079 レナも成長したら隠せるようになるかもな

「ふう、何とか助かったか」


 怪しい仮面をつけたお姉ちゃんは一息つくとアーマーテンペストをクラテルの中に戻した。


 その、すまなかったな。戦ってしまって。

 それとありがとう。レナを助けてくれたんだろ?


 いつもなら強く体を震わせて謝罪とお礼を表現するところなんだが、今はレナが抱き着いているのでゆっくりと体を揺らし、レナをあやすような形で表現する。


 伝わらないかなぁ。駄目かなぁ。


 案の定、お姉ちゃんは俺の意図には気づいていない様子。

 何? 何か言った? みたいな表情を浮かべている。


「さあレナ、再会の挨拶はまた後でゆっくりとするんだ。今は進もう」


 その言葉を聞いてレナはピクリと体を動かした。

 どうやら「挨拶」の言葉にピンと来たようで、ガバッと顔を上げると俺を担ぎ上げてリリアンの眼前に掲げた。


 急にどうしたんだレナ。びっくりするじゃないか。


「リリアンさん、この子がスー! レナの大事なスーなの!

 スー、この人はリリアンさん。レナと一緒に捕まってたのよ」


 ははーん、なるほど。俺を紹介したくて仕方なかったんだな。


「よろしく、スー」


 まじまじと俺を見るかのように顔を近づけられて、そしてニコリとほほ笑んで。

 そんな風に改めて挨拶される。


 よろしくなリリアン。

 何で仮面で顔を隠しているのかは聞かないでおくよ。

 悪人じゃないのはちゃんと伝わってくるからな。


「それでねそれでねリリアンさん、スーは可愛いくてね優しくてねヒンヤリでねぷにぷにでね、たまにむにょんと体を伸ばすことがあるんだけど、そこがチャーミングでね!」


「あ、ああ……」


「レナが転びそうになったらすぐに体をクッションにして守ってくれるし、擦りむいたりしたらすぐに傷薬を塗ってくれるし、怖いオオカミグロリアに襲われても守ってくれるし、嫌な男の子に追いかけられても守ってくれるし!」


「あ、ああ……」


「でもたまにお母さまみたいに、嫌いな食べ物はちゃんと食べないとだめだとか、素敵なレディになるにはうんたらかんたらとか、そうそう、言葉遣い! レディの言葉遣いをしなさいって言うのですよおほほほほ」


「あ、ああ……」


 急に作ったような口調になって違和感がありすぎるよレナ。


「でもね、レナはそんなスーが大好きなの! 好物の草はミルグナ草なんだけど、イラミーナ草を見たときは目の色を変えるのが可愛いの。つぶらな瞳が可愛くて可愛くてもう、スー大好きなの!」


「目? スライムに目はないけど……」


 リリアンがじーっと俺を見る。

 疑問はごもっとも。俺が言うのもなんだけど、俺に目は無いぞ。


「リリアンさんは見えない? 目っていうのはね、心の目なの。レナはなんとなくなんだけどスーが何を見てどう思ってるのかわかるの」


「なるほどね、長い間いっしょに過ごしていると分かるようになる部類のやつだね。ボクもミナディウスや、エルミナーゼとそんな感じになることがあるよ。エルミナーゼはね――」


 女子トークが始まってしまった。

 てっきりリリアンは途中で話を打ち切ると思ったのに、どうやらレナのグロリア愛に触発されたようだ。

 その捕まってるグロリアを助けに行かずにトークしてていいのか?


「うんうん、レナも――」

「クラテルの中が大好きでね――」


 俺は体をゆすってそれを伝えようとするが、トークに夢中の女子達は全く気付いてはくれない。


「ねえスー、リリアンさんは凄いのよ。レナもリリアンさんみたいにお胸にクラテル隠せるようになりたいの」


 二人で盛り上がっていたかと思えばいきなり話を振られた。

 なになに、お胸?


「レナ、グロリアになんて事を教えてるんだ。それは内緒。人前で言わないでね」


 めっ、と幼子を叱るような仕草をするリリアン。

 ごめんなさいと、はにかむレナ。


 なるほどなぁ。確かにその谷間にはクラテルを隠せそうだ。

 そうだな、レナも成長したら隠せるようになるかもな。


 すると急にリリアンが腕でその胸を隠すような仕草を見せた。


「ぼ、ボクにもスーがどこを見てるのか分かるかもしれない……」


 え゛っ?

 ちょっとまって誤解です。確かに真偽を確認するために捕捉はしましたが、誤解です。やましいつもりはありません。


「リリアンさんも分かるようになったのね! スー友だね!」


「お、おほんおほん。あーあー。さ、さあレナ、急いでここを出よう」


 どうやら我に返ったようだ。長々と話し込んでしまったからな。

 しっかりしたお姉ちゃんかと思っていたが、結構子供っぽいところもあるんだな。


「出るって……リリアンさんエルミのグロリアナーゼがまだ」


「エルミナーゼは後で取り戻すよ。まずはレナの安全だ」


「レナは大丈夫! スーがいれば大丈夫だよ。だからエルミナーゼ取り返すの手伝います!」


「でも……」


「大丈夫です。レナ、ナバラ師匠の元で特訓したこともあるから!」


「なるほど、あのナバラ・バランの元で。……分かった。スーの力は身をもって知っている。そういうことなら頼りにさせてもらうよ」


「はい!」


「じゃあまずは逃げて行ったやつらを追おう。やつらが逃げるのは黒幕のいる所だろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る