124 連続攻撃とトドメの一撃

「もう一度言うけど、お姉さんは嘘をつく子は嫌いです」


 声のトーンは低い。自分は年上だから子供たちに向かって大人げなく声を荒らげないようにと心がけているが、リコッタの無実を暴きたいという心の荒ぶりとがせめぎあっている感じだ。


「私も嘘をつく子は嫌いですよ?」


 たたみかける様に連続攻撃を仕掛けるマフバマさん。

 優しく包み込むような声がレナとのギャップを際立たせている。


 リーダー格のジニちゃんがガタガタと体を震わせている。


 皆の尊敬を一心に受けているマフバマさん。そんな彼女に嫌われるなんてことはまだ小さな子供達にとっては恐怖も恐怖だろう。

 今ジニちゃんの中ではさらに嘘を重ねて嫌われるか、素直に話して怒られるか、どっちを取るかせめぎ合っていて、でもどっちに進んでも八方塞がりだという恐怖が襲ってきているのだろう。


 そんな様子に対して周りの子はオロオロしながら「ジニ、ジニ」と声をかけている。


「今なら先ほどのテラマギオ様への誓いは無かったことに出来ます。本当の事を教えてくれますか?」


 ここでマフバマさんがトドメをさした。

 彼女たちの唯一神であるテラマギオンへの嘘と言う不敬を無に帰してくれるというのだ。もはや選択の余地は無い。


「う、うわぁぁぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁい」


 とうとうジニちゃんが泣き出してしまった。

 つられて三人の子も泣き出して、辺りに鳴き声が響き渡ったのだった。


 泣きながら鼻水をすすりながら女の子達は本当のことを教えてくれた。

 彼女たち曰く、リコッタばかりがマフバマさんに褒められるのが羨ましかったのだという。

 だからリコッタを部屋に閉じ込めて、自分達だけでもお役目が出来るというの示してマフバマさんに褒めてもらおうとしたらしいのだが、いつの間にかリコッタは部屋から消えていたらしい。

 慌てた彼女たちはリコッタを探すも見つからず、怒られるのが怖くなって嘘をついたら引くに引けなくなった、というのが顛末だった。


 エネルギープラネアを溜めるお役目はチャリクの間に常駐する形でひっそりと行われていて、お役目を行う5人以外にはここに近づく人もいないらしい。

 それに加えて彼女たちがここから地上に出る機会は月に1度ほどの休みの日か、ご飯の当番の日くらいだという。

 つまりは地下と言う密室空間で起こった悲しい事件だった。


「よく話してくれました。正直な子にはテラマギオ様の祝福があるでしょう。

 ですがリコッタが怒っている事、悲しんでいる事はまた別です。リコッタが帰ってきたら、きちんと謝ることは出来ますね?」


 膝をついて4人の目線に合わせ、両手で全員を抱きかかえるようにして優しく諭すマフバマさん。


 子供たちは鼻水混じりの声できちんと謝ることを約束したのだった。


 ◆◆◆


 地下にあるチャリクの間から地上に戻って来た俺達。ウルガーも戻ってきて改めて今後の方針が示される。


「改めてお願いいたします。リコッタを連れ戻していただけませんでしょうか。あの子たちも反省しています。リコッタが戻れば二つの結界の張り直しまでの時間も大幅に短縮されるでしょう。

 ここまではクシャーナの民の司祭としての依頼です。

 本当は立場上私情を挟むわけにはいかないのですが、お願いです。リコッタを……無事にリコッタを連れ帰って欲しいのです!

 私とは血のつながりは無いとはいえ、小さいころから家族のように育てて来ました。逃げ出したと聞いたとき、本当は私が探しに行きたかったのです。ですがそれは叶いません。お願いいたします!」


 深々と頭を下げるマフバマさん。

 温和な物腰のマフバマさんがこんなに感情をあらわにするなんて。


「大丈夫ですマフバマさん。リコッタちゃんに事情を説明して必ず連れて帰ります! ですよねウルガー様」


「ああ。だが俺はここに残る。いつまた帝国のやつらが襲ってくるかわからんからな。俺とリゼルさんナバラさんは防衛のために残っておいた方がいい」


「えっ!? じゃあどうやって」


 そうだそうだ。このクシャーナに戻ってくるにしても飛行グロリアが必要だし、そもそもどうやってここから地上に降りるんだよ。もしかしてあれか、ワープポータルみたいなものがあるのか?


「降りるのはスライムがいれば何とかなるだろ。戻ってくるときは騎士団に手伝ってもらうといい。都合のいいやつが一人いる。紹介状を書いてやろう」


 ちょっと待てウルガー。今サラリと言ったけど、俺頼みでスカイダイビングしろっていうのか? レナの保護者としてレナを危険な目に遭わせるわけにはいかないぞ。


「分かりました! スーはなんだって出来るんですから。空を飛ぶぐらいお手の物です」


 え゛っ!?

 待ってレナ。ちょっと待ってストップトップ。


 ウルガーが俺の事を認めてるっていうのがわかってレナは舞い上がっている。二つ返事で即OKを出したのがいい証拠だ。


 ドヤ顔は可愛いけど冷静になってくれレナ。


「スー?」


 一転変わって、出来ないの? という悲しみを湛えた瞳。


 いやいやいや、出来ないことは無いぞ。でもあえてそんな危険な事をしなくてもだな……。


 じーっと俺の事を見つめるレナ。

 その視線は俺の心を突き抜けるかのようだ。


 でも危険は危なくてだな、と俺も抵抗してレナの瞳を見つめる。

 

 実際どれだけ続いたのか分からない。

 俺の心を貫き通すようなレナの瞳に長い長い間耐え続けた気がした。


 わかったわかった。わかりました。なんとかします。空中浮遊でも舞空術でもやってやるさ!


「ありがとうスー。信じてるから!」


 ぱぁっと笑顔が広がって。

 この子にはかなわないなと改めて思った。

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