所を漂っている気がする。浮いているような飛んでいるような……感覚が無いためその感じすらも気のせいなのだろうが。
俺も……ここまでか……。
すまない……レナ、最後まで……守ることが出来なくて……。
力を入れようにも、体が存在しているという感覚も無い。精神体と言うのだろうか、自分の心だけがあって、天に上る直前のような。
ウルガー……すまない。レナを……頼んだぞ。
ジミー君……俺がいなくなったら……レナはきっと悲しむ。支えになってあげて欲しい……。
俺が不甲斐ないばかりに……。
…………。
……。
『個体名:スーは進化の条件を満たしました。進化しますか?』
ん?
しんか?
『進化先の情報を表示します。
ドラゴニックスライム:Xランク』
なん、だと……?
『ドラゴニックスライム:Xランク
ドラゴンのパワーとスライムの再生力を持つ半竜半スラの強力なスライム。Fランクのスライムをいかに強力に進化させるかのテストケース。進化条件をドラゴンの体液を摂取した事があること、灼熱器官を備えたことがある事に限定する。Fランクのスライムからしか進化出来ないため条件を満たすことは不可能と判断し実装を取りやめる。(5861476621追記)』
進化難易度が高すぎて実装が見送られたテスト用のXランクスライム!
進化条件はただのスライムであることと、ドラゴンの体液接種に灼熱器官の所持履歴か。
俺がこの進化条件を満たしてるってことだよな?
【ただのスライムであること】はスライムイーターに吸われてFランクまで落ちたから満たしてる。
【灼熱器官の所持履歴】はサンロードスライムでいいとして、【ドラゴンの体液】なんか飲んだことあったかな……。
んんん……?
あったー!
レナドラゴンの唾液だー!!
このあいだ俺が人間になってレナがちび竜になった時、やたらめったら顔を舐め回されてその時ごっくんしちゃったのだった。
まあ答え合わせをしなくても条件を満たして進化出来るって言われているのだから問題ない。
『進化しますか?』
もちろんだ!
これならあいつに勝ってレナを守れるに違いない!
『進化の意志を確認しました。進化を開始します』
女性の機械音声の声が遠ざかっていき、代わりに今まで無くなっていた体の感覚が蘇っていく。
進化が始まったのだ。
「バラバラになったスーのかけらが……集まって……」
『これはまさか進化しているのか? フン、腐ってもくさだんごということか。だがFランクのスライムから進化出来るスライム何ぞたかが知れている。どうせ無意識下でEランクのスライムに進化するだけだろう』
「レナ、スーから手を放して離れろ! その光、小さなものじゃない。上を見ろ。そのデカさになる!」
「スー……」
俺のスライム細胞に力が満ちていく。熱い。燃え上がるような感覚だ。
それに重力を感じる。自らの体を自分自身で支える感覚。スライムになってからは忘れてしまっていた手足で体を支える感覚だ。
これまでのスライムの体とは異なる感覚に違和感を覚えながらも、抗うことなく姿が変わり終えるのを待つ。
体感時間にして僅かな後、進化のまばゆい光はおさまり俺の進化は完了した。
これがドラゴニックスライム……。
今までよりもずっと視点が高い。
俺の全高はおおよそ10mくらい。そこに明確に頭があって、目もあって口もある。
そのため今まで感知だけで様子を探っていた中に大量の視覚情報や聴覚情報が追加で入ってくる。
体つきもがっしりとしていて、骨とか神経とかもあるようだ。
ただし、あくまでもスライム。強固な鱗に覆われていたりはしないし前足や後足に爪が生えていたりはしない。
「ドラゴン? にしては少しデザインが雑じゃないか? 確かに尻尾があってデカいけど、角は無いし翼も無いし、なによりぶよぶよしてそうなんだが」
ううむ、そうなんだよね。見る者に圧倒的な存在感を与えるというにはほど遠い。
「スラゴンよスラゴン! スーはドラゴンをも超越したスーパースライムのスラゴンになったの!」
スラゴンってなんだよレナ……。
『まさか、こいつ、ドラゴニックスライムに進化したというのか!? どこまで規格外なんだ!』
ふふふ、良く分かっているじゃないか。今の俺はお前よりも倍近くはデカいぞ。
それ、踏みつぶしてやる!
俺は前足を振り上げて、全体重をかけて振り下ろす。
その一撃が地面を揺らす。
慣れない骨格のせいか元々素早さが低いのか。俺の攻撃は威力があるもののスローすぎて、残念ながらスライムイーターを踏みつぶす事は出来なかった。
あと、効果音が微妙。
これくらい巨大な生物だと破裂音や破壊音のような割れるような音がするものだが、やわらかいボールが跳ねるようなそんな音だった。
まあ威力は申し分なかったんだけどね。
『驚かせやがって。実際に対峙するのは初めてだが、カタログほどの性能は出ていないようだな。今度は俺の番だ。その寸胴に風穴を開けてやるよ。お前から得た灼熱能力でな!』
眼下のスライムイーターが鼻を鞭のようにしならせると、その先から水滴を飛ばしてきた。
うげげ、鼻水を飛ばすなんてばっちいヤツ!
と思ったのも一瞬。
俺の体はその鼻水によってハチの巣にされてしまう。
新たにできた骨格がことごとくボキボキに折られて自重を維持し続ける事が出来ず、俺は地面へと倒れこんだ。
ぐうっ、痛みが!
スライムとは言え神経が通ったのだ。わずかではあるが痛みが俺の体を襲う。
俺の体を焦がし抜いたこの鼻水は灼熱の弾丸。つまりはフレイムブリンガーだ。
俺がスライム細胞を弾として使う代わりにこいつは鼻水を使ったのだ。厳密には鼻水じゃないのかもしれないし、そう信じたいが。
「スー! 大丈夫? もっと輝力いる?」
大丈夫だよレナ。スライムは……砕かれない!
俺はムニムニと骨を臓器を再生させていく。
んー、いくら再生できるとはいえスライム細胞とは違う物質があるのは慣れないなこれ。
程なくして元通りに再生し、再びヤツを見下ろす生活。
気づいたんだけど、俺、灼熱器官があるんだ。ドラゴン的に言うと火炎袋みたいな?
ではでは、人外ならではの灼熱ブレスを放出だ!
口を開いて、ゴォォォォと勢いよく炎を吐きだす。
ふーって息を吐きだす感覚で炎が出るなんて新感覚!
だけどまあ射程は長くは無く、あいつに当てるため首を動かして持って行く必要があって……。
「ああっ、スー、惜しい、そこそこ、そうよ、狙って!」
相手もそんなに素早くないけど、俺もそんなに素早く無くて。
ノロノロ、ボウボウやってるうちに肺活量が減って行って……俺の初ブレス攻撃は終了してしまった。
『厄介なやつだ。そのブレス、灼熱耐性を奪っているからといって直撃すれば危うい。それにその再生速度。ドラゴンのタフさに合わさって厄介極まりない』
ふふふどうだ。降参するなら見逃してやってもいいぞ。
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