020 リゼルとの買い物3

 俺がリゼルラブラブ大作戦の実施を決意してから1か月が過ぎた。

 前回買い溜めした備蓄が無くなってきたので雑貨屋に調達に、いや、ナシュカに会いに行くのだ!


 今日の運び屋は前回のモゴモゴンではなく、進化前のモゴンだ。

 口の中に保存できる容量は少ないのだが、それがリゼルの狙いであり、買い溜めする量を減らして買いに行く頻度、つまりナシュカに会いに行く頻度を上げようというわけだ。

 

 今日もリゼルは軽鎧を身に着けてはいない。

 いつ購入していたのか、舞踏会で着るような真っ赤な勝負ドレスを着ようとしていたがそれは阻止しておいた。

 そんなわけで今日の服装は、いつもの黒色のぴっちりズボンをはいて、白地のインナーの上にベージュのパーカーを着ている。


「よ、よし、準備はOKだ。……大丈夫かなスー。匂ったりしないよな?」


 うん、大丈夫じゃないか?

 俺は臭いは感じないけど、あれだけニンシャーザルの消臭スプレーをシュッシュしてたら大丈夫だろう。


 俺はリゼルの周囲をぐるりと回ってみる。

 おかしなところは無い。大丈夫だ。リゼルの魅力は伝わると思うぞ。


 そんなこんなで俺たちは決戦の場へと出発した。


 ◆◆◆


「いらっしゃいませ!」


 カランカランと鳴る入口ドアをくぐった俺たちに、元気のいい挨拶が飛んでくる。


「や、やあ、その、あの」


 リゼルがどもっている。

 がんばれリゼル、ただの挨拶だ。恐れる所じゃないぞ。


「リゼルさん! お久しぶりです!」


 来客がリゼルだと分かったナシュカは一層元気な挨拶を返してくれた。


「あ、ああ。ナシュカ、久しぶり」


 ほらリゼル、自然体、自然体だ。

 動揺が顔に出てるぞ。そんなことではナシュカの心をつかむことはできないぞ。

 それにナシュカはこの前の事を気にしてる素振りは無い。

 いつも通りだ。それが勝利への近道だ。


 俺はぽよぽよとリゼルの足を小突いて思いを届ける。


「スーもお久しぶりです。ちょっと大きくなった?」


 いいや、俺はそんなに変わってないとおもうぞ。

 自分では分からないけど太ったのだろうか。


 挨拶も済ませたところで、今回も看板を『準備中』にして専属対応してもらえるようだ。

 この流れはいいことだ。

 なぜなら他人の目があっては恋が進展しないからだ。




 

「なるほど、いつもお仕事お疲れ様です」


 作業をしながらの雑談タイム。

 ナシュカはリゼルの仕事について興味深く耳を傾けている。


「そ、そうだ、あの、あれだ、これ」


 そういうとリゼルはモゴンの口から布にくるまれた大きなものを取り出し、シュルシュルと布を解いていく。


 いいぞ、話の流れは申し分ない。

 あとはいつもみたいに堂々としていれば完璧なのだが。


「これは、もしかしてアースライノスの皮ですか?」


 ご名答。リゼルが取り出したのはアースライノスの皮。

 背中にごつごつしたコブがいくつもあるアースライノス。

 その皮はコブに合わせてデコボコしており、絨毯として敷いたうえでゴロゴロ寝転がったら体のツボを刺激して気持ちいいという、お金持ち御用達の素材だ。


 アースライノスは年に1回皮が剥がれ落ちるのだが、この前それを入手したのだ。


「うん。ナシュカ前に欲しいって言ってただろ。ぷ、プレゼントだ」


 よし、よく頑張ったぞ。

 プレゼントに素材はどうかと思うが、何らかのきっかけにはなるだろう。


「こんな高価なものいただけませんよ!

 それに、欲しいって言ったのは店の商品として入荷出来たらっていうことですし……」


 な、なにー。自分が使うんじゃなくて、商品にだって⁉

 りーぜーるー!

 情報が間違ってるぞー!


「え、えっと、じゃあ、試供品、そう試供品だ! 売り物になるかナシュカが試しに使ってみてくれ!

 いつもナシュカにはお世話になってるし、次からはきちんと買い取ってもらうからさ?」


「うーん、そういうことなら……。

 ええ。リゼルさんありがとうございます!」


 よし、ナイスリカバーだぞリゼル。

 どうなる事かと思ったけど、何とかプレゼント作戦は成功だな。




 

「リゼルさんはやっぱりすごいですね。グロリアの事は詳しいし、お家にたくさんのグロリアがいるし。

 僕もグロリアが大好きなんですけど、沢山のグロリアと会う事なんてなかなかなくって」


「ふふふ、ありがとう。

 でも、そうだな、グロリアは本当に奥が深いよ。私が知っていることなんてほんの一部に過ぎない。沢山のグロリアと一緒に生活して、少しでもそれを教えてもらおうと必死さ」

 

「リゼルさんでもそうなんですね。僕なんかはそこまで行けそうにないですね、あはは」


「そ、そんなことないぞ。ナシュカだって沢山のグロリアと触れ合えば自ずと理解できるさ。

 そうだ、私の拠点ベースに来てみないか?

 沢山のグロリアがいるから、その、好きなんだろ、グロリア」


 いいぞリゼル!

 計画に無いアドリブだけど自然な流れだ。

 これを機に二人の親密度を上げるんだ!


「え、拠点ベースに連れて行ってもらっていいんですか? それはぜひ!

 ……と言いたいんですが、ここからリゼルさんの拠点ベースまで2時間くらいかかるってこの前言ってましたし。往復して丸1日となると、それだけお店を長く閉めることもできませんし」


 しまった、この雑貨屋は年中無休か?

 せっかくリゼルが勇気を振り絞ったのに!


「そ、そうか……。いやその、拠点ベースが気に入ったら私と一緒に……ごにょごにょ……」


 待て待てリゼル、混乱してるんじゃない!

 後半は聞き取れなかったけど、リゼルが何を言いたいのかは分かってしまった。

 でもそれは早急すぎで、この流れでは自爆コースだ。

 いつもの冷静な姿を見せてくれ!


 ポスンポスンとリゼルに体当たりし、現実への復帰を促す。


「そうだ、グロリアランド。グロリアランドに行こう!

 それならここからヒーランで30分も飛べば着く。どうだ?」


 あふれる女子力が奇跡を起こした!

 グロリアランドというのは沢山のグロリアが飼育されていて、それらと触れ合えるグロリア好き御用達の場所だ。いうなれば動物園。ふわっふわもっふもふも沢山いるぞ。


 つまりリゼルは、拠点ベースよりもなお一層カップル結成間違いなしの動物園デートを提唱したことになるのだ!


「あんな遠くに30分で行けるんですか⁉

 それならぜひ行きたいです。行きたかったんですけど遠いからなかなか行けなくて」


「そうか、行ってくれるか! じゃあ行こう、今から行こう!」


「わかりました。この後は仕事は終わりですので、ぜひお願いします。

 じゃあ、まずはリゼルさんの物資搬入を終わらせてしまいましょう」


 こんな感じでぶっつけ本番グロリアランドデートが決行されることに決まった。


 俺がついているとはいえ危なっかしくて心配だ。

 大丈夫だよなリゼル?

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