196 お立ち台か屋根の上か
くらえっ!! エルベ・ベルヘムッ!!!!
体の中に激しい負荷がかかり、はじけ飛びそうな感覚が全身を駆け巡る。
無限輝力増殖を行うことができる俺のスライム細胞の許容量を超える巨大な高出力気力エネルギー。常人の目には見えないスピードで螺旋回転をしたそれが、稲妻を帯びた輝力の奔流となり、
すべての輝力の放出を終えて体がしぼんでいき、俺は力なく地面へと落下した。
そんな俺の体をレナがナイスキャッチしてくれた。
あ……ありがとうレナ……。
「どういたしまして。でもスー、すごいよ。ほら見て」
自らの体の形状を維持できないほどぐったりとしている俺。
そんな俺をレナは頭の上に掲げるように持ち上げて、その光景を見せてくれた。
予想はしていたがエルベ・ベルヘムの威力はすさまじいものだった。
眼前に山のように立ちはだかっていたオルデは一直線に削り取られたかのように、向こうの景色まで見えている。全長5キロにもなるオルデの端から端まで貫通して削り取ったのだ。
幸いなことに向こう側にいるはずのガルガド帝国のやつらには当たってないようだ。
……って!
俺はその時見た。見たといっても目はないので感じ取ったのだが。
削り取られてスノーボードの競技場のようにU字になっていたオルデの体が、まるで雪が一気に解けたように、U字内に流れ込んだのだ。
再生した?
いや、そんな気配はなかった。ただ失った体を残っている部分が補っただけのようだ。
あれだけの高威力攻撃で俺が削り取った部分は、実際のところ巨大なオルデからするとほんの一部分に過ぎないのだ。
何事もなかったかのようにその姿を復元したオルデ。
その巨体が止めていた歩みを再開した。
レナ、中に入って!
油断することなく輝力増殖を再開していた俺は一呼吸の間に技の反動を整え、レナを体内に取り込むと後ろへと跳躍する。
迫る山のような巨体から逃げながら俺は考える。
エルベ・ベルヘムは俺が今できる最強の技だ。それが効かないとなると打つ手はない。
全力でフレイムブリンガーを打ち続けるか? いや、効果は微々たるものだろう。
オルデを倒す自信は結構あったのだ。
それがあっけなく打ち砕かれたこともあって、ろくに考えもまとまらない。
みんなが……ミイちゃんが、ジミー君が、サイリちゃんが、騎士団が、ルーナシア国民みんなが送り出してくれたのにっ!
――ヒュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
うわっ!
とっさのことだったが何とか反応して体を逸らすことができたのだが――オルデから俺たちに向かって……いや、正しく言えばオルデの後方から俺たちに向けて超出力のビームが撃ち込まれたのだ。
これはガルガド帝国軍からか?
――キン、キン、キン、キン、キン、キキキキキキキキキキキキキキ!
って、今度は前方から!
まばゆい光を放ちながら迫る一条の光。
俺は空へとジャンプしてそれを回避する。
――ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!
まさか……!
何かの圧を感じた俺は南に感知を向ける。
間を置かず、三色の光がらせん状に渦を巻きながらオルデの体を貫いたのだった。
◆◆◆
時は少し戻り、スーがエルベ・ベルヘムを撃った直後のこと。
東側戦場 ガルガド帝国軍
「っ! なんだい今の閃光は! 危うくおっ死んじまうところだったじゃないか! おい、お前、準備はできてるな?」
「もちろんですぜ姐さん! いつでもいけまさぁ!」
黒いボンデージスーツの上に立派なマント、いや、マント型のグロリア、アドミラルローブを纏った妙な色気を放つ女性。ガルガド帝国軍軍師ナフコッド・シベラは手にした鞭を部下に振るいながら声を荒らげた。
「こっちもやるよ! リミットシェル、オーバーロード!」
「リミットシェルオーバーロード!」
手にした本型のグロリア、エンチクロペディアから伸びた輝力の紐。
巨大な貝型のグロリアであるリミットシェルといくつも接続されているそれを伝い、ナフコッドの輝力が流れ込んでいく。
「照準合わせ! 狙いはあのデカブツだ。でかいからって外すような馬鹿な真似はするんじゃないよ!」
「アイマム!」
「くらいなっ! コスモブラスター!」
◆◆◆
西側戦場 八代武家軍&ルーナシア王国残存騎士(南の陣)
「おじさん、いくよ!」
「ああ、すまねえな嬢ちゃん」
勝手に突っ込んでいってしまったミーリス代わりにの八代武家軍を指揮しているトルネ。
戦いの途中で大破していたケンプフェンVと南の陣の騎士たちを救い出した。
すぐさま負傷者を後方へ、というところで先ほどの光。
スーが放ったエルベ・ベルヘムの光を一同は目撃したのだ。
自分よりも小さな体で未だ戦い続けているレナ。彼女のためにわずかでも助力となれば。
その思いでドッカーはケンプフェンVの残りの輝力を込めて最後の一撃を放とうとしているのだ。
右腕を失って、左足を失って。ボロボロのケンプフェンVを倒れないように左右から支えるのは筋肉ムキムキの腕を持つジャグリングゴリラ。
「ゴンボ! ここが踏ん張りどころだ。ありったけの輝力をコアに回せ! 俺の輝力も全部もっていけ!」
「ゲリ、ゲラ、あんたたちの輝力も渡すのよ!」
「ありがてえ! これが終わったら飯でもおごってやるよ」
「ありがと。楽しみにしてるわ」
「いくぞゴンボ! ねぇぇぇぇぶるぅぅぅぅぅ、ふぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
◆◆◆
南側戦場 サウルカウル軍
「シュティ! あの光!」
大きな象型のグロリアの上に作られた王族用の煌びやかなお立ち台兼指揮官席。
その上にいる二人の貴人。日焼けした胸筋を惜しげもなくさらすように胸元の開いた服を着ているシュタルク王子と、新婚ラブラブ中の妻クラナノだ。
種々のグロリアを用いて戦場の状況をつかむ独自の手法で全体の様子を把握しているサウルカウル軍であったが、スーが放った光はそれらに頼らずとも二人の目に映るほどのものであった。
「うむ。相当強力な一撃だ。だが惜しむらくはそれでもあやつには通じないということか」
「そんなことはいいの! 撃って、こっちも撃って! レナちゃんを助けるの!」
「おぉ、いつもは温厚な我妻が猛っている。案ずるな妻よ、すでに準備はできている。我がサウルカウル王家が誇るグロリア、トライトーテムンのな!」
シュタルクの声と同時に地中から出現したのは、大木のように長くそびえる3体のグロリア。いや、この三本の体で1体のグロリアなのだ。
茶色の柱のような体には赤やら青やら黄色やらのいくつもの宗教的な模様が施され、独特の雰囲気をかもしだしている。
ルーナシア王国が代々ルナシスというAランクグロリアを受け継いでいるように、サウルカウルもこのトライトーテムンを受け継いでいるのだ。
「このトライトーテムンの攻撃は万の軍勢をも打ち砕く聖なる咆哮。おお、神よ、この力を開放することをお許し――」
「撃ってトライトーテムン! リンディアスマジェスター!」
シュタルク王子のセリフを遮って、クラナノはトライトーテムンに号令をかけた。
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