030 リゼルとの魔境探検 夜のイベント1

 岩女との激戦の後、はふぅと一息つく。

 俺には口もなく肺もないんだけどね。

 つまりはそんな感じのアクションを取ったってことだ。


 そうやって気分を切り替えていたところ、そもそも休憩のためにこの場所に来たのだということを思い出した。


 さすがのリゼルも戦闘後なので少し休むことを決めた。

 よしよし、おれの思惑通りだな。


 そういえばリゼルは歩き疲れてた様子だったけど、戦闘中は生き生きしてたな。

 実は戦闘大好きなんだろうか。


 とは言えリゼルも疲れているだろう。俺も疲れてる。

 キルベス先輩が周囲の気配を探り、近くにはぐれグロリアがいないことを確認している。

 そのため俺はひらべったい大きな岩の上でにゅるりこむ。

 まあアレだ、だらりと力を抜いて水たまり状になったのだ。


 あぁ~ひんやりとした岩が気持ちいい。

 ほてった体に染みるぜ。……俺の体はほてったりしないのだが、まあ激戦の後だ、そんな気分なのだよ。


 リゼルも水筒を取り出して中の水を喉に流し込んでいるようだ。

 そうそう、水分補給は大切だからな。俺が言うまでもなくリゼルなら分かっていると思うけど。

 

 俺とキルベス先輩には手のひら大のカプセルのようなものを渡された。

 この中にはリゼルお手製のグロリアの滋養強壮に効く液体が入っているのだ。

 さらりとした喉越しで喉も潤うというわけだ。俺に喉は無いけど。

 

 キルべス先輩はカプセルにドリルで小さな穴を空けてそこから液体を飲んでいるけど、俺にはドリルも手も無い。

 そんなわけで俺はカプセルを体内に取り込んで消化し始める。もちろんカプセルは無害だ。

 カプセルが原型を留める限界を超えてぷちゅんと体内で弾けた。

 うはー、効く効く。HPを20回復だ!


 それにしても岩女は手ごわかったな。弱点を知らなければ延々と戦う事になっていたぞ。

 まあ新技の『かたくなる』も覚えたし、リゼルにしたら俺の修行にもってこいだと思ったんだろうな。


 俺はもう動かなくなった岩女の残骸を視界に収める。


 あれ? おかしいぞ。

 俺たちが倒した岩女は4体。だけど辺りに散らばっている残骸は明らかにその倍はある。

 バラバラになっているからってさすがに見間違いをするはずがない。


 俺がぷるぷるしている姿を見てリゼルも気が付いたようだ。


「ふむ。何者かが私たちの前に何体かの岩女を倒したようだな。

 森のグロリアがやった、というわけでは無いようだ。食えないこいつをわざわざ相手にする獣なんかいない。

 じゃあ誰が、ということになると、そいつは私たちが探しているカミャムに違いない」


 俺はすぐさまカンテラ内の輝力魚に目を向ける。

 輝力魚はくるくるとカンテラの中を泳ぎ、時たますいーっと上に上ったり下がったりと、不規則な動きのままだった。


 リゼルがカンテラを岩女の残骸に近づけると、不規則だった輝力魚の動きは止まり、残骸の方向を指し示すかのように頭をそちらに向けた状態のまま泳ぎ続けている。


 反応してるぞ!

 誰かの輝力がこの場所に残っているってことだ。


「この場所に立ち寄った可能性は高いが、それが今も無事であるという事にはつながらない。キルベス、スー出発だ。カミャムの捜索を続けるぞ」


 探し人の手がかりをつかんだ俺たちは士気を高めて再び捜索へと向かう。


 だが、そのあとそれらしい痕跡は発見できず輝力魚の反応もなく時間が過ぎて……夜のとばりがおり始めたので今日の捜索はここまでとし、キャンプに適した場所を探して野営を始めたのであった。


 ◆◆◆


 夜も深まり、辺りは静けさに包まれている。

 とはいえ静かにしていると、ゲーゲー、キーキー、コロコロ、シャシャシャ、などと鳥グロリアや虫グロリアの鳴き声がひっきりなしに聞こえてくるので、これはこれでうるさい。

 俺のようなシティーボーイに森の中は厳しい。

 リゼルの拠点は山の中にあるけど、寝る場所は屋内なので静かなのだ。


 夜間の森の中。

 晴れているはずなのに、月や星の光は上空の瘴気に阻まれてほとんど届かない。月ですらそこにある気がしないでもない、それくらいの光りようだ。

 つまりは凄く暗い。


 そのためリゼルはたき火を起こして火の番をし、周囲を警戒している。


 後ろにはテントが建てられている。リゼル就寝用だ。

 どこから出したのかと思うだろう。なんせリゼルはウェストポーチしか身に着けていなかったからな。


 答えは簡単だ。


 リゼルはこの場所に到着するや否や、クラテルからモゴンを呼び出し、その口の中から野営道具一式を取り出したのだ。


 ここからしばらくは俺の回想シーン。

 夜の森に飽きた俺の回想シーンだ。


 野営道具一式を取り出したリゼルは平たい場所にテキパキとテントを建て、周囲に側溝を掘って水除けとして、10分もたたないうちに寝床が完成していた。

 ブロック塀のような石材を積み上げてかまどを作り、火をおこし、取り出した大きな鍋にこれまた取り出した水と葉物野菜、根菜、芋、そしてファントムターキーの肉(分身)を一口大に切ったものを投入し、独自配合の調味料を加えて、煮込むこと数十分。

 おそらく辺りにスープのいい匂いが立ち込めているはずだが、はぐれグロリアに気づかれないのだろうか。


 スープが完成したら夜ごはんだ!

 リゼルがスープを食器に注いでいく。キルべス先輩は雑食なのでそのまま、俺は草食なので肉抜きで野菜多めに。それに、このスープ作成の立役者のモゴンにもスープが振舞われている。

 残念ながら、森まで運んでくれたヴァリアントホークヒーランは野営地のスペースの関係でクラテルから呼び出すことが出来ずである。


 いただきまーす、なのだがアツアツのスープをそのまま体内に入れると俺は火傷してしまう。

 スライムの契約者マスターとしては初歩中の初歩事項で、もちろんリゼルもそれを心得ており、フーフーと吹いて冷ましてくれる。


 スープって結構熱いから吹いて冷ましてると時間がかかってしまい、リゼルが自分の分を食べれないから気の毒だ。

 俺は体をゆらして大丈夫だからと伝えると、そうか? といいながら残念そうに自分のスープをすすり始めた。


 ほどよい温かさになったスープ。俺は食器に体をピタリと付けるとスープを体内に取り込んでいく。

 うん。普段草ばかり食べてるけど、芋もいいねこれ。

 ほっくほくでいい。焼いた芋とかはスライムボディの水分を吸っちゃうからちょっと好みじゃないけど、スープで水分が多くなって、うん。うまい。


 そんな俺の横で、スープを一気に口の中に流し込んだモゴン。

 気になるんだが、モゴンの口の中に入った食べ物もほお袋に収納されるのだろうか?

 さすがにそれは無いか。ちゃんと胃に行ってるんだろう。


 などと、危険な森の中で心温まる団らんが行われたのだ。

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