102 スー、串団子になる(1年ぶり二度目)
どんなグロリアが呼び出されたのか確認して対策を練らなければと思い、俺は一度距離を取る。
「スー、あれはリミットシェルだよ!」
さすがレナ。俺の攻撃を防いだこいつはEランクのリミットシェル。巻貝のような三角錐の固い殻を被っている軟体のグロリアだ。中身だけならスライムに近いかもしれない。
殻の長さは80cmくらいで結構大きく、今もクリングリンさんの前面に陣取っている。
余裕たっぷりにゆらゆらと貝殻を揺らしているが、その余裕を打ち砕こうとして攻撃をしてはいけない。なぜならあの殻は一定程度の衝撃を吸収した後、それを一気に開放して相手にダメージを与えるのだから。
「攻撃して殻に当たったらダメだし、攻撃しないと勝てないし……」
「攻撃してこないのかしら。ならばこちらから行きますわよ」
なぬっ!?
クリングリンさんがリミットシェルの殻の下に手を突っ込んだと思ったら、堅い貝殻をまるで槍の様に装備してフェンシングのように鋭く突いてきた。
「スー、全部よけて!」
回避、回避!
俺はその攻撃を何とか回避する。
「フフフ、よけるしかありませんわよね。こちらの攻撃の衝撃もこのカラカラの殻は蓄積するのですから」
その通りだ。まさかリミットシェルをこんな使い方するとは思いもしなかった。
だけど手に持ったら自律して動く盾としての機能は失われるだろっ!
武器として使用されるなら人間の関節の動きからある程度の軌道は予測できる。その隙を狙って体当たりを繰り出した俺だったが――
クリングリンさんは
――ドウッ
俺の体当たりを防いだ殻がこれまで溜め込んだ衝撃を解き放って爆発し、逆に俺を襲った。
これはキツイぞ。
痛みを感じない俺の体だけどダメージを受けているのは分かるのだ。
今のは単純な爆発ではなく振動が何層にも重なって襲ってくるようなそんな衝撃だった。
トルネちゃんのスマッシュゴリラ戦で使った衝撃を散らす方法もこれじゃあ使い物にならない。
「まだまだ行きますわよ。おいでなさい、クバール!」
俺が態勢の立て直しを図る中、クリングリンさんは高らかにそう言った。
まさかまだグロリアが。
今度は一体何が出てくるんだ。
クリングリンさんのポケットから伸びた光は宙に伸び、そこでグロリアの姿を形成していく。
現れたのは銀色の金属質の体を持つグロリア。
宙にプカプカと浮かんでいるそれはDランクのフリントロックだ。その細長い口から体内で生成したいろんなものを撃ちだす習性がある。
「撃ちなさいクバール!」
直後、俺は後方へ跳ねると、直前まで俺がいた辺りで何かが地面とこすれ合った音がした。
俺へと何かが撃ち込まれたのだ。
今のは発射の瞬間を見ていたから直感で回避できただけで、弾を見切ってかわせたわけではない。それほどの視認できない小さな何かが俺を襲ったのだ。
弾は物理弾なのかそうではないのか。口径が小さいため威力は低いに違いないが何分何が打ち込まれているのか分からない。毒とかかもしれない。いったいあの体内で何が生成されているのか。
「スー、よけて!」
そんな考察をしている間にも連続で弾が撃ち込まれてくる。
バックジャンプして回避行動を行う俺。
「いいよスー、その調子よ! だけど下がっちゃだめ。よけながら前に進んで攻撃よ!」
俺は感覚を研ぎ澄ませて前に回避し距離を詰めていく。
そうやってなんとかクリングリンさんを射程内に捕らえたとはいえ、彼女の目の前にはカラーコーンのように尖った
強大な防御を打ち砕こうと体当たりを繰り出すものの、
攻撃後の回避まで考えないといけないためおのずと体当たりの威力は落ちてしまう。
そんな俺に追い打ちをかけるように、クリングリンさんはリミットシェル槍を使って攻撃してくる。刺突剣で突くような鋭い突きが俺の体をかすめ、わずかながらではあるがスライム細胞が削り取られて行く。
「スー!」
レナ、何か手があれば教えてくれ。このままじゃやられてしまう。
レナの方に気を向けた瞬間、俺の体に
ちぃっ!
予想通りダメージは少ないが、こ、これは……。
俺の動きが僅かに鈍り、クリングリンさんからいい当たりの突きをもらってしまう。
くそっ! 撃ち込まれたのはどうやら氷やドライアイスのような低温の何か。それが俺の体を少しずつ染み込むように冷やしていったため体の動きが遅くなってしまったのだ。
ええい、体温を上げてこいつを溶かして、それで――
少し遅かった。
動きの鈍った体にさらに追加で氷の弾が撃ち込まれて――
「もらいましたわ!」
俺の体をリミットシェル槍が貫通。
そして今まで溜め込んだ衝撃を解き放ち、俺の体は内側から爆破された。
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