095 第1王女守護騎士隊選抜試験 その1
夏も終わりに近づき、そろそろ秋の気配が漂ってくるという季節。
朝の気温もわずかながらに低くなり、ようやく爽やかな目覚めが出来るかな、という時期だ。
いつもなら朝練のために朝早くに起きているレナも、今日はゆっくりと英気を養っていて「むにゃむにゃ、すー、ひんやりして気持ちいい」などと夢の中。
今日は第1王女守護騎士隊の選抜試験日だ。
レナが1年間修業をしてきたのはまさにこの日のため。
泣いても笑っても今日結果が出るのだ。
そう思うと早くに目が覚めてしまった。
夢うつつで俺に抱き着いている少女レナ。
スライムである俺の契約者であり、騎士を目指す13歳の女の子だ。
金色の美しい髪の毛と、今は眠っているため見えないけど青い綺麗な目をした女の子。
保護者役(自称)の俺から見ても美人さん。俺も鼻高々だ。
ブライス家の令嬢であるレナは普通であればレディとしての嗜みを身に着けて王族なり貴族なりと結婚するのだが、レナはそうせずに、自分自身で考え、悩んで、自身が進むべき道を、将来を決めた。
両親を含めた大人達はそれをサポートし、レナの夢を叶えて上げることで一致団結している。
もちろん俺もそうだ。絶対にレナを騎士に、第1王女守護騎士隊に、と意気込んでいる。
今日がその日だと思うと、内側から闘志が込み上げてくる。
とは言えまだ起きるには早い。本番で空回りしないように俺ももう少し寝ておこう。
俺の体に腕を回して抱き着いているレナを起こさないようにして、俺は再び眠りについた。
◆◆◆
「レナさん。今日まで厳しい修行によく耐えてきました。その成果を十分に発揮してきてください」
「ありがとうございますシュルクコーチ」
シュルク邸の玄関。
登校準備を終えたレナをシュルクコーチが送り出してくれている所だ。
「れあ~、れあ~」
シュルクコーチの背中から小さな手をこちらに伸ばすメレー君。ガチャンガチャンと、伸ばした手に装着されている小手がシュルクコーチの鎧と接触して音を立てている。
「いってくるねメレー君」
フルプレートアーマーの二人が手を振る中、俺達は学校へ向けて出発した。
中核都市アルダント。王都には及ばないものの規模の大きな街であり、農村とは違って中心部の道は石畳が敷かれている。その道に沿って石造りの家が立ち並ぶ光景はちょっとした観光名所にもなっている。
そんな風情ある街並みの中、いつもの場所のパン屋のおばちゃんやこじんまりとした小さな店の古書店のおじいさん、いつも大人気の服屋のお姉ちゃんなど皆それぞれが店を開ける準備をしている。
いつもと変わらない光景だ。
見慣れた光景の中をミイちゃんナノちゃんとの合流場所に向かって歩く。
学生寮とシュルク邸と、そして学校との中間点にある合流場所。
いつもなら俺達がつく頃にはすでに二人が待っているのだが、今日は先に着いてしまったようだ。
レナ達の方が早いなんて珍しいね、とレナと言いながら少しばかり。
「おーい、レナ―」
と手を大きく振りながらミイちゃんとナノちゃんが現れた。
「レナちゃんおはようございます」
「ミイちゃんナノちゃん、おはようございます」
制服のスカートのすそを軽く持ち上げてお嬢様挨拶を行うナノちゃんとミイちゃんに対して、同様に綺麗なお嬢様挨拶を返すレナ。
そうそう、騎士になるとしても礼節は大切だ。
「とうとう試験ね。負けないわよ」
「レナも負けないからね」
火花を散らす二人。
とはいえこれは覇気のぶつけ合いというよりは友情の延長上。不敵な笑みで頷きあう二人はもう長い付き合いなのだ。
「お二人とも頑張ってください。例えどちらか一方だとしても、悔いの残らないよう全力で」
ナノちゃんはどちらに肩入れするという事はない。
レナもミイちゃんも、どちらも大切な友達なのだから。
今日は三人徒歩で学校へと向かう。
いつもはミイちゃんのグロリア、デュークモアに3人が乗って登校するのだが今日は試験日。デュークモアは試験まで温存なのだ。
俺もレナの胸に抱かれて運ばれている。
温存という名目だけど、いつもと変わらないよねこれ。
「レナとは長い付き合いだけど本気で競い合ったことって無いわね」
「うーん、そうだねー。初めてだね」
「私のティッピーとレナのスー、どちらが強いか勝負ね」
「うん。全力で勝負しましょ!」
気合十分な二人。
そんな風にしばらく気合を高めながら歩き、学校へと到着した。
それじゃあ頑張ってください、とナノちゃんは俺達と分かれて校舎の中へと入っていった。
いつもなら午前中は令嬢授業なので3人一緒なのだが、今日は一日中試験となるためレナとミイちゃんは朝から騎士科の教室へと向かうのだ。
ナノちゃんと別れた俺達はグラウンドの縁を進んで中央校舎へと入る。
いつもなら男子学生の声でにぎわっている中央校舎も今は静けさに包まれている。午前中の誰もいない中央校舎も新鮮なものだ。
コツコツコツと二人の足音が響く中、騎士科の教室へと到着した。
「おう、バルツにブライス。おはよう」
ガラリと教室の扉を開けたところ、男前な声であいさつをされた。
声の主はトルネ・カラカールさん。赤茶色の短めのショートカットがチャーミングな褐色肌の女の子。レナのクラスメイトでミイちゃんと一緒に1年生から騎士科に在籍していた子だ。
「おはようトルネ。先生がいないからって机に足を上げてると怒られるよ。それに下着が見えてる」
「おっと、お嬢様お嬢様」
恥ずかしがった様子は無く、しかたないなという様子でトルネは足を下ろす。
「オレはそういう堅苦しいのは苦手でね。それに今日は血がたぎってるんだ。戦いは強さこそ正義だからな。お前たちをぶっ倒して、あのドリルロールもぶっ倒して――」
「誰をぶっ倒すですって?」
「おっとお出ましだ」
俺達の後ろから声が聞こえてきた。
「クリングリンさんおはようございます」
「ええ、皆様おはようございます」
左右4つの縦ロールを備えたどこから見てもゴージャスな雰囲気をまとっている女の子クリングリン・ドリルロールさん。レナをライバル視して騎士科まで追ってきた女の子だ。
「オレがお前達みんな倒して守護騎士になるっていう話をしてたところさ」
「それはおかしな話ですわね。勝つのはわたくしでしてよ。
ブライスさん、今日はあなたに勝って完全な勝利を手にしますわ」
ビシリとレナに指を突き付ける。そのアクションの衝撃で4つの縦ロールがふるふると震える。
「おっとオレの事は眼中に無いってか。まあオレだってお前は通過点さ。
ブライス。お前に勝たないと真に勝った事にはならないからな」
「私だって一緒よレナ。私も負けないからね!」
今日の試験はレナを含めたこの4人で行われるため競い合う全員から宣戦布告を受けた形となる。
それだけみんなの中でレナの存在が大きいってことだ。誇らしいぞ。
「レナも負けない。ミイちゃんにもトルネちゃんにもクリングリンさんにも」
そのとおりだレナ。俺だって誰にも負けるつもりは無いぞ!
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