069 王宮主催お披露目会
「いいですか皆さん。
いつになく気合の入った先生の言葉。
それもそのはず。
先生の言うように、身に着けたお嬢様力を披露する一世一代の場なのだが、その相手というか、目的というのが――
「我々の学年の大本命は第3王子グラウ様。もしくは少しお年は下になりますが、第4王子ミスラン様。年上すぎますが王家の縁戚アルバスター家のナクト様。このお三方のお眼鏡にかなうことがあなた方に課せられた使命です。それではウエディングを目指して日々精進しましょう」
まあこういう事だ。
そもそもこの学校の目的が紳士淑女の育成で、王家の伴侶としてふさわしい女性を育て上げることにあるのだからこういうイベントが組まれているのは仕方のない事だ。
この世界では15歳から結婚できるため、婚約はもっと若いころから行われるのが通常で12歳でもその例に
日本人一般ピープルだった俺としては小学6年生相当の年齢ではまだ早いと思うんだけどなぁ。
ちなみに1年生は入学してから時間も短く、お嬢様力がまだ身についていないという理由から参加することが出来ない。
さてさて先生の話を聞いたレナの様子はと……。
うーん。やっぱりあまりピンと来てないし、なにそれおいしいの的な表情だ。
うちのお嬢様にはまだ早いんだよ。うんうん。
――放課後 とあるカフェ
「王子様のお嫁さんになるってイメージわかないよ。だってレナはスーと結婚するし」
レナはそう言うとストローに口をつけ、ガラスのコップに満たされたオレンジジュースを喉へと運んだ。
席の対面にはナノちゃんとミイちゃんが座っている。
今日は幼馴染3人組でのお茶会だ。先だって仲良くなったサイリちゃんは今日は都合が悪くて参加していない。
「へー、令嬢科ってそんなイベントあるのね。騎士科には無いわね。代わりに騎士試験はあるんだけどね」
騎士科に在籍しているミイちゃん。
目の前のチーズタルトをパクつく。この店自慢の逸品だ。
「そうですねぇ、令嬢科はそれが最終目的ですからね。でも令嬢科も騎士科も、ある意味ゴールが分かりやすくていいと思います。文官は試験は無くって才能で登用されるらしいですし」
生クリームたっぷりのイチゴショートが大好きなナノちゃん。フォークでそれをすくって小さなお口に入れると、んーっ、最高! っていう表情をしている。
「私はお父様に言われて文官科に在籍してますが、今一つ文官のお仕事ってよくわからないのです。税金を集めたり、外国に行って偉い人と話をしたりするようなイメージしか無くて。
普段はとにかく計算であるとか歴史であるとかそんな授業が多いのですが、それが将来どんな役に立つのかはあまり教えてもらえないんですよね」
「文官って難しいのね? 令嬢も良く分からないけど」
そう言ってレナは俺にマルラーヌ草のミストビー蜜漬けをあーんしてくれる。甘い味のマルラーヌ草はデザートにぴったり。35歳男性だった時には甘ったるいものはそれほど好きではなかったけど、今はスライム。好物の草には目がないのだ。
「でも文官科も令嬢科と似たようなところあるんですよ。頭良く、そしてレディたれという事なんです。令嬢科と違って男女混合なんですけど。でも……文官科って女の子がほとんどいないんです。そんな男の子ばかりの状態をハーレムっていうらしいのですが、その事をお父様に相談したら、その中でいい相手がいたら教えなさいって言ってました。私の結婚相手候補にする気らしいのです」
「文官科もそうなんだ。私の騎士科もおんなじような感じ。女の子は私ともう一人だけなの。あとは全部男の子。男の子が多くても私には関係ないけどね。私はお父様みたいな強い騎士になって、王様を警護するの!」
女の子達は大部分が令嬢科に在籍していて、文官科も騎士科も在籍する人は少ないからなぁ。これはこの国の風土というか習慣というか、やっぱり女の子は結婚だよね、という考えに基づいていると思う。
「騎士は結婚しないの?」
「うーん。恋愛結婚は無いかな。お父様は武家の男の子と私を結婚させたいみたいだし。でも、結婚しても王様の警護って続けられるのかな?」
「二人のお父様達はもう結婚の事考えてるんだ。うちはどうなんだろう?」
◆◆◆
お茶会が終わって帰宅して。
パパとママがレナの将来について何か考えているのか聞くことにしたレナ。
まずはママから当たってみる。
「どうしたのレナ? 将来の話?
そうねえ、素敵なレディになって素敵な旦那様を見つけてほしいかな。ママとパパは恋愛結婚だったから、恋は素敵よ。
お母様……あ、レナのおばあ様の事ね。おばあ様はそんな私達にカンカンだったけど、最後には分かってもらえて、それでジョシュアとレナとを授かって……とても幸せよ。
レナが嫁いでいくのは寂しいけど。でも、ママになったレナとママ話をしたりしたいわね」
次は帰宅したパパ。
「そうだなぁ。立派なレディになって欲しいから学校には通わせているけど、学校の方針みたいに無理に王族と結婚しなくてもいいと思うよ。ママの言う通り好きな男を見つけて嫁ぐのがいいかな。
レナが幸せになるのがパパの一番の望みだ」
どうやら二人とも共通して恋愛結婚派のようだ。
結婚して家に入るというのも共通認識。
二人の話を聞いた後、文通相手のエミルちゃんからの手紙が来ていた。
『貴族だからって家に入るだけじゃないと思っていますわ。気に入ったのなら庶民がしているような仕事をしてもいいかと。伯父様なんかトレジャーハンターをしていますもの。それに、もし結婚しないつもりなら手に職がないとだめですわよ。食べて行くためには働くことが必須ですわ。庶民の方々は契約しているグロリアに合った仕事を選ぶらしいのでレナさんの場合は、たとえばスライム研究者とかいかがでしょうか。世の中スライムと契約し続けている人はあまりいなくて、そう言う人はもっぱら研究者の人が多いと聞きます。その多くは金の元になるという素材、賢者の石の生成のためにがんばってるらしいですわよ。スライムを進化させ続けると賢者の石を生成してくれるという事らしいのですが』
えらく具体的な話が書いてあった。
エミルちゃんもお嬢様なのに結構現実的なんだな。トレジャーハンターの伯父さんの影響か?
ちなみにエミルちゃんが恋心を寄せているのはお父さんの弟である叔父さんであって、トレジャーハンターなのはお父さんの兄である伯父さん。
「ねえスー、よくわかんないよ。レナはどうしたらいいのかなぁ」
ベッドの上で大の字になって、横にいる俺にそう問いかけて来たレナ。
いろんな人の意見を聞いて頭がごっちゃになっているのだろう。
そうだなぁ。俺もパパと同じでレナが幸せになってくれるのが一番いい。 この世界ではやっぱり結婚して家庭を持つのが幸せのルートってされてるから、だれかいい人と結婚して欲しいな。
その前段階として……いつまでも俺離れをできないのは困るかな。グロリアとは結婚出来ないからな。
とは言えなー。レナが俺に好き好きコールしてくれるのを、
このまま曖昧な態度を取り続けて、レナが好きな人を見つけてくれるといいんだが……。
もちろんその相手はレナを守ってくれてレナを幸せにしてくれるのが絶対条件だ!
俺がそう考えていた傍から――
「私はスーと結婚するけど、家はお兄様が継ぐから、ずっと家にはいられないし。とするとエミルさんが言ってるように食べていくには働かないといけないから、でも、どうやって働けばいいのかわからないし。うーんうーん」
やっぱり俺と結婚するのが前提の話になってるなぁ。
まだ小6相当のおこちゃまだから、将来の話をするのはちょっと早すぎるのかな。
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