168 やっぱりスライムじゃなきゃね!
解説しよう。つまりは回想シーンだ。
赤色レーザーを撃たれた時の事だ。
驚くことにその赤い光はゆっくりと広がりながら俺達へと向かって来ていて、今まさに死ぬ直前に感覚が引き延ばされている……そう思ったのだ。
だが光はいつまで経っても俺へと到達せず、俺は自分が死んだことにも気づいていないのか……と思った。
そしたら声が聞こえるではないか――。
『まだ倒れる時ではありません。ですが、あの男はもはやあなた達の手に負えるものではありません』
な、なんだ?
女の人の声……。
『私の名はセリヌディガイン。あなた方の言う所の神です』
神?
そうか、俺は死んだのか。もしかしてまた異世界転生するのかな……。
『いいえ、あなたはまだ死んでいません。あの男の攻撃はあなたにはまだ届いていません』
?
『この世界の時間を止めました。今この世界で動いているのはあなたの意識だけ』
さらっと凄い事を言ったな。さすがは神様だ。
『あなたに力を授けます。今のあなたならその条件を満たしている。さあお行きなさい。時間が再び動き出します』
あっ、ちょっと、展開が速い!
時間を止められるならもうちょっと話を、って、赤い光が迫って、あーっ!
………………
…………
……
と言う事があったのだ。
つまりまあ、俺もよく分からない。
『セイクリッドブラスターを放つのです』
!?
神様!? まだいたの?
『います。さあ』
さあって言われてもな。なんだよセイクリッドブラスターって。
「その姿は……グランドドラゴン! どういうことだ
その姿? グランドドラゴン?
おわっ、なに、俺の姿、変わってる!
俺の姿は先ほどから一回り大きくなっていた。大きな翼もあって、そして鱗が全て
『グランドドラゴン:Sランク
神の祝福を得たドラゴン。世界が闇に包まれた際に送り込まれる無敵の力を持つドラゴン』
神カンペの新しいページだ。
まだこんなグロリアが存在していたのか。
「どこまで邪魔をしてくれたら気が済むんだ! おのれっ、くらえ、くらえ、くらえーっ!」
四本の腕が連続して輝力弾を放ち、腹部からは絶え間なくミサイルが発射される。
だがその攻撃は俺に届くことは無く直前で光り輝くバリアのようなものに阻まれている。
『忘れていませんか? セイクリッドブラスター』
わ、忘れてませんよ! ちゃんとやりますから。
とは言ったものの神カンペでカンニング。
『セイクリッドブラスター
グランドドラゴンが吐く神聖なブレス。そのブレスはイダグスタン現象を引き起こし、全ての物を無に帰す』
よくわからないけど要はブレスだ。吸って吐くだけのお仕事だ。
さらばだオランドット!
来世では真っ当に生きるんだぞ。
――グォォォォォォォォォン!
俺は一吠えして気合を入れて、口からセイクリッドブラスターを吹き出した。
俺の体のように光り輝く粒子の渦が、今なお抵抗を続けるオランドットを飲み込んでいき――
「ぐぁぁぁぁぁ! くそっ! リバーサルシフトされるだと!?」
『我々に見つかった時点であなたの野望はお終いなのですよ、ザンダリザダンデ』
「お、お前は、セリヌディガイン! お前か、お前がこいつに力を貸していたのか!」
『守護君テラマギオン、守護君マスギリア。これまで二体の力を使ってよくもまあ我々の裏をかいて好き放題してくれましたね。テラマギオンはこちらから観測できなくなっていましたので怪しんではいましたが、マスギリアについては何の歪みも無く、流石とも言いたいところです。ですがここまでです。今回は流石のあなたもボロが出ましたね』
「おのれっ! 俺の、俺の野望が! この世界で受肉してハーレムを創るという野望が! おのれ、許さんぞセリヌディガイン! 許さんぞ、有馬健太郎! ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の叫びと共にオランドットは光の粒子となって天へと昇って行った。
終わった……。
ようやく終わった……。
手ごわい相手だった。何度も死を覚悟した。
だけど……俺はレナを守ることが出来たんだ……。
って、レナ!
急いで俺はレナの気配を探る。
レナを見たのは地面に横たわっているのが最後だ。
こんな激しい戦いの余波に巻き込まれてしまったのではないかと焦ったのだが――
「むにゃむにゃ。ねえスー、おひげはえてるよ、あはは。むにゃむにゃ……」
俺は安堵した。
地面に寝そべったレナは笑顔を浮かべながら寝言を言っていたのだから。
ウルガーもケロラインも気を失っているだけで無事の様だ。
つまりは完全勝利ってことだな。
さあレナ、帰ろうか。
――ずぅぅん
足を一歩踏み出した俺。
おわっ、俺まだ光が眩しいドラゴンのままだよ。
ちょっと神様、戻してくれません? 眩しくてこのままじゃ近所迷惑になるから。
『………………』
だが神様からの返事は無かった。
うーん。まあいいか。少々眩しくても強いからレナも喜んでくれるだろう。
レナ、レナ!
俺はレナに近づくとレナを起こすために長い舌で顔をぺろぺろと舐める。
これは決してやましいことではなくって、ドラゴンにもなると人間に気安く触れることができる部分が無いんだよね。鱗は硬いし爪は鋭いし。
必然的に一番問題なさそうな舌でアクションすることになるのだ。
「う、うーん、すー?」
起きたかレナ!
終わったぞ、俺達の勝ちだ!
「お疲れ様、スー」
レナは笑顔のまま俺の唾液でべとべとになった顔をぬぐっている。
いや、ごめんよ。起こすのはこの方法しか無かったんだ。
俺はレナの前に顔を持って行き首を垂れて謝罪する。
「ドラゴンになっちゃったね。戻してもらおっか」
いいのかレナ? 今の姿は無茶苦茶強いぞ?
「いいのよ。こんなのスーじゃないし。カッチカチだし」
そうだな。俺としても今の状態だとちょっと動いただけでレナを踏みつぶしてしまいそうになるし、抱っこも頬ずりもしてもらえないからな。
「そうそう、やっぱりスーはスライムじゃなきゃね。ドラゴンの姿もカッコよくてぎゅってしたくなるけど、やっぱりスライムじゃなきゃね!」
そうだな。やっぱり俺はスライムだな。でも、どうやってスライムに戻るんだ?
神様も返事してくれなくなったし……。
「神様? ふふふ変なスー。忘れたの? ヴォヴォ様よ」
そうか! ヴォヴォ様なら!
グラウ王子の契約する王家の秘蔵グロリア、ナヴィガトリアなら!
この前グラウ王子の部屋に言った時に言ってたもんな。肉体を1日前の姿に戻せるって。
と言う事はまさか!
「そうよ、ケロラインだってカエルに戻せちゃうわ」
よーし、そうと分かれば急いで王都に戻るぞ。
スライムに戻る前のラストフライトだ。今の俺は翼があるしな。
その日、光り輝く竜が王城に降り立ったのを多くの人が目撃した。
幸福の使者、神の使い。いろいろな憶測が飛んだが、誰もが皆、ルーナシア王国はこれからも繁栄し続けていくことを予感していた。
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