021 リゼルとの買い物4
やってきました王立グロリアランド。
『お☆う☆り☆つ☆グ ☆ ロ ☆ リ ☆ ア ☆ ラ ☆ ン ☆ ド』と書かれた大きな看板は赤青黄の三原色で塗られており、控えめに言って目が痛い。
でもまあそんなことはここでは問題じゃない。
看板が目玉なのではなく、この中にいる様々なグロリアが目玉なのだ。
ランドの広い敷地内は、もふもふゾーンワイルドゾーンなどいくつかのゾーンに分かれており、テーマとなるグロリア達が飼育されている。
これらのグロリアに来園者が触れることができるのもグロリアランドの魅力だ。
情報によるとワイルドゾーンには小型の竜種がいるらしい。
かなり見たい、出来たら触ってみたい。年齢を重ねたおっさんだけど心躍るものは躍るのだ!
……おっと、目的を忘れるところだった。クールダウンしておこう。
ちなみにここのグロリアはランド所有ではなく、グロリアの
さーているいる、沢山のグロリアとそれ目当ての男女カップル達。もちろんリゼルとナシュカはカップルのカウントに含まれている。
ふふふ、ここで仲良くグロリアに触れ合ってもらい、さらに二人のラブ値を上げるのだ。
どうやらまずはもふもふゾーンに行くようだ。
「ほらナシュカ、ココンシープだ!」
「うわぁもふもふですね!」
「あっちにはモットレットテイルがいるぞ!」
「まだら模様のふかふかのしっぽがかわいいです!」
ああ、はしゃいじゃってまあ。ナシュカがはしゃぐのは分かるけどリゼルも一緒になってはしゃいでいる。
まあ気持ちは分かる。
ふわふわのわたあめの様に白い毛がもっこもこの、羊に似ているココンシープ。それと、体長の3倍ほどの長く太くぽわぽわの尻尾を持つモットレットテイル。ナシュカの言うように、まだら模様の赤茶色の毛並みが特徴だ。
これらもっふもふのグロリアが所狭しと囲いの中にいるのだ。
囲いの中ではそれらのもこもこと触れ合えるようになっていて、二人は笑顔でその中に入っていった。
家族連れに交じってもふもふ達と親交を深める二人。
ココンシープに抱き着いたり、モットレットテイルの長いしっぽをマフラーのように首に巻いてみたり、もふもふの限りを尽くしていた。
ちなみに俺は外で待っている。
あの中に入ったらもふもふ達にもみくちゃにされそうな予感がしたからだ。そうなったら二人のラブラブ大作戦に影響がでるしな。
俺は参謀役。今日は裏から二人を導くのだ。
しばらくの時間もふもふを堪能した二人。
どうやら次はグロリアの恵みゾーンに行くようだ。
グロリアの恵みゾーンというのは、ミルクや卵など、グロリアからとれる食材を実地販売しているゾーンだ。
買った食材をその場で調理できるスペースもある。
「お、珍しい。スタンドビーフのミルクだ。シューティングイーグルの卵やミストビーの蜜もあるぞ」
「レアグロリアのタピガメの卵もありますね。すごい黒くてぷにぷにしてます!」
スタンドビーフはレナの学友ジミー君のぎゅうたろうでおなじみのグロリアだ。Eランクではあるが特殊進化するので珍しいのだ。
ちなみにぎゅうたろうはオスだったが、ミルクが出るのはメス。
そんなスタンドビーフのミルクは濃厚でまろやかなのが特徴だ。
シューティングイーグルは鷹型グロリアの一種で、はぐれグロリアとして山奥の崖などに生息している。狙いを定めた獲物に一直線に突っ込んで行き、瞬く間に狩り終えるためこの名前がついている。崖にある巣から卵を得るのは難しいのだが、
ミストビーは霧の深い地方で良く飼われている蜂型グロリアの一種で、ミツバチと同じように花の蜜を集めるのだ。はぐれグロリアの場合は植物系のはぐれグロリアから蜜を奪い取っているとの報告もあるが、生態調査が急がれる。
タピガメは水の中にカエルのように沢山の黒い小さな卵を産むことで知られている亀型グロリアだ。最近この黒い卵が栄養価が高いことが知られてブームになっているという。
と、イチャイチャで忙しいリゼルの代わりに俺が神カンペ知識を披露してみる。
「ふーむ、これだけの食材だ、ナシュカに私の
ナシュカは何がいい? なーにお姉さんからのおごりだよ」
「ありがとうございますリゼルさん!」
「私はグロリアランド限定スタンドビーフミルクソフトクリームにするかな。ナシュカは?」
「僕はから揚げがいいです!」
「お、おお、から揚げか。やっぱり男の子だな、うん。ちょっとまってなよ」
ベンチにナシュカを座らせて、リゼルは屋台に向かう。
俺はナシュカの横に陣取ってナシュカの様子をうかがう。
で、どうなんだ? リゼルの事好きになったのか?
気持ちを聞き出そうとぷるぷると体を震わせてみるが、残念ながらナシュカには伝わらない。
そもそも俺の事よりもリゼルの方を目で追っている。
好きな子を目で追うというのは自然な動作だ。つまり作戦はうまくいっている!
ぷるぷると震え続ける俺にようやく気付いたのか、ナシュカは俺の体を撫でてきた。
スーもランドのグロリアに負けないくらい可愛いよ、と言うナシュカ。
ふ、ふふん、そうだろう、そうだろう。
べ、別におだてても何も出ないんだからな。
「おっと、どうしたんだスー、えらくご機嫌じゃないか」
リゼルが戻ってきた。
一目で俺の気持ちを見抜かれて、なんだか恥ずかしい。
「ほら、ファントムターキーのから揚げだ。アツアツだから気を付けるんだぞ」
リゼルはホカホカと湯気の上がる揚げたてで美味しそうなから揚げの入ったカップをナシュカに手渡す。
ほほう。驚くと質量をもった分身を作成するファントムターキーか。
かなり臆病な鳥グロリアで、分身をおとりにして一目散に逃げる生態を持っている。
リゼルは俺にも食べ物を買ってくれた。
ちまたのダークスライムが大好きだという、マッドキノコの
毒のある胞子を飛ばして獲物を混乱させてから自分の分身体|(つまりキノコだが)をはやすグロリアで、本体にも毒があるのだが世のダークスライムは好んで食べるのだ。
俺はというと、腹痛で死んだ身としては腹を壊さないか心配だ。
とりあえず体内に入れて食べずに保管しておこうと思う。
リゼルとナシュカはベンチに座ってそれぞれの獲物を口に含んでいる。
三人掛けのベンチに俺、ナシュカ、リゼルと座っている。
もともと俺の体は人の横幅より大きいためベンチに詰めて座らなくてはならないのだが、俺はナシュカの体をさりげなくじわじわと押してリゼルとの距離を縮めておいた。
「リゼルさんどうぞ。甘いものと辛い物、交互に食べるとおいしいですよ」
「ああ、ありがとうナシュカ。うん、うまいな!」
ナシュカがから揚げを一つ進呈したようだ。
気配りのできるいい子じゃないか。
「それじゃあお返しにソフトの味見をしてみなよ」
「え、えっと……」
「遠慮しなくていいぞ、ほら、がぶっといきな、がぶっと」
「そ、それじゃあ……」
おいおいおいおい、リゼル分かってるのか?
今ナシュカが遠慮がちに食べているのはリゼルが口をつけたソフトクリームだぞ?
いうなれば間接キッス!
「あ、ありがとうございました。甘くておいしいです」
「そうだろうそうだろう……あ……」
どうやら、ソフトクリームを返却されて今度は自分が食べることになって、ようやくその事実に気づいたようだ。
「そ、その、ガサツですまなかった!」
「い、いえ、気にしないでください!」
リゼルの平謝りが少しの間続いたが、その後きちんとソフトクリームを平らげていた。
うんうん。意図せずとはいえよくやったご褒美だな。
しかしまあ、二人とも顔を赤くしてからに。
若いってうらやましいな!
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