190 守護闘士レニールス その1

 俺がイヴァルナスを救おうと判断したその時――


「ティッピー! 陽光一突脚!」


 ミイちゃんの指示の元、強力なケリを繰り出したセブンドアティッピー

 その一撃をくらったエアマスターの巨体がぶわりと浮き上がって大きく吹っ飛び、周囲の木々もろとも狂暴化グロリア達を巻き込んで大地に背を付けた。


 そっちを見ている場合じゃない、イヴァルナスを助けないと、と思った矢先。


 ハングリーシザーズの口が、ぎぎぎぎぎという音を立てながらゆっくりと開いていくではないか。

 何事かと思ったが、口の中に飲み込まれたイヴァルナスが素手で口をこじ開けていたのだ。それも無表情で。


 守護君の腕力怖い……。


 開こうとする力に負けたワニの口はバキリと音を立ててくの字に折れ曲がってしまった。


「サイリちゃん、トドメを」


 イヴァルナスはスタッと口の中から脱出するとそう言った。


「わかりました。ごめんねワニのグロリアさん……。ギランダラス、ゼタワットサンダー!」


 瞬間、激しい落雷が眼下の巨大な口のグロリアに直撃し、黒焦げになったハングリーシザーズは動作を停止した。


 見事な攻撃だ。高出力の雷撃なのに、近くの俺達には全く影響を及ぼさずにハングリーシザーズだけを撃破した。サイリちゃんも腕を上げたな。


 ハングリーシザーズは巨大な口であらゆるものを飲み込む厄介なグロリアだ。その腹は異次元につながっているらしく、いくら食べても満腹にならない哀しみを背負っている。悲しみついでに、巨大な口にそぐわない小さな体がついていて、バランスの悪さが垣間見える。

 そうは言ってもAランクグロリア。町一つ壊滅させるのはわけない。

 そんなグロリアを一撃のもとに倒したのだ。サイリちゃんのレベルアップもうなずけるというもの。戦いが苦手な所は変わってないようだけど。


 そしてエアマスターを倒したミイちゃん。

 膨大な輝力を一点に集中した見事な蹴りだった。あれだけの巨体を吹っ飛ばそうとおもうと俺でも骨が折れるってものだ。俺に骨はないけど。


「皆様、レナ様をお頼み申します。本来ならばそれは我々の役目。今日ほどおのれが未熟であることを悔やんだ事はありません」


 これだけのパワーを目の当たりにしたのだ。騎士達にも彼女達が自由騎士レナと同じぐらいの強さを持った契約者マスターだっていうのが否応なしに解ったのだろう。


 そんな騎士達に、「あとは任せておきな、ちなみに俺はあの二人よりももっと強いからな、なんたってSランクを倒してるし、安心しな」、などとジミー君が言っていた。


「賢者様方、騎士団の転進を支援していただけますでしょうか」


「うむ。他ならぬジミー坊主の想い人の頼みじゃ。聞き入れようぞ」


「おい、ジジイ! 余計な事は言うな、余計な事はよ! ほらさっさと行け! 気を付けてな!」


 しっしっと手であっちへ行けポーズをするジミー君。

 だけど、ねぎらいの言葉を忘れていないあたり素直じゃないというかなんというか。


 そして速やかに騎士団が北へと転進し、俺達レナチームは招かれざる者アンインバイテッドへと目標を定める。


 眼前にはまだそれなりの数の狂暴化グロリアがいるが、俺達なら問題にもならないだろう。


「みんな、行こう!」


 レナが掛け声をかけて皆がそれに呼応する。

 俺はレナを体内に取り込んで駆け出す。


 先頭を行く俺とレナ。横を並走するミイちゃんとティッピー。大きな剣を担いだぎゅうたろうとジミー君が続き、空中にはサイリちゃんとギランダラス、そしてイヴァルナスが飛行している。少し遅れて、重いものを抱えるリリアンと彼女に付き従うヴォヴォ様。


 疾走する俺達が発する輝力の大きさはこの戦場の中でも一番大きいだろう。


 そんな俺達に怯えるかのように、狂暴化グロリア達が道を開け始める。

 これまで狂暴化グロリアが意志をもったように動くことは無かった。それだけ俺達が脅威となっているのか。


 いや、これは違う。俺達に怯えているんじゃない!


 その証拠に、狂暴化グロリア達は奥から、招かれざる者アンインバイテッド側から道を開け始めた。

 つまりは……奥からそれだけの強敵がやってくるっていうことだ!


「やはりAランクグロリアでは相手になりませんか」


 声!?


「だから無能なリビルダーじゃダメだって言っただろ、Sランクのやつだってあっさりとやられちまったじゃねえか」


「そんな事言わないであげてください。この子たちも精一杯やってるんです。そんな事言ったら可哀そうです」


「ピーピーピー」


 歴史の教科書で見たことはあるだろうか。古代エジプトで海を割ったモーセの絵を。

 パカッと海が左右に割れてる絵。あれと同じように目の前のグロリア達が二手に分かれていき……そしてその間から声の主達が現れたのだ。


 人間? いや、人ような姿をしているが人間とは細部の形状が異なる。


 一人は尖った長い耳が特徴的で白い体毛に覆われた少女。

 一人は緑色の肌を持ち、両腕がカマキリのようになっている少女。

 一人は鱗のように小さな金属のパーツが集まって人型を形成している少女。

 一人は霧のようにぼやけていて足は無く浮いている、まさに幽霊のような少女。


 四人ともがメイド服に身を包み、頭にはホワイトブリムを付けている。

 見た目的には13歳くらいか。それぞれの姿にはあどけなさも垣間見える。


 そして少女たちは俺達の目の前で歩みを止めた。


「あなた達は……」


 しゃべっていると言う事は言葉が通じるのだろう。

 それはつまり意思疎通が可能と言う事であり、レナがそれを試みる。


「あなたが人間達の長ですか。本来なら人間達と言葉を通わすなどあってはならないこと。ですが、ここまで来たことに敬意を表しましょう」


 耳の長い少女が返答してくる。


「我々はあの方の守護闘士、レニールス。あの方に害をなす存在は排除します」


 言い終わるや否や、少女たちの殺気が膨らんだ。

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