189 100人の暴漢に襲われて大ピンチだっていう時にも

 味方増援が来てこちら側が優勢になった勢いのまま招かれざる者アンインバイテッドを倒す。それが最もいい展開だ。

 頼りになる仲間達とはいえ、こうも大量の狂暴化グロリアと戦うのでは被害が甚大になるのは免れないだろう。そうなる前に招かれざる者アンインバイテッドを叩くことで全体に最良の戦果をもたらすはずだ。


「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 突如、空に虹色のわっかが開いたかと思うと、そこからミイちゃんが現れて、周囲のグロリアへ跳び蹴りをぶちかました。

 もちろん跳び蹴りを行ったのはミイちゃんがまたがっている鳥グロリアのティッピーだ。


 綺麗な虹色に輝く羽をもったセブンドアティッピー。セブンドアは空間を超える扉を開くことが出来る。

 ミイちゃんは先ほどまでここから遠く離れた八代武家軍と一緒に戦っていたはずだが、その能力でひとっとびしてこの戦場真っただ中まで来てくれたのだろう。


 そしてもう一人……いや二人?


 ありえないほどの高速で空中を移動し、辺りの飛行グロリアを薙ぎ払いながらこちらへやってくる二人組。サイリちゃんとイヴァルナスだ。

 先頭を行くイヴァルナスは普通に飛んでいるだけでオーラか衝撃波で相手が近寄ることも無く落下していき、その後ろを隠れるように進むサイリちゃんとギランダラスも襲い掛かってくるグロリアに対して落雷攻撃で迎撃している。


 ものの一分もしないうちにサイリちゃんとイヴァルナスが到着し、飛び蹴りの着地地点を誤ったミイちゃんがようやくこちらにやってきて、久しぶりの再会となる。


「レナ、久しぶりね!」


「ミイちゃん!」


「レナちゃん、その、助けに来たよ」


「サイリちゃん! イーバさん!」


 図らずとも心強い仲間が駆け付けてくれた。

 この俺が胸を熱くするのだ。みんなの友人であるレナはそれ以上だろう。


 だけど――


「みんな、その……来てくれてありがとう」


 先ほどまでの笑顔から僅かにトーンダウンしているレナ。


 そしてそれを感じ取ったミイちゃんがひらりとティッピーから降り、ツカツカとこちらに歩いてきて――


「レナ! 何を水臭い事言ってるのよ。友達なんだから当然でしょ」


 レナにずいっと迫って、そうまくしたてる。


「でも……」


「レナ……ほんっっっと水臭いわよ! なんですぐに呼んでくれなかったの!

 どうせこんなこと考えてたんでしょ。ミイちゃんもみんなも忙しいから助けに来て欲しいっていったら迷惑になっちゃう。だから自分で頑張らないと、一人でなんとかしないと、って」


「うっ……」


 図星だなレナ。


「レナは昔からそうだったわよね。みんなが慌てふためいている時でも自分が何とかしなきゃっていってなんでも一人で抱え込むの。

 でもさ、私達友達なのよ? 友達が悲しんでいたら傍にいてあげたい、困っていたら助けてあげたい、ピンチだったら迷わずすっとんで駆け付けてあげたい。みんなそう思ってる」


「うん」


「それともなーに? レナは私がピンチの時に助けに来てくれないっていうの? 100人の暴漢に襲われて大ピンチだっていう時にも」


「そんな事ない! いの一番に駆け付けるよ! もっともらしい理由をつけて私的に騎士団も動かしちゃうんだから! ……あっ!」


「ほらね。同じよ」


「うん……そうだね。友達だもんね。……ありがとうミイちゃん」


 ようやく分かったのか、やれやれ、という表情と仕草をするミイちゃん。

 ウェーブのかかった赤色ショートボブの髪がふわりと揺れる。


 久しぶりに会うけど、レナと同じく美人に成長したな。

 引く手あまたのようだけどまだ未婚。レナもそうだけど戦闘職だと婚姻時期は遅いのだろうか。


 くえぇぇ、とティッピーもレナに挨拶しているようだ。


 ティッピーもありがとうね、とレナはその羽に触れていた。

 

「あの、レナちゃん。無事でよかった」


 ちょっとずれたメガネを直しておずおずとレナに話しかけたのはサイリちゃん。

 先にミイちゃんとレナの会話が始まってしまったので、話しかける機会を窺っていたようだ。


 到着した際の事だが、ギランダラスが着陸し、そこから降りようとしてずり落ちそうになってあわあわしている所をイヴァルナスが手を差し伸べて、その手を取ったサイリちゃんがふわりと着地したのはなんだか絵になっていた。 


「サイリちゃん。ありがとう。来てくれて嬉しいよ!」


 おそるおそる話しかけてきたサイリちゃんに対して、レナはぎゅっと抱き着いた。


「えっ、えっ!?」


 急な事で思考が追いついていないのか、サイリちゃんは抱き着かれたままオロオロしている。


 黒く長いローブのようなものを身に着けているサイリちゃん。

 その背中をレナは愛おしそうに撫でている。


 あわわと顔から火が出て爆発しそうなくらいだ。

 鼻筋の通った美人顔が真っ赤になっている。


 サイリちゃんの戸惑いも無理はない。

 俺もレナの行為には驚いている。特にサイリちゃんに対してこんなことをしたことは無かったはずだ。


 ミイちゃんの言葉がそれだけ嬉しかったっていうことだな。

 感極まってサイリちゃんに抱き着いてしまうくらいに。 


 一方のサイリちゃんはテンパっている。

 スンスンと鼻を鳴らし「サイリちゃんの髪の毛、お日様の匂いがする」などと言いだすレナに「あわわ、匂いなんて嗅がないでください」などと言っているのだが……まあ、仲がいいのはよいことだ。美人と美人なので絵になるし。


「イーバさんもありがとうございます!」


 ひとしきりレナが満足したところでサイリちゃんは開放され、その様子を俺と同じような目で見ていたイヴァルナスに向けて挨拶を行うレナ。


「いいのよ。世界の安定が守護君の役目だから。

 というのは建前よ。巫女である可愛いレナちゃんが悲しんでいるのはお姉さんも悲しいから」


 あはは、学校指定水着は勘弁してくださいね。などというトークを繰り広げていた。


 さて、この場には俺とレナ、ジミー君、リリアンとヴォヴォ様、ミイちゃん、サイリちゃんとイヴァルナス。そして賢者たち老人ズと騎士団の面々がいる。


 先ほど考えたとおり、この勢いで招かれざる者アンインバイテッドを倒しに行きたい。

 とは言え、騎士団の人数は多く一緒に移動するのは時間がかかる。負傷者も多い事も相まってかなり困難だろう。

 だから少数精鋭で招かれざる者アンインバイテッドまで向かいたい。


 そうだよなレナ。


 俺の問いかけに対してコクリと頷くレナ。


「ジミー君、リリアンさん、ヴォヴォ様、ミイちゃん、サイリちゃん、イーバさん。

 みんな、力を貸して! 少数精鋭で一気に招かれざる者アンインバイテッドまでたどり着いて、そして撃破したいの」


 レナの問いかけに対して、面々が「ああ」「まかせて」など同意を返してくれる。


 チームレナの結成だな。俺としても心強いメンバーだ。


「聞きなさいルーナシア王国の騎士及び兵士達よ! 私は今から少数精鋭で招かれざる者アンインバイテッドを撃破に向かいます。あなた方は今から北へ向かい、北のイングヴァイト軍と合流し共同戦線を張りなさい。ここからなら後退するより北に出るほうが手薄で容易です」


「ですがレナ様、少数では危険です! ここは我々も一緒に」


 騎士の一人が声を上げる。


 騎士としては主であるレナをみすみす危険な目に合わすわけにはいかない。たとえ自らが戦いの役に立たないとしても身を盾にしてレナを守る。そういう思いは分からんこともない。


 だけど、これ以上誰も傷ついてほしくないというレナの気持ちを考えると素直に引き下がって欲しいところなんだが……。


「いいかお前達、レナはお前達が足手まといだって言ってるんだよ! ここは俺達に任せてお前達は北へ向かえばいいんだよ」


 そこにジミー君が割って入った。


「賢者ジルミリア様、しかしながら! 前方にはまだ多くの狂暴化グロリアが――」


 騎士がしゃべっているまさにその瞬間、俺の感知範囲の中に突如それが現れた。


 ――ブルング ブルング ブルング


 それは重圧巨大扇風機、エアマスター!

 突如現れたそびえ立つほどの巨体は圧倒的な威圧感を放っている。


 ――どうぅぅぅぅぅっ


 不意に地面が爆ぜた。

 何者かが地中から飛び出して来たのだ。


 突然に2体同時。明らかにおかしい。


 考えている場合じゃない。

 エアマスターは腹のファンが回転していて、本陣を壊滅させたあの竜巻が今すぐにでも至近距離から撃ち込まれる。そんな寸前。


 それ以上に切羽詰まった状況なのは地中から現れたグロリアのほうだ。

 突如現れたそいつは、ワニのように鋭い歯がいくつも生えた巨大な口のグロリアAランクのハングリーシザーズ。

 あろうことか、そいつにイヴァルナスが丸呑みされてしまったのだ。


******************************

ここまでお読みいただきありがとうございます。

本話で最新話に追いつきましたので、この後は不定期更新となります。

完結まで書ききりますので、この後もヤダスラをよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る