197 混ぜるな危険

 上空にジャンプしたおかげで状況がはっきりと分かる。

 この攻撃は、ガルガド帝国軍、ルーナシア王国軍、サウルカウル軍から打ち込まれた同時攻撃だ!


 色も波長も異なる3つの攻撃が一点に交わっており、その交差点で膨れ上がるかのように膨大なエネルギーを生み出してる。


 レナ、俺たちもやるぞ。

 エルベ・ベルヘムはもう使えないから、レナの輝力を使わせてくれ!


「うん、レナやるよ! 今までスーだけでずっと頑張ってくれてたから、レナの輝力は全然減ってないから!」


 よし、狙うは三つの攻撃が交差するポイント。そこに俺達の一撃を加えて、膨大なエネルギーを誘爆させるんだ。


 3つともあれだけの強力な砲撃だ。あと10秒も続かないだろうが俺達が一撃を打ち込むのには十分な時間だ。


「行くよスー! 準霊機崩壊弾クラク・ラナルク!」


 レナが技名を叫び、俺はレナから流れ込んでくる輝力をエネルギーに変換して目標ポイントへ打ち込む。


 準霊機崩壊弾クラク・ラナルクは弾速こそ遅いが、着弾時に相手の輝力を分解してそのエネルギーを外側に向けて放出する砲弾系の攻撃だ。


 つまり、爆発する。


 相手の輝力が大きければ大きいほど効果も高く、目に見えるほどのエネルギーのよどみの中に打ち込んだ場合どうなるかは火を見るよりも明らかだ。


 速いながらも目で追うことができる程度のスピードで進む準霊機崩壊弾クラク・ラナルク

 それが交差ポイントに着弾し、滞留する膨大なエネルギーに衝撃を与えて巨大な爆発を引き起こした。


 もくもくと立ち上るきのこ雲。爆発の巨大さを物語っている。


 そんな様子を眺めている俺たちはというと、爆発の余波に巻き込まれてはるか上空へと打ち上げられていた。 


 煙が立ち込めていて眼下のオルデの様子はわからない。

 いや、オルデ全体の様子は分かる。直径5キロにも及ぶ紫の体。その外周部分はまったくの無傷なのだから。


 上昇する勢いが徐々になくなり、重力の影響を受けて俺の体は落下し始める。

 魂を引かれるような感覚を受けながら降下し、その間もオルデの様子を注視し続ける。


 やがて風で煙が流れて消えていき、爆心地の様子が徐々に鮮明になっていく。


「やっぱり……」


 レナがぽつりと呟く。


 地面には巨大なクレーターが出来上がっていて、クレーター部分にあったオルデの体はきれいに消え去っていた。

 だけど、上空からみるとそれは紫色の巨大なドーナツなだけで……。


「オルデさんを倒すにはまだ力が足りない……」


 あれだけの高出力攻撃の連携技。それ以上の技があるのだろうか。

 たとえそれ以上の技があったからといって、オルデに通じるのだろうか。


 ――クエェェェェェェェ


 無力感にさいなまれている俺を襲う巨大な鳥型の凶暴化グロリア。

 空中を自由に飛び回る相手と重力に引かれる俺とでは相手にもならない。撃ち込んだ弾を回避されたその勢いで鋭い爪のついた足の一撃を叩きこまれ……何とか致命傷は避けたものの、当たり所が悪く落下速度がさらに加速してしまう。


 巨鳥からのこれ以上の追撃を防ぐためにカウンター気味に撃ったフレイムブリンガー。

 それが幸運にも命中し、体を焼かれた巨鳥は追撃の手を止めた。


 ただ、その一手を行ったせいでこの後俺が採れる選択肢を大幅に狭めることになってしまった。


 くそっ、やばいぞ、このままじゃオルデの真っただ中に落ちてしまう。


 スライムボディを広げて滑空して範囲から脱出するには高さも距離も時間も足りない。


 水が高台から低地に流れ込むように、すでにオルデの中心のドーナツの穴にはそれを埋めるように紫の流動体が流れ込んでいる。

 俺の落下予想地点はまさにその上だ。


 こうなったら俺の体を爆発させて軌道を変えて――


 オルデまであとわずか。爆発によるダメージはあるものの背に腹は代えられないため、爆発の勢いでここから脱出しようとしたところが…………突如、真下のオルデの体から紫色の触手が何本も伸びてきて俺のスライムボディをからめとった。


 や、やばい、せめてレナだけでも!


 俺はとっさに爆発個所を変更してその勢いでレナを体外へと排出した。

 瞬間、俺の体は紫の触手にがんじがらめにされてオルデの中へと引きずり込まれた。



 ………………………


 ………………


 …………


 ……



 真っ暗だ。

 光も何もなく、音もしない。自分が生きているのか死んでいるのかもわからない。

 体はまったく動かず、自分の体を震わせて音を立ててることでそれらを確認する、ということもできない。


 『……い』


 今なにか聞こえたような?

 気が狂いそうになる無音のなかで薄っすらと。


 『……たい』


 やはり……何か聞こえる。

 俺に耳は無いので感覚器官が拾っているのだが、先ほどよりわずかに大きかった。


 『……ふれたい』


 そして次は明確に聞こえた。


 触れたい? なんだ? 誰の声だ? いや、声なのか?


 『ふれたい。触れたい。さわりたい。触りたい。かんじたい。感じたい』


 なっ、なんだ、これ、なんだ?

 この暗闇の中、直接心に入り込んでくるような、打ち付けられるような感覚。


 『ながめたい。眺めたい。みていたい。視ていたい。その姿。その色。その光』


 こ、これ、もしかして、もしかしてだが、オルデなのか?

 オルデの感情なのか!?


 『ききたい。聞きたい。ききたい。聴きたい。その鼓動。その流れ。その声』


 ぐっ! あ、頭が! 俺には脳細胞なんか無いはずなのに、頭が割れるように痛い。


 『あたえたい。与えたい。あたたかさを。温かさを。よろこびを。喜びを。しあわせを。幸せを』


 ぐぐぐぐぐぐ、強い、強い想いが……。


 『温もりを、慈しみを、安心を、安寧を、平穏を、歓喜を、幸福を、愛情を――


 ――愛情を、愛情を、愛情を、愛情を、愛情を、愛情、愛情、愛情、愛情、愛情、愛情、愛情愛情愛情愛情愛情愛情愛情愛情愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛』


 ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 俺の意識はそこで途切れた。

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