123 チャリクの間
「ええー!? リコッタちゃんは追い出されたって言ってたよ?」
確かにそう言ってたな。
出会った時はあまり話してくれなかったけど一緒に寝るころにはすっかりレナに懐いてたし、やっぱり一人でいろいろ抱え込むのは心細かったんだろう。
「おかしいですね。リコッタは大切な仕事に嫌気がさしていると普段から漏らしていて、いつの間にかいなくなっていたと報告が上がっていますが……」
「リコッタちゃん、私に嘘をついたのかな……」
「そんなことはありません。あの子は嘘なんかつくような子ではありません。身寄りの無いあの子を引き取って育てた私ですが、それは保証します」
「だったら!」
「ええ。私もリコッタが役目を捨てて逃げるとは到底おもえません。もう一度あらためる必要がありそうですね」
リコッタの保護者がマフバマさんだったのか。リコッタの話を聞く限り仕事が忙しい事と血のつながりが無いことで子育てはあまり上手くいってないようだったけど……実の親のようにちゃんと見てる所は見てるんだな。
◆◆◆
カツカツカツと靴と石床がこすれあう音が響く。
足音は4人分。先頭を行くマフバマさんと、その後に続くリゼルとレナ(抱っこされている俺)。そして俺達の後ろにいるナバラ師匠だ。
この場にいないのはウルガー。周囲の状況を確認してくると言って一人行ってしまった。集団行動が苦手だからなぁ。
先ほどまで話を聞いていた部屋を出て薄暗い螺旋階段を下りること10分ほど。どこまでこの階段が続くのかと思うくらい下った後ようやく階段に終わりが見え、その先へと進んだ俺達。今は一本道の通路を歩いている。
要所要所に備え付けられた燭台の炎だけでは足元が暗いだろうということでマフバマさんは手から光の玉を生み出して俺達の足元を照らしてくれている。
やっぱり彼女はグロリアなんだなという実感が湧くところだ。
そんな事をレナの胸の中で思っていると、進んでいる先から光が漏れだしていた。どうやら終点のようだ。螺旋階段に比べて通路は短かったな。
俺達はその光の中へと歩を進める。
「こ、これは……」
そこには地下とは思えない光景があった。
まず目につくのはその部屋の中心にそびえ立つ円柱状の光の柱。まるで昼間の屋外の様に部屋の中を照らしており、はるか上の天井まで伸びているようだ。
広間というかホールというか、かなりの広さを誇るこの場所は円形に広がっており、壁には建物の入口で見た宗教的な文様がいくつも刻まれている。
「ここはチャリクの間。先ほどお話した、結界を維持するためのプラネア、いわゆるエネルギーを貯めるための部屋です」
スッと手を部屋の方へ向け、説明してくれるマフバマさん。
今いる場所は部屋の床からから一、二階上にある踊り場のような場所であり、階下を含めて部屋の全景が良く見える。
柱の周囲には老若男女問わず多くの猫耳の人達が何かを行っていた。ある人は目を瞑ってぶつくさ呟いていたり、ある人は両手を前に出したままスクワットのような運動をしていたりする。正直よくわからない。
こちらへ、とマフバマさんが階下への階段を降り始める。
「本来この場所は神聖な場所。いつもはプラネアを集める大切な儀式を行う5人しかいないのですが、今は皆が昼夜問わず交代でプラネアを集めています」
「その5人のうちの一人がリコッタちゃん……」
「そうです」
「一人欠けたくらいで維持できなくなるなんて危機管理としては問題じゃないのか? そうならないように人数を増やしておくべきではなかったのか?」
「ええ、リゼル様の仰る通りなのですが……。
「しがらみ……。権力争いのようなものか」
「はい。お役目を行うのは名誉なことなのです。そしてお役目をきちんと勤め上げた者はより名誉な結界役になることが出来ます。結界役というのは防御結界と秘匿結界を維持する大切な役職です。そのため結界役を輩出した家も名誉とされています。そこにはどうしても人の意志というものが介在してしまいまして……すそ野を広くすることにつながる人数増には進みにくいのです」
ふーむ。のどかな集落かと思っていたが色々あるんだな。
円形の部屋の外壁を回るように設置された階段を降りて、中央にある光の柱へと進む。
おおマフバマ様だ、などと言う声に対し気にせずお役目を続けてくださいと諭す様に返答する彼女。
このクシャーナの人々皆が彼女を尊敬するような眼差しで見ていることから『司祭』という役職は相当高位のものなんだろう。
人の間を縫うようにして柱の前に到着した俺達。
「ジニ、バレット、マルシャ、クラ、お役目を中断してこちらへ」
マフバマさんがそう呼びかけると、ちょこちょこと4人の少女が集まってきた。どの子もリコッタと同じくらいの年だ。
「マフバマ様お呼びでしょうか。4人でリコッタの分まで頑張っています。大人も手伝ってくれてるのですが、やはり私達が一番うまくやれてます」
リーダー格の子だろうか、その子がそう言ったあと、私も私もと残りの子も自分の頑張りをアピールしている。
「ええ、あなた達の頑張りは分かっています。ですがその事を確認しに来たのではありません。
ジニ、もう一度リコッタがいなくなった時のお話をしてくれますか?」
「はい。リコッタはちょっと前からお役目に不満を言うようになって、そんな事言ったらだめだよってみんなで注意していたのですが、何日か前に何も言わずに急にいなくなってしまいました」
「クラ、あなたはどうですか? 何か気づいた事とかありますか?」
「えっと、その、リコッタは大切なお役目を行う仲間だし、友達だと思ってたのに……逃げるなんて悲しいです」
4人共概ね同じような事を言っていた。
「あなた方の言い分は分かりました。今の内容はテラマギオ様に誓って本当ですね?」
「はい、本当です!」
ジニちゃんからやたら大きな声で答が返ってきた。
他の3人もうんうんと頷いている。
「ふぅ……そうですか。実はリコッタに会ったという人から話を聞いたのですが、テラマギオ様に誓って本当だと言うのなら間違いありませんね」
「えっ、その、あの……」
「マルシャっ!」
「あ、うん」
マルシャと呼ばれた少女は両手で自分の口を塞いだ。
いらんことを言うなとばかりにすかさずジニちゃんが他の2人にも視線を送るが……彼女を含めて皆、頭の上にある猫耳がピコピコと落ち着かなく動いている。
俺にはテラマギオ様の偉大さはよくわからないけど、きっとこのクシャーナの人達にとっては圧倒的な神感なんだろうな。
お子様ならなおの事噓をついてしまったという後悔が働くのも無理はない。
「お姉さん、嘘をつく子は嫌いです」
そんな様子に我慢できなくなったレナが前に出た。
「だ、誰?」
「この方はレナ様。ナバラ様のお弟子様でリコッタとお会いした方です」
それを聞いた瞬間、電気が走ったように子供たちの尻尾がピンと伸びた。
「もう一度言うけど、お姉さんは嘘をつく子は嫌いです」
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