029 リゼルとの魔境探検 - vs岩女その2

 まあそれは置いといて……この2つの物質をどうするんだ?

 片方は硬くて斬撃攻撃に強くて、もう片方は柔らかくて打撃攻撃に強い、ってことはこれを混ぜて斬撃にも打撃にも強い物質を作るのか?


「スー、お前はスライムとは思えないくらい賢い。この二つの物質の効果を理解していて、混ぜて使うのか? って考えているだろ」


 いつも思うけど、俺って思ってることが顔に出やすいたちなのだろうか。

 目も鼻もないスライムだけど。


「半分正解だ」


 なぬっ、半分だけ⁉


「ほら、こいつを使うといい」


 俺を地面に下ろしたリゼルは自分の首に巻いていた赤く長いマフラーをしゅるりと解くと、俺の体に巻き付けて、ずり落ちないように後方で縛った。


 おいおいなんだどういうことだ、説明を要求する。

 なんで俺が口元にスカーフを巻いた銀行強盗みたいな恰好をさせられているんだ。


「このマフラーはヨーランディアビートルの吐く糸で編まれた特別なものだ。そうだな。まあ私からのプレゼントだよ」


 プレゼントありがとう、って、戦闘中なんだぞ?

 ほら、岩女が技後の硬直から立ち直ってこっちに向かってきてるぞ。

 

「半分正解というのはだな、二つの物質を混ぜると互いに反発し合って使い物にならない物質が出来てしまうからだ。

 そこでこのマフラーを触媒にして反応を抑え込み、いいとこどりの物質を生み出すんだ。

 いいかいスー、キサニウム化マルリンとスグロンジナスカ酸トルミストールを4対1だ。その割合を崩してはいけない。私が研究の中で見つけた最適値だからな」


 なるほど化学反応の触媒ってやつか。

 さすがはリゼルだ。グロリア専門家の名前は伊達じゃないな!


 俺は目前に迫った岩女の横をすり抜けて背後に回ると、リゼルに岩女の注意が向かわないように後ろから攻撃を入れつつ、二つの物質をリゼルに指示された通りの割合でマフラーにしみ込ませていく。


 マルリン4、スグトル1、マルリン4、スグトル1……。


 背中に回った俺に向かって岩女はぎぎぎと音を立てながら体を反転させ攻撃を繰り出してくるが、その再攻撃をかわし、体当たりを続けながら注意をこちらに引き付けて、リゼルから距離を取らせる。


 俺の体当たり攻撃に打撃効果は無くて、マフラーにしみこませている途中の液体が岩女に付着してしまうだけだが、リゼルへの注意を逸らすには十分だろう。


 そんな風に立ち回っていた所、今まで打撃効果のないことを示すベチンベチンという音だったのが、マフラー全体に物質が行きわたった辺りで違う音へと変化していった。


 それはまるで金属が岩にぶつかるような音。


 これは……液体をしみこませたマフラーが固くなってる?

 それも元々の貝殻の成分キサニウム化マルリンよりも固く、まるで金属のように!


 これならば、と、岩女の大振りの一撃に向けて体当たりする。

 ぎぃぃぃんと言う耳をつんざく程の音が鳴り響き、振り下ろされた岩女の腕が真っ二つに折れたのだ。


 やった! 攻撃が通じたぞ。

 健太郎は『かたくなる』を覚えた! というナレーションを入れてもいい!


 見てたかリゼル、この俺の雄姿ゆうしを。


 と思ったのもつかの間、岩女が折れた腕と腕を引っ付けると、何事もなかったかのように腕が結合したのだ。


 再生能力か。確かに神カンペにもそうかいてあった。

 気が動転していて忘れてたぞ。


 『岩女:Cランク

  岩に擬態する人型のグロリア。その体は岩そのものであり生半可な攻撃は効かない。力はあるが動きは遅く下位ランクのグロリアでも対処が可能だが、再生能力が高いため倒しきるには同ランク以上のグロリアでなくては難しい。ちなみにかつてはストーンマンと呼ばれていたが人間達の間でいつのまにか岩女と呼ばれていたので名前を変更する。(5861476621追記)』


 ふむふむ、昔はストーンマンと呼ばれていたが……って、そんな豆知識を追記するくらいなら弱点を書いておいてくれ。


 そうだ、キルベス先輩はどうなったんだ?


 リゼルのさらに背後にちらりと気をやると、粉々になった何体かの岩女が今まさに再生中であった。


 キルベス先輩も苦戦……いや、ただ手を焼いているだけだな。それにしても砂状にまで粉々にするなんてさすがAランクのドリルだ。


 ――ガギィィン ガギィィン


 岩女が両腕をぶつけ合って鳴らす音。

 まるでくっつき具合を試すかのようなその音で、俺は意識を前方に戻した。


「さてスー、これで攻防無敵の鎧を手に入れたわけだ。後は難なく岩女を倒してもらうだけだ」


 いやいやいや、見てたでしょ?

 確かに攻撃は通用したよ? でもくっついたじゃないか。

 ほら、キルベス先輩が粉々にした岩女も再生を始めてるよ。


「なに、難しい事はない。さっき体当たりしている時に混合した物質を塗りつけた部分があるだろ。そこに一撃加えるだけだ。それで終わる」


 ガジンガジンと地表に露出している石と巨大な岩石とがかち合う音がする。岩女がこちらに向かってくる足音だ。

 音が鳴る頻度、つまり歩数は少ないが、歩幅は大きいのでもうすぐ目の前までやってきている。


 ええい、仕方ない。よくは分からないがリゼルが言う事に間違いはない。


 直上から振り下ろされる岩の腕。


「上だ、スー! かわして止めの一撃を入れるんだ!」


 俺は指示通りに迫りくる一撃を回避する。


 一撃を放ち終えて腕が地面にめり込んでもたついている岩女。


 狙うは一点! 液体の付着したその腹だ!


 気合一閃、俺は岩女の懐に向けて渾身の体当たりを繰り出した。


 甲高い音が響き渡ると同時に俺の体は天地が逆さまになった。

 力を入れすぎて攻撃の反動を受けたのだ。

 跳ね返った俺は、地面との反動を利用して体勢を立て直す。


 目の前には俺の一撃を腹に受け、そこからヒビが周囲に広がっていく岩女の姿。

 

 その丸い空洞の口が呪詛のような言葉を吐いたように聞こえた。


 そして……ヒビの中心から真っ二つに割れた岩女は地面へと倒れこんだ。


 すぐさま再生を始めたようだが、ヒビの中心部分、つまりは液体が付着していた部分の再生が行われていない。


「岩女は再生の際に僅かでも異物が混入すると再生できなくなる。じきに再生のための力も使い果たすはずだ」


 なるほど。別にこの2種類の物質を混ぜたものじゃなくてもいいわけだ。


「さあスー、キルベスの相手をしている3体に消化液を浴びせてやれ」



 その後あっけなく戦闘は終わった。

 キルベス先輩の相手にしてた3体を含めて全部で4体の岩女を倒した。


 キルベス先輩はニコニコ顔をして俺の体をなでようとしたが、硬いマフラーに阻まれて残念顔に変わってしまった。

 この硬いマフラー、戦闘時はいいんだけどこのままじゃあ何かと不便だな。


 俺はリゼルに解決方法を教えてもらって、別の物質をマフラーにかけることできれいさっぱり二つの物質を洗い落としてふわふわなマフラーへと戻した。


 マフラーは大事に体内にしまっておく。

 俺の切り札だし、なによりリゼルからのプレゼントだからな!

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