080 大臣の野望1
逃げて行った男達を追う俺達。
先頭はリリアン。そして次にレナ。
レナは俺を抱っこして走っている。
うんうん。やっぱりこれじゃなきゃね。さっきまで何かおかしいと思ってはいたんだよね。
抱っこはしてくれないし膝の上であーんしてくれないし。
どういう仕組みなのか分からないけど、あのスキンヘッドの大柄の男が間違いなくレナだと思ってたんだよね。不覚。
でも逆に考えると抱っこやあーんはされていなくて良かった。実際にやられているその
許すまじ悪党!
廊下を駆け抜け、石の階段を駆け下りて。男たちが逃げた方向は一本道で道に迷うことは無く、そうして最奥のどん詰まりへとたどり着く。
ご丁寧にどん詰まりの場所にある扉から男が顔を出して様子を伺っていたが、俺達が来たのを見ると、慌てて扉の中へと消えていった。
罠の可能性もあったが先頭のリリアンが臆することなく部屋の中へと突入する。
「なんだここは……」
思わずそう漏らしたリリアンの気持ちもわかる。
まるで闘技場かドームの野球場のような円形に広がった部屋。5mほどの高さの壁でぐるり一周囲まれており、その上には観覧席のような場所がある。野球場やサッカースタジアムほどは大きく無いが、天井の高さはかなりのもので、地下とは思えない高さと広さがある。
そんな闘技場の先には先ほど様子を見ていた男がいて、俺達が部屋に入るやいなや一目散に逆側の扉から出て行ってしまうと、ズズズと重い音を立ててその扉は閉ざされてしまった。
俺達が入って来た扉も閉まってしまい、俺達はこの闘技場に閉じ込められた形だ。
「あそこに誰かいるよ!」
レナが指さしたのは天井近くの高い場所。まるでVIP観覧席のようだ。
強化ガラスのようなもので覆われているグイッとせり出した場所に、何人かの男達の姿があった。
先頭にいるのは身なりの良い初老の男。それに付き従うのは白衣を着た研究者風の男達。
「このルクセ地下研究所へようこそお嬢さん方。歓迎しよう」
初老の男が声を発する。
あの部屋はこちら側と完全に隔てられているように見えるから声は届かないと思うんだけど、特殊な音響設備か何かでその声が拡大されて聞こえてきた。
「やはり……ルーナシア王国大臣ギリヌイ・マグラス。奴が黒幕だったか」
大臣? あの初老の男が?
それにマグラスで大臣って……レナ、もしかして。
レナもそれに気づいたようだ。
学校で粗相(そそう)を働いて退学になった自称大臣の息子、ガジャール君。彼の名字もまたマグラスだったはずだ。
「黒幕? なんのことかね。このルクセは私の会社だよ。つまり社長。社長が会社にいるのは当然のこと」
こちらの声が拾われてる。つまりは相談も内緒話もあちらさんには筒抜けだってことだ。
「ギリヌイ大臣! あなたの悪事もここまでだ。人のグロリアを奪い、クラテル独占生産という利権を利用した管理者権限でのグロリア契約変更などという悪行! 我が国の法律に違反するのは明白! このことが明るみに出ればルクセは独占生産契約を破棄されて、あなたの責任も追及されるだろう」
「くくく、証拠はあるのかね」
「証拠はある。ボクが何のためにここにもぐりこんだと思ってるんだ? このクラテルはルクセが作ったものじゃない。他国が作った特別製だ。この中に証拠はばっちりと収めさせてもらった」
金色に光る長方形の直角柱型のクラテルをちらつかせるリリアン。
クラテルってカメラ機能とか録画機能とかあるの?
さすがに他国製だからってそんな高度な技術はないだろう。
とすると中に入っているグロリアの能力でっていうことになるのだが、中に入ってるのはアーマーテンペストだし。
もしかしてこれはブラフか!
はったりも押し通せば本当になるってのはその通りだな。味方の俺まで騙されそうになったぞ。
「ふはは、面白いお嬢さんだ。どこまでつかんでいるか知らんが、契約変更程度ではこのルクセは揺るがんよ。仮にそうだとしても雇っているごろつきが勝手にやったことにして足切りするだけだ」
部下に責任を擦り付けるブラック企業の図。これが現代日本だったら社長も責任を取って辞任が主流なのに。
それにしてもリリアンは一体何者なんだ?
街や村の警察機構である兵士隊の兵士か、はたまた民間の探偵か……。
大企業の不正調査を行っている辺り、王都を守護する騎士である可能性もあるな。
まあ本人が仮面をしているという事は、知られたくない事情があるんだろう。
俺達は気にせず今までどおりのリリアンということで行こうなレナ。
女の子は秘密の一つや二つあるんだからねスー、とレナの考えている事が伝わってきた。
俺はリリアンの方に視線を移す。
「あまりボクを舐めないで欲しいな。契約変更はルクセの計画のいわば末端に過ぎない。その本命は別にある。その計画とは、ルーナシア王国を崩壊させ国を乗っ取る事。そう、あなた方が国家転覆を図ろうとしているのは分かっている」
「ほう?」
「あなたなら当然ご存じかと思うが、クラテルの管理者権限はCからFランクのグロリアについては契約変更をしなくても無条件に操ることが出来る。CからFランクというと国民が契約しているグロリアのおよそ9割を占めている。……つまり管理者権限を利用して王都10万人のグロリアを操り王城を攻め落とす。それがあなた方の計画だ!」
俺もポカーン、レナもポカーンとしている。
国家転覆とか10万人のグロリアとか。話が壮大過ぎて思考停止しそうだ。
「ふはは、凄い凄い。子供が
「……バラードパロット。ここ数ヶ月で20体ほど外国から購入していますね?」
「個別の案件は部下に任せているが、それがどうしたというんだね」
バラードパロットは鳥グロリアなんだけど、どういうグロリアなのか念のため【神カンペ】で確認しておこう。
『バラードパロット:Dランク
チャンティングバードが進化した姿。チャンティングバードとは異なり、ゆっくりとしたテンポの静かな鳴き声が特徴。その鳴き声は半径300mほどの縄張りの隅から隅まで行きわたる』
そうそう、ラッパのような変わった形状のクチバシで音を増幅させて鳴くんだよな。でもこのグロリアがなんだっていうんだリリアン?
「最近の研究で、バラードパロットは教え込ませた言葉や音を正確に鳴き声として発することが出来ることが分かっている。それが人に聞き取れない高音域や低音域の音であっても、クラテルに作用してグロリアを操る音波であったとしても。それはつまり遠隔でグロリアを操ることが可能であることを示している。20体のバラードパロットを王都のしかるべき場所に配置することで王都の範囲すべてをカバーすることが可能だ」
「ふはは、世迷いごとを。仮にお嬢さんの言う通り王都のグロリアを操ることが出来たとしよう。そのグロリア数は想定で9万だったね。9万の大軍とはいえそんなに簡単に王城は、騎士団は落とせるのかね。我がルーナシアはそんなに弱い国ではないよ」
その通りだ。先ほどBランクのアーマーテンペストに下位ランクのグロリアが束になってもかなわなかったように、たとえ9万のグロリアがいても、騎士団のグロリアが上位ランクであれば何とか耐えきることは出来るだろう。
「確かに各騎士団長は高ランクグロリアと契約しているから、9万の大軍が襲ってきても対処することは出来るだろう。そこで今回の件だ。高ランクグロリアのクラテルを奪って管理者権限で自分達に契約者変更しているのはなんのためか。それは計画の障害となる各騎士団長にぶつけるためだ。勝てないにしても時間を稼ぐことが出来れば9万のグロリアが王城を陥落させてくれる。四天王、だったかい? その奪った高ランクグロリアを持っているのは」
お供の白衣の男が慌てた様子で大臣に話しかけている。
ここからでは何を話しているのかは分からないが、これは図星だな。
あ、白衣の男が大臣に殴られた。
企業内のパワハラ極まれり。
「おほん。いざこざを見せてしまったな。申し訳ない。お嬢さんが何者かは知らんが、よくそこまで調べたものだ。どうだ、ルクセの社員にならんか? その力、高く買ってやるぞ?」
「お生憎様ですが、ボクは悪を見過ごすことなんかできないね。さあ大臣、悪事を認めて出廷してもらう。洗いざらい吐いてもらいますよ」
「残念だ。そしてお嬢さんは一つ勘違いをしている。私は何もしていないしこれからも善良な大臣であり続ける。お嬢さん方は善良な大臣に逆らったことを悔やみながらここの地下牢で反省することになるのだ。私が王になるときまでね」
ゴゴゴという重い音と共に俺達の反対側の扉が開き、一人の男が現れた。
黒髪のその男は口元を忍者のように布で隠しており、はっきりと顔は分からない。その身には黒色のぼろ布のようにも見えるゆったりとしたものを身に着けている。
「あれは……ザンメア・ヴァルナック……。まさかヤツがここにいるなんて……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます