191 守護闘士レニールス その2

 守護闘士レニールス。おそらくというか間違いなくグロリアだろう。

 そして俺達はこの少女のような存在を知っている。


 神か神に何らかの関係のある身でありながらこの世界に顕現し、自らの欲望を満たすための王国を作ろうとしていたオランドット。やつに従っていた2体のグロリア、蛇女のミーシャと鳥女のスピカだ。


 この少女達もオランドットの眷属なのか?

 黒幕がヤツだというのならこの異常な事態も納得がいく。


「待って、どうして、なんでルーナシアに攻めてくるの?」


「あの方のお考えを私たちが推し量る事はできません。ただその望みに従うのみ」


 耳長のレニールスがこちらに歩を進める。

 その所作は洗練されたものであり、王宮のメイドさんをも思わせる。

 だがその内に秘めている刺々しい輝力は、今から俺達を排除しようとする事を如実に表しているかのようだ。


 レナ、やっこさん達やる気だ。これ以上の会話は。


「でもスー、言葉が通じるの。あの子達とだってきっと分かり合える。レナ達は言葉を話す事が出来ないグロリアとだって心を通わせることが出来るのよ? きっと出来るわ」


 言いたいことは分かる。俺もレナの気持ちを汲んであげたい。


 だけど、そんな甘い事を言っていて勝てる相手じゃない。

 Sランクグロリアを下に見るような相手だ。冷たく突き刺さるような輝力をスライムボディの表面で感じる。


「オルデ様に仇なす愚か者よ。自らの行いを悔いて死になさい」


 オルデ様・・・・? オランドットじゃないのか? 愛称? いや……もしかしてそれが招かれざる者アンインバイテッドの名前か?


「待って! どうして、どうしてオルデ、さん・・はこんなことを! みんなのグロリアを!」


「二度は言わない。あのお方の、オルデ様のお望みのままに」


 レナ、戦うぞ!

 相手がすんなり通してくれない以上戦うしかない。


「待ってスー、ねえ、あなた達、名前は? お名前はなんていうの? 私の名前はレナ。レナ・ブライスよ」


「名前? 私達に名前などない。だが、それでは不便だから呼び分けはしている。アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーアそれが私達だ」


 俺の予想に反して耳長の少女はレナの呼びかけに答えてくれた。


 ドイツ語に聞こえるこの世界の言葉だろう。

 1を表すアインが今しゃべっていた耳長の少女。2を表すツヴァイがカマキリの少女、3を表すドライがロボの少女、4を表すフィーアが幽霊の少女のようだ。


 耳長の少女アインは、用は済んだとばかりに再び歩を進める。

 それに呼応するかのように他の3人もゆっくりとこちらへ向かってくる。


「アインちゃん! 待ってもっとお話を!」


「もはや言葉は必要ない。お互いが引かない、引けないというのなら問答は無用だ」


「なあアイン、もうやっちゃっていいか? 待ちくたびれたぜ」


 手がカマキリの少女ツヴァイがギンギンと自らのカマを交差させて音を立てている。


「おいレナ! 話は後でたっぷりすればいい。こいつらは力が有り余っているようだからな。ボコボコにして大人しくなったところでだ」


「ジミー君……」


「相変わらずねジルミリア。そんなんじゃレナに嫌われちゃうわよ。でも、今回はあんたに賛同するわ。レナ、戦うしかないのよ。守るべきものが何かを考えて」


「ミイちゃん……」


 レナだって本当は分かっているんだ。賢い子だからな。

 そして18歳の大人だ。あとはもう俺が口出しすることも無い。


「うん。分かった。戦おう」


 レナはそう言うと、正面の少女達をしっかりと見据えた。


「とは言えレナちゃん。守護闘士レニールス諸君は4名、こちらは5チーム。1チーム余っちゃう。と言う事で……」


 少し前に追いついたリリアン。


「ここは俺たちに任せて先に行けっ!」


 声を作ってイケボで、ビシッと 招かれざる者オルデの方を指差すポーズを決めて。

 きっと言ってみたかったんだろうなって言うのが伝わってくる。


 小ヴォヴォ様も頭を抱えている。

 この中身はっちゃけ第三王子はレナより一つ上の19歳だというのを忘れないでいただきたい。


「でもリリアンさん、この子達……かなり強い。みんなで力を合わせて戦わないと」


「あらレナ。私も見くびられたものね。ジルミリアはともかく私がやられるっていうの?」


「おいミーリス! 俺はともかくってどういうことだよ!」


「はいはい、威勢だけは5人前ね。じゃあレナ、あと・・は任せたわよ」


「そうそう。ここはボク達に任せて先に行って。分かるよね。レナちゃんが一番大変なんだから」


 リリアンが言っている事はこうだ。守護闘士レニールスと戦わず先に行くということは、招かれざる者オルデと一人で戦うと言う事だ。

 先に行く、先に行かせるというのはそう言う事なのだ。


「でも……」


「でももへったくれもないわよ。そうね、じゃあこうしましょう。これは貸しよ」


「貸し?」


「そ。貸し。この戦いが終わったら 今話題のスイーツ店ミキャラスの超豪華スイーツセットをおごってもらうわ。それで返してもらうの。そうしましょ」


「もうミイちゃんったら」


「あの、私も自腹切るので一緒に……」


「おおーあの噂の店ね。王族のぼ、ゲフンゲフン、ボクもいってみたいかな」


「俺は男だ。スイーツなんぞちゃらちゃらしたものは好きじゃない。でもまあレナがどうしてもって言うのならだな、ごにょごにょ」


 なんか打ち上げの話になってる……。サイリちゃん、自腹切らなくていいからね。


「わかったわ。レナ、自由騎士だから! 憧れの【店を借り切って今日は私のおごりよ!】 をやるわ!」


 マンガとかに出てくるやつか。酒場で今日は俺のおごりだ、好きなだけ飲め、ってやつ。レナがあれをやってみたかったとは意外だが、まあこれで絶対に負けられないな。


「約束よ。みんなで打ち上げするんだから、レナもみんなも無事に帰ろ!」


 ミイちゃんの言葉に、皆が改めて気合を入れる。


「行くよスー。みんなも気を付けてね!」


「ここを通すとお思いですか?」


  耳長の少女アインがため息交じりに言い放つ。


 どうやらこれまでのくだりが終わるのをずっと待っていてくれたようだ。

 いや、違うか。時間が経てばたつほど向こうは有利だからわざわざこちらをつつく必要も無かっただけか。


「押し通る! スー、行くよ、ニノ・コグナス!」


 ああ、任せろ!

 俺はレナを体内に取り込み、レナとの境に防熱フィールドを作り上げる。そして体温を極限まで高めてレナと共に戦うのが、この灼熱炎舞の闘法ニノ・コグナスだ!


 俺は守護闘士レニールスたちを飛び越えるため大ジャンプする。


「行かせません!」


  耳長の少女アインがそれを阻止しようと跳躍するが――


「行かせるって言ったでしょ!」


 それに反応したミイちゃんとセブンドアティッピーが疾風のように回し蹴りを繰り出し、耳長の少女アインは腕でガードせざるを得なかった。


 他の3体の守護闘士レニールスの前にも、ジミー君、サイリちゃんとイヴァルナス、リリアンとヴォヴォ様が立ちふさがった。


 みんなありがとう!


 俺は皆を背に、紫の巨体、招かれざる者オルデに向かって飛び跳ねた。

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