177 招かれざる者
翌日も指令室はごった返していた。
なぜなら夜のうちに被害範囲が拡大したのだ。
しかも想定していた円の内側ではなく、円の外側の町や村で同様の被害が発生したということだ。
夜間も二交代制の半舷休息で情報収集をしており、被害報告については俺達の代わりにリストさんが対応してくれたのだが、想定外の円の外側での被害に指令室はてんやわんやしている所なのだ。
レナの表情も険しい。
睡眠不足もあるのだろうが、本当ならずっと笑顔でいて欲しい。
だからレナが笑顔でいられるように俺も全力でサポートするぞ!
そんな風に俺が意気込んでいる中、騎士団の知恵袋である軍師隊からの報告があった。
軍師隊は円の中心点が少しずつ動いているのではないか、と考察している。
また、住民のグロリアすべてが最上位種になっていることから、元々最上位種のグロリアは影響を受けないのではないかという考察と、元々最上位種のグロリアが異形になっているのではないかとの考察もあった。
何を言ってるのか分かりにくいが、最上位種、つまりはこれ以上進化が起こらない最終形態の事で、例えばCランクのヴァリアントホークの最上位種はAランクのルプレグルホークなのだが、住民のグロリアがヴァリアントホークの場合は最上位種のルプレグルホークに進化して狂暴化するが、もともとルプレグルホークだった場合は進化先が無いから狂暴化もしないのではないか、という考察が一つ。
それとは別の考察が、住民のグロリアが元々最上位種のルプレグルホークだった場合は、進化先がないため異形のグロリアになって狂暴化しているのではないかというものだ。
こちらのほうが異形グロリアの説明がつけやすいが、何分推察に過ぎない。
住民たちに話を聞ければ裏は取れるのだが、輝力不足で倒れて目を覚まさないので話も聞けない。
だからといって大切なグロリアを検証に使うなどはもってのほかだ。
などとあーだこーだと新たな被害の対応に追われていると、昨日出発した偵察隊からの報告が帰って来た。
「目標地点に巨大な物体あり。推定全長は前後5㎞程、高さは10m程度。その物体は流動と
流石はシュルクコーチの第3偵察隊だ。
だが……狂暴化範囲が球形であることを確認したということは犠牲が生じたはずだ。
おそらく上空から謎の物体を観測していて範囲内に触れてしまったのだろう。
それに気づいたレナも表情を歪めている。
我慢だぞレナ。レナは自由騎士。この騎士団のトップ。
誰の被害も出ないようにと自分一人で出張るべきじゃない。
分かってるけど、でも……、と言いたげだ。
うん、俺も意地の悪い事を言った。レナはもうしっかり自由騎士で、そんな事しないって分かってるのに。ごめんな。
俺がそう伝えると、レナは無言で俺の体を手で撫でた。
「その巨大な物体が原因と断定し、排除を実行します。軍師隊、対策を!」
レナが力強くそう言うと、控えていた軍師隊員はあごに手を当てて考える仕草を見せながら、うむむ、とうなり、ゆっくりと口を開いた。
「そうですね……。狂暴化範囲、ベルセルクゾーンと呼称しますが、ベルセルクゾーンがあるため接近戦は不可能です。となると長距離からの狙撃か上空からの爆発物の投下などが考えられますが……。どちらもベルセルクゾーンが広範囲であるため不可能でしょう。距離が遠すぎて狙撃は無理ですし、上空に至ってはゾーン外までたどり着こうとすると高高度過ぎてそこまで上昇することが出来ない……。
一つ良い知らせですが、ベルセルクゾーン内に自律誘導型のグロリアを突っ込ませてみましたが、狂暴化は起こりませんでした。このことから直接グロリアに影響するものではなく、おそらくクラテルに作用して狂暴化を引き越しているものと思われます」
何を危険な事をやってるのか、と立ち上がろうとしたレナを軍師は手で制しながら、
「もちろん私のグロリアです。騎士団のグロリアを実験に使ったわけではありません。我々は軍師。どのような状況にあっても、騎士団を、レナ様を勝利に導く策を出す責務があります。無論、自らを犠牲にしてでも。
と、それは建前で、本当は知的好奇心ですよ。未知なものがあれば解き明かしたくなる。その本能は抑える事のできるものではありません。ですので、レナ様の指示も無く勝手な事をしたのはお許しいただきたい」
そんな事は許しません、とぴしゃりと言うレナだったが、軍師は聞かなかったことにして話を続ける。
「話を戻しますが、クラテルがベルセルクゾーン外にあればグロリアは影響を受けません。中心部の物体、こちらも
他の軍師隊員もうんうんと頷いている。
グロリアを狂暴化させるベルセルクゾーン。これがどんなに厄介なものか、ということだが。
この世界の戦いは全てグロリアで行われる。つまりグロリアは武器だと言い換えることができる。
グロリアは武器、仮にダイナマイトだとすると、ベルセルクゾーンの中心にいるアンインバイテッドに戦いを挑むことは、ダイナマイトをもって海中にいるオオダコと戦う事に等しい。もちろん導火線に火がつけられず使い物にならない。そしてタコに絡め取られて死亡エンドという無理ゲーだ。
どうしたらいいのか。
クラテルが原因でグロリアだけなら問題ないのであれば、俺が一人で出向く案もある。俺なら輝力無限増殖でレナがいなくてもかろうじて戦う事が出来るしな。
そんな危険なことはさせないよ、とレナから無言の圧力を受ける。
分かってるよ。とレナには返しておくが、心の中ではレナがピンチの場合は俺は迷わずそうすると言う事を誓っている。
となると暗礁に乗り上げたぞ。
軍師隊からも解決案は出そうにない。
このままいくとさらに被害が増えるということだ。
予防として進路上の町や村の住民を避難させる案もあるが……「オラは畑を置いて逃げねえ!」っていう人も絶対に出てくるよな……。
うーん……。
「お待ちなさい! そこに入ってはいけない! やめなさい!」
と、唐突に外から聞こえて来たと思ったら、バーンと扉が開かれて、一人の男と数名の文官が作戦指令室になだれ込んできた。
「ここは作戦指令室、あなたのような素性も知れない者が入っていい場所ではありません。レナ様申し訳ございません。すぐにつまみ出します」
一緒に入って来た文官数名が男を連れ出そうとしているが……。
あぁー、ああ言ってるけどレナ。
どうする?
「お久しぶりですレナ様」
乱入してきた男はまとわりつく文官達をぽいっと振り払ってそう言うと、深々と頭を下げた。
「お久しぶりね、ザンメアさん」
そう。入って来たのはかつてルーナシア王国家転覆未遂事件の首謀者に仕えていたザンメア・ヴァルナック。知る人ぞ知る凄腕裏稼業の人だ。
首謀者と共に逮捕されて投獄されていたが、情状酌量と模範囚だったこともあり1年後に出所。それから故郷に帰っていたはずだ。確か
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