092 第1回イヴァルナス祭り その2

 どうしたレナ、興味を引くものでもあったのか?


 屋台の看板には『すなもぐら釣り』と書いてある。

 どうやらアクション系の屋台のようだ。


「すなもぐら釣りか。まあ庶民の遊びだな」


 一度は言ってみたい貴族様のセリフをためらいなくのたまうジミー君。


 すなもぐら釣りってのは、小さな子供が実際にやってみる所を見るとこんな感じ。

 大きく平べったい箱の中には砂が敷き詰められていて、そのなかに何匹かのすなもぐらが潜んでいて、棒の先に糸でつるした餌で釣り上げる、という遊びのようだな。


 Eランクのサンドモール(すなもぐら)は地中で生活しているだけあって音には敏感なのだ。

 その特性を利用して、砂の上に餌を滑らせるようにすると、音を聞きつけたサンドモールがその餌を狙ってくる。タイミングを見計らって餌を地面から上げるとサンドモールがそれを取ろうと砂の中からジャンプするのだ。

 餌に食いついて体が砂から出たらOK。タイミングを誤って砂の中に餌を引っ張り込まれたら失敗だ。


「レナやってみたいかな。おじさま、1回おいくらかしら」


 1回だな、ほらよ、と屋台のおっちゃんから餌一式を渡される。


「よーし、大きなもぐらさん釣り上げるよ」


 意気込むレナ。棒を砂のプールの上に向け、そっと下ろしていく。

 どこが狙い目だろうな。前の人がプレイし終わったらすなもぐらが飛び出した穴は埋められてしまうからな。どこに大物が潜んでいるのか平らな砂からでは見分けがつかない。


 つつーと静かに砂面に餌を滑らせるレナ。

 ドキドキワクワクという無邪気な表情がとても魅力的だ。


「あっ! 餌取られちゃった……」


 俺がレナの表情に気を取られた一瞬のうちに、餌は砂の中に引きずり込まれてしまったようだ。

 これ、結構難しくない?


「よーしレナ、次は俺の番だ。俺の凄さを目に焼き付けるといい。おっさん、俺も1回だ!」


 ジミー君もお金を払い、砂プールの前にスタンバイ。


「いいかよーく見ておくんだぞレナ。素人はすなもぐらを吊り上げようとして餌を動かし続ける。でもその行動はすなもぐらに餌の情報を常に与え続けてるってわけだ。だからこうする」


 そう言うとジミー君は砂の上に着地させた餌をすーっと動かしたかと思うと、ある一点で止めてしまった。そして――


「今だ!」


 気合一閃、餌を引っ張ると、それを取ろうとすなもぐらが砂の中から大ジャンプ。見事に釣り上げることに成功した。


「ほら、どうだレナ。すなもぐら釣りの極意は待ちなんだぜ」


 ぷらぷらと餌に食いついてぶらさがっているすなもぐらを見せびらかすジミー君。


 言うのは簡単だが餌を止めてじっと見つめているとは言え、餌に向かってすなもぐらが進んでくる僅かな砂の動きを見切る必要があるから難易度高いぞ。


「すごーい、ジミー君すごーい!」


 そんな玄人の技にレナは称賛を送る。

 いやあそれほどのことはあるけどな、と自慢げなジミー君。


『ナイスです坊ちゃま。昨日練習した甲斐がありましたね』


 えっ!?

 後方で誰かがそう言った気がしておどろいて正体を探ったところ、すぐ後ろに変装をしたジミー君ちのメイドアーリさんとクラザさんがいた。

 びっくりした。変装して人ごみに紛れての警護か。それなら距離が近くても気づかれないな。現に二人は全く気付いていないからな。


「どうせろくなものはないだろうが、レナ、何か欲しい景品あるか?」


 ふむ、景品とな。

 なるほど釣り上げたすなもぐらの大きさによってもらえる景品が異なるようだ。ジミー君が釣り上げたのはこの店で最大級のすなもぐらだったようで、どの景品でももらえるみたいだ。


「ジミー君が釣り上げたのにいいの?」


「ああ、レナに残念賞としてプレゼントだ」


「ありがとうジミー君。レナあの赤い髪留めが欲しいわ」


 レナは景品台に置かれた赤く光る髪留めを所望した。


「あんなものがいいのか? どう見ても安物だぞ? なんなら俺が後でもっといいヤツを送ってやるぞ」


「ん~ん、あれがいいの」


 レナがそう言うならばと、ジミー君は釣り上げたすなもぐらと髪留めを交換し、それをレナに手渡した。


 金属製の赤く光る髪留め。俺も詳しくは知らないが、髪パッチンとかパッチンピンとかそう言われてるやつだ。


 レナはさっそくそれを髪に刺しパチリと固定する。

 耳にかかっていた髪を固定したので、小さな可愛い耳が見えるようになる。


「ありがとうジミー君。大切にするね」


 お、おう、と言いながらジミー君は顔を赤くしていた。



 らんらんらんと上機嫌のレナ。

 あれやこれやと屋台を見て回る二人。

 後方でガッツポーズをしているメイドさん達。


 そんな中、レナが再び足を止めた。


「あっ……。あれ欲しい。珍しい草」


 レナが目にしたのはとある屋台の景品置き場。その一角の目立たない場所に置かれていた青色の草だった。


 神カンペによるとあれはシュギム草。ギザギザのついた堅めの草で、中には栄養が詰まっているらしい。見たことないと思ったら、ルーナシアは生息地分布に入っていないようだ。

 どんな味がするのだろうか。神カンペに味は載ってないからな。まあ神達は草を食べないだろうからしかたないね!


「草? 育てるのか?」


「食べるの。レナじゃないよ、スーだよ」


「なんだスライム用か。まあいいだろう。俺の腕前を見せてやろう」


 レナが欲しいというのなら何が何でも入手してやるという意気込みが見える。いいぞ男の子はそうでなくっちゃ。


 挑戦するのは、メタルグレイプス投げ。


 説明しよう! グロリアメタルグレイプスはEランク。ピンポン玉くらいの大きさのグロリアがブドウのふさのように何体もくっ付いて一つの群れを成しているグロリアだ。

 金属質の体を持つこのグロリアの面白い所は、磁力のような力でオスはメスとぎゅっとくっ付くのだが、同性、つまりはオスとオス、メスとメスは反発して絶対にくっ付かないのだ。

 そういうわけでふさは分子の構造模型のように絶妙な造形をしているのだ。


 それが屋台とどう関係がって? うんうんつまりはだな。

 目の前には手前に向かって傾斜した大きな一枚板。その板にはメタルグレイプスが一体ずつ隙間を開けてうまい具合にちりばめられている。そのメタルグレイプス自身がターゲットになる。狙うべき的だ。

 そして投げるのもメタルグレイプス。この店では10回投げれるようだな。渡されるメタルグレイプスはオスかメスかは見分けがつかない。そして板に張り付いているメタルグレイプスも同様だ。

 つまり投げながら板のメタルグレイプスの性別を判定し、沢山くっつけて高得点を狙うというゲームだ。

 的の配置は店ごとに工夫を凝らしていて、あからさまにはじかれるだろ、というものもあるのでそこら辺の見極めは大切だ。


 いやー、昔行ったお祭りで見た時に気になってたんだよね。

 とと、解説に夢中になっている間にジミー君のスタンバイが完了してるじゃないか。


「それっ!」


 ジミー君の一投目。的の上部の何もない所を狙って投げた。この投げ方、玄人だ!

 投げられたメタルグレイプスは板の傾斜によってコロコロと転がり落ちていく。その途中ではじかれたりくっついたりするのだが、それによってオスメスの配置を判別する高等テクニックだ。


「下のところでくっついたわ。得点無しになるところだったね」


 そう、この投げ方は偵察が目的で、下手するとどれにもくっつかず下に落ちてしまうという諸刃の剣なのだ。


「ふふふ、まあ見てなって。そらよ!」


 メタルグレイプスを投げるジミー君。

 手持ちのメタルグレイプスはすでに同性のはじき合うグループ分けが済んでいる。くっつくかくっつかないかが重要なので性別はあまり関係ないのだ。


 それらをひょいひょいと投げ続け、そして十投。


「うわー、ジミー君凄い! 全部くっついたよ!」


 さすがに俺も驚いた。これはかなりの腕を持っているな。

 俺の中でジミー君の評価が一段上がったぞ。


「ほーらスー、おいしそうな草だよ」


 文句なしの評価でゲットしたシュギム草を俺に与えてくれるレナ。買い食いはダメなんだぞと伝えたい所だが、今日はお祭りで、俺のためにわざわざシュギム草を取ってくれたのだから無粋な事を言うまい。


 うん、これは斬新な触感。ギザギザの固い表皮があってその中はプルンプルンの果肉みたいになってて、おお、薄味なんだけど、体に染み渡るような、癖になるような味だ。


「レナとは長い付き合いだがスライムが草を食べるところは初めて見たな」


「おいしそうに食べるでしょ。可愛いんだよ」


「ん、んんー。可愛いかどうかは良く分からんが、草が体に吸い込まれて行くのは面白いっちゃあ面白いな」


 ヤダ、食事シーン見られてた! 恥ずかしい!

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