009 俺の無敵の胃袋
俺にできる事、今俺にしかできないこと。
その事が分かった俺は必死に情報を解読していく。
これまでのレナの病状から、無数にある
レナのためにと、俺は体のどこにあるか分からない脳をフル稼働させる。
読解は困難を極めたが、俺は一つの情報にたどり着いた。
『アシェンプテル病:妖犬族のグロリアが稀に保持するアシェンプテルウィルスが増殖し高熱と大量の発汗を引き起こす。主に人間の子供で発症し、大人には感染しない。また特別な遺伝子型を持つ人間でしか発症しない。治癒方法としてはフェニックスの雫を用いるのが一般的』
これだ。確かレナは病気で寝込む前に妖犬族のアラウドドッグと触れ合っていた。そこからウィルスをもらったに違いない。
そしてウィルスが原因と言うなら、ウィルスが増殖中のレナの部屋には多くの人が訪れているが、大人のパパやママは感染していないし、子供でもレナとは遺伝子型が違うため、お見舞いにきてくれたミイちゃんナノちゃんは感染していない。
間違いない、見つけたぞ!
レナはアシェンプテル病に
だけど肝心の治癒方法は……フェニックスの雫だって?
フェニックスと言えば実在するかも怪しいSランクグロリアじゃないか。
なんだよ、一般的って!
どこ基準なんだよ!
ええい、情報はこれだけなのか?
焦る俺だが、いくらページをめくってもこれ以上の情報は出てこない。
そうしている間にもレナの呼吸はさらに激しさを増している。
ゼイゼイと呼吸するたびに聞こえる音はとても苦しそうで、聞いているこちらも辛い。
それと、長い時間高熱が続いている上にさらに熱が上昇するとなると、これ以上はレナの体がもたない。
せっかく病名と原因が分かったっていうのに、俺は何もしてやれないのか⁉
あんな小さな体で必死に耐えているレナを助けてあげることが出来ないのか⁉
フェニックスの雫が必要だなんて……。
俺がスライムじゃなくてフェニックスだったら……そうすればレナも助かるのに……。
んんん、まてよ……。
レアアイテムページで読んだことがある。
フェニックスの雫は傷の場合は超回復を、ウィルスが原因の病の場合はウィルスを浄化するのだと。
アシェンプテル病はウィルスが引き起こしているので、フェニックスの雫を使用時は浄化、つまり何らかの力でウィルスを取り除いて治癒していることになる。
そうだよ。フェニックスの雫のような万能治療薬に頼らなくても、別の方法でウィルスさえ取り除くことが出来れば。
俺が直接ウィルスを取り除けば!
俺は思いついた方法をすぐに実行に移すべく、バタバタと慌てるパパとママの姿を横目に、レナの寝ているベッドに上がった。
レナ苦しいか? 苦しいだろうな。今俺が助けてやるぞ……。
「お、おいスー、いったい何をするつもりなんだ!」
俺に気づいたパパが叫んでいる。
何をするって?
決まっている。
「やめるんだスー、レナを食べる気なのか⁉」
パパがそう思うのも無理はない。
今俺はスライムボディを広げてレナの体に覆いかぶさっている所だ。
襲っていると勘違いされてもしかたがない。
「あなた! 落ち着いてください。スーがそんなことをするはずないでしょう!」
「そ、そうだった。スーはこれまでもずっとレナを守ってくれた……。疑ってすまないスー」
ありがとうパパママ、俺を信じてくれて。
レナはきっと助けて見せます!
俺はレナの体全体をスライムボディで包み込むと、レナの体内を隙間なく自分の体で満たした。
レナの髪の毛の先から足の小指の先、鼻の中、口の中、喉の中まで文字通り全体を。
そうすると息もできなくなるが、スライムボディの表面から空気を取り込んで俺の体全体に混ぜ込み、レナの肺へと循環させ窒息してしまわないように注意している。
ごめんなレナ。ちょっと息苦しいし、喉がオエッてなるかもしれないが我慢してほしい。
俺はレナの体にこれ以上の負担をかけないよう速やかにウィルス駆除を実行に移す。
体内にはいろんな微小物体が存在する。ウィルスもそうだが細菌も存在する。
細菌と細菌よりも小さな存在であるウィルスを見分けるのは簡単なのだが、どうやらレナの体の中には何種類かのウィルスが存在しているようだ。
どれがアシェンプテルウィルスなのか、俺は複数のウィルスパターンを神カンペに記載された無数のパターンに照合していく。
最初はアシェンプテルウィルスだけを取り除こうと考えていたが、照合していく内にほかの種類のウィルスも残しておくと少なからず害があるのが分かったため、一気に全部駆除することにする。
ここからはスライムとしての本領発揮だ。
レナの体細胞に寄生して増殖している全てのウィルスを根こそぎ俺のスライム細胞に吸収し消化する。
スライム細胞一つ一つが俺なのだ。その動作は難しくはない。
さあ食い尽くせ!
俺の胃袋は無敵の胃袋よ!
ほどなくして俺はレナに巣食ったすべてのアシェンプテルウィルスを食い尽くしたのだ。
俺の体の中でゼリーに包まれたフルーツのようになっていたレナを開放し、その様子を伺う。
すうすうと綺麗な寝息を立てているレナ。
俺のひんやりボディで包まれていたこともあり、顔色は良くなってきている。
すぐさまママが熱を測ってみると、きちんと平熱まで下がっていた。
パパとママは歓喜し、俺を胴上げしようとするが、メイドさんにレナが起きてしまうと注意されてしまい、胴上げを中止した。
こうして俺はレナの病を治すことに成功したが、そのことが引き金となり俺とレナは辛い事実に直面する事となるのだった。
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