028 リゼルとの魔境探検 - vs岩女その1
「キルベス、スー気を付けるんだ。後ろにもいるぞ!」
リゼルが言い終わるや否や、後方にも複数の岩のグロリアが出現し、前後で挟まれた形になる。
くっそ、また擬態するグロリアか。
こいつはCランクの岩女だ。
いくつかの大きな岩がくっついて人の形をしている。
丸太のように太い手足には指が無く、まるで岩の柱だ。
顔部分には口と思われる穴が一つあるが鼻は無い。
名前にある「女」とはおおよそ見えないのだが、人間の顔で目に当たる部分は、頭のてっぺんから下に向かってまるで髪の毛のように垂れ下がった岩で覆われていて、いわゆる両目隠れの状態だ。
つまりはまあ、この様子から岩女と名付けたんだろう。
何度も言うけど俺はDランク、岩女はCランク。
単純な強さ的には俺の10倍はある。
岩女は直立不動ではなく少しだけ前のめりな体勢で、両腕を体の前に垂らした姿勢のままこちらに向き直っている。
「キルベス、後ろは任せたぞ。私はスーと
後ろには数体の岩女がいる。しかしまあ
問題は俺のほうだ。リゼルと協力するとはいえ地力の差はいかんともしがたいぞ?
「どうしたスー? 自信が無いのか?」
自信も何も、無理げーでござる。それを分からないリゼルじゃないだろうに。
「大丈夫だ。私を信じろ。リゼル・クーシーだぞ?」
自らのあふれ出る自信を恥ずかしげもなく披露するリゼル。
なんか分からんがすごい説得力を感じる。
そうだな。リゼルだもんな。わかった。俺やるよ!
「ふふふ、いい子だ。勝つという意思が大切なんだ。それが無ければ勝てるものも勝てないからな」
そういえば、俺がリゼルと一緒にマンツーマンで戦うのは初めてかもしれない。
リゼルの指示のもと戦ったことはあるけど、それは訓練中の組み手相手にも同じく指示を出している場合だったり、俺がサブキャラの場合で指示と言うよりはアドバイスをもらったりすることが多かったな。
さあリゼル指示をくれ! 完璧にやってみせるぞ!
俺は目の前の岩女に集中する。
お互い今は射程外だ。
岩女の攻撃方法は巨体での重さを生かした打撃攻撃。岩の体を持っているので手足を振るだけで強力な打撃が飛んでくる。おまけにタッパがあるので手足のリーチが長い。
バランスボール大の俺なんかいい的だ。
対する俺の攻撃方法はこの柔らかスライムボディによる体当たりがメインだ。
あの岩の体にダメージが通るとは思えないが、スピードと体重を乗せた一撃ならあるいは。見た目より体重あるからね、スライムは。
さあリゼル、体当たりで攻めたらいいのか?
「いくぞスー!
まずはキサニウム化マルリンとスグロンジナスカ酸トルミストールを生成するんだ!」
キサ? なに?
え、ちょっとまって、何を生成するって?
「キサニウム化マルリンとスグロンジナスカ酸トルミストールだ」
俺の動揺が伝わったのか、再度指示をくれる……が。
ちょいまち、なんか薬品的な名前だけど、どうやって作ればいいんだよ。
あわわ、岩女が迫ってきてる。
ガッチンガッチンと岩の擦れる音を立ててこちらに向かってくる岩女。想像よりも速いぞ。
ええい、ここは神カンペの力を借りるしか!
向かって来る勢いを利用して俺を蹴り上げようとする岩女。
その太い足を回避しながら神カンペの化学分野ページをめくる。
『キサニウム化マルリン:背中に殻を背負うグロリアがその殻を作るために生成する物質。硬くて軽く刃物を通さないが、打撃には弱く強い力を受けると割れてしまう』
『スグロンジナスカ酸トルミストール:核を中心に人型の軟体を作るグロリアが自らの体を維持するために生成する物質。衝撃を散らす性質があり打撃にはめっぽう強いが、一点に力がかかると結合がほどけてしまうため、斬撃には弱い。また質量が重く素早い動きを阻害するのもネック』
なるほどなるほど、グロリアが作り出すことが出来る物質か。それなら毒素を作る応用で生成できそうだ。
まずはキサニウム化マルリンから。神カンペに書いてある構造成分の通りに自らの体の一部を変成させる。
俺とて無から有を生み出すことは出来ない。材料はこのスライムボディだ。
分解したスライム細胞から何とか生成することに成功し、それを体内に溜めておく。
続いてスグロンジナスカ酸トルミストールの生成に入る。
ぬっ、こっちは結構難しい。
あ、ちょ、失敗、もうちょっと酸を高めに……。
などと集中してしまい岩女の攻撃回避に割く脳のリソースを使ってしまったことで、俺は手痛い一発をもらってしまう。
その攻撃に気づいた時にはすでに遅く、岩女のハンマーのような一撃が俺の真横を襲ったのだ。
キツイ一撃を受け、どこまでも吹っ飛び続けるんじゃないかと思った矢先、予想しない所でその勢いは止まった。
「大丈夫かスー?」
丁度真後ろに吹っ飛ばされた俺の体をリゼルがキャッチしたのだ。
ありがとうリゼル。すまない。
強力な一撃ではあったが俺のぷにぷにスライムボディがその衝撃の大半を殺していたので、リゼルへの衝撃は少なかったのだ。
さすがは打撃耐性に定評がある体だ。
吹っ飛ばされたのは痛手だったが、スグロンジナスカ酸トルミストールの生成にも成功している。こちらも体内に溜めているぞ。
――つぷっ
ひゃあっ!
何するんだリゼル!
リゼルが人差し指を俺の体に突っ込んだのだ。
あ、ちょ、そこは!
指を引き抜いたリゼルは指先に着いた液体をペロリと舌で舐める。
「うん、思ったとおりだな。スーなら作れると思っていたよ。確かにキサニウム化マルリンの味がする。もう片方がスグロンジナスカ酸トルミストールだな」
どうやら俺の体内で物質を溜めていた場所は黒色ボディの色が薄まっていたようで、そこを突いて指示した物質が完成しているか確かめたようだ。
だけどもう少しやりようがあるだろう。
それにダークスライムは毒をもってるんだぞ。毒かもしれない何か分からない物質を口に入れるなんて……って、愚問だな。
何を怒ってるんだ? スーに限ってそんなことはないだろ? と全幅の信頼を置いている顔をしているリゼル。
いやいや、毒の件はいいとして、急に指をつっこまないでくださーい。
びっくりするから。
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