065 サイリ・カーバライト その2

 サイリちゃんが宿題のために参考にしてたのはサイリちゃんパパが街の偉いさんから借りた本で、俺達の借りている【エルゼリアの成り立ち】よりももっとざっくりしていて抽象的だった。


 そんな本を元に2個のほこらを見つけていたサイリちゃんは、かなり頭の良い子だ。

 実際【エルゼリアの成り立ち】を読んで、俺達が探していた第3のほこらの場所をピタリと言い当てて、その勢いで第4のほこらまで見つけてしまった。


 すっごーい、サイリちゃんすっごーい! と第4のほこらの前で俺とレナはサイリちゃんを囲んで褒めまくりダンスをしたら、そんな、私なんて……、と言いながらもじもじと照れてしまって、そんな様子を見た俺とレナはそのいじらしさにキュンときたのでしばらくダンスを続けたのであった。



 日を改めて、第5のほこらを探す俺達。


「無いね。ほこら

「……」


 レナが素直な感想を漏らしてしまった。

 そして無言のサイリちゃん。


 俺たちの目の前は眺めの良いパノラマが広がっている。

 小高い丘の中腹。広場の様になった場所にあるはずの祠は無く、ただ世界の広がりを感じる景色があるだけだった。


 第3のほこらも第4のほこらも寸分の狂いもなく場所を特定したので、第5のほこらも確実にそこにあるだろうと思っていたのでこればっかりはしかたない。


 仕方ない。もう一度本の情報を確認しよう。

 ね、サイリちゃん、気を落とさずにね。


 落ち込まないようにと、そう伝えようと近づくと、サイリちゃんは無言のまま目に涙を貯めて走りだしてしまった。


「サイリちゃん! 待って!」


 ちょ、俺のせい? 違うよね。俺が怯えさせたとか違うよね?

 と、ともかく追いかけるぞ。


 すまないけど先にレナが追いかけてくれ。俺は後ろから着いて行くから。

 俺が追いかけると逆効果になりそうなので……。



 追いかける俺達だが、サイリちゃんすばしっこい。

 レナはそれなりに運動神経がいいので走る速さもそれなりなんだけど、それにしてもなかなか追い付かない。

 多分サイリちゃんは無我夢中で走っている。普段リミッターがかかっている潜在能力が解放されている感じか?


 あ、こけた……。


「サイリちゃん捕まえた!」


 レナー! お嬢様お嬢様。たしなたしなみ!


 何をしたのかって言うと、レナはこけたサイリちゃんに向かってヘッドスライディングよろしく飛びついたのだ。


 怪我を顧みないアクションはやめなさい。俺が回復薬を作るのを前提なんだろうけど、それでも痛いものは痛いでしょ。

 まったく……。服も泥だらけになっているに違いない。クラザさんに怒られるよ。

 俺も一緒に謝ってあげるけど、次からは無しだよ。


 俺が二人に追いつくと、二人して無言で抱き合っていた。

 抱き合っているというか、こけてその上からレナにガッチリホールドされているので流石にどうにもならない状態のサイリちゃんが動きを止めていたというのが正しい。


「ううう……」


 うつぶせのまま動こうとしないサイリちゃんから、うめくような声が聞こえて来た。


 ごめんねサイリちゃん、と上から抑えつけていたレナがどき、地面にぺたんと座る。

 もそもそとサイリちゃんは起き上がり、同じく地面にぺたんと座った体勢で、それでいてレナには背を向けている。


 レナ、けがはしてないか? 回復薬出すぞ?


「レナは大丈夫。サイリちゃんは大丈夫?」


 レナがサイリちゃんの正面に回ると、サイリちゃんは両腕を顔の前に交差させて顔を覆ってしまう。

 おそらく泣いているのだろう。ぽつりぽつりと涙が地面に落ちている。


 レナはそんなサイリちゃんをぎゅっと抱きしめて、


「大丈夫だよサイリちゃん。もう一回探そ。見つかるまで何度でも探そ。一緒ならなんだってできるよ」


 そう言って優しくサイリちゃんに呼び掛けるのだった。


 ◆◆◆


 サイリちゃんのすねの傷に回復薬を塗ってお屋敷に帰って。

 泥だらけになった二人を見たメイドさんのクラザさんは、怒るかと思ったけどそんなことは無く、むしろほほえましいような雰囲気で……二人からすぽんすぽんと服を脱がすとすぐに洗濯を始めた。


 お屋敷ローテーション勤務中のバーナちゃんが二人をお風呂で綺麗に洗って、一緒に俺まで洗われて、綺麗になったら、お着換え。

 洗濯が終わるまでレナの部屋着をサイリちゃんも着て、そしてお昼ご飯を食べて。

 このころになると落ち込んでいたサイリちゃんも元気を取り戻してきて、レナと一緒に笑顔を見せてくれるようになった。


 やる気を取り戻したサイリちゃんと一緒にレナの部屋で再び本の内容を確認する。


 サイリちゃんの見立ては正しい。この本によると間違いなく先ほどの場所にあるはずなのだ。それなのにその場所には何も無かった。

 

 コンコンというノックの後クラザさんが飲み物とお菓子を持ってきてくれた。


「もしかすると、ほこらはその後壊れて無くなってしまったとか、どこかに移されたりしたのかもしれませんね」


 クラザさんの言葉に俺たちはハッとした。そうだ。これは凄い昔の本。

 その後に何かあったのかもしれない。となると……。


「サイリちゃん、図書館に行きましょ。ほかの本も調べて絶対に第5のほこらを見つけようね」


 洗濯した服はまだ乾いていないので、サイリちゃんはレナの余所行きの服を着ることになって、これが可愛いわ、とか、この服お気に入りなの、とかキャッキャしながらお着換えタイムで、その間サイリちゃんは着せ替え人形のように服をとっかえひっかえされて、恥ずかしそうにあわあわとしていた。

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