101 この場で決着をつけましょう
「規定に基づき、第2回戦は10分後に行います」
回復薬休憩だ。騎士は連戦当たり前。むしろ休憩などさせてはくれない。傷を負ったり疲れたりしたら回復薬で即刻回復するのが通常なのだ。
受験生もそれに
「はい、スー。沢山飲んでね」
先生から受け取った傷薬。ガラスの瓶に入った市販のものだ。
ファンタジー世界この上ない雰囲気の逸品だ。そういえば以前リゼルに貰ったのはカプセル剤みたいなぷちゅんと溶けるやつだったな。などと思いながら、スライムボディに突っ込まれた瓶の口から流れ込んでくる液体を体中に行きわたらせる。
はぁ~生き返る。グロリアってのは不思議なもんだな。傷薬で治るんだから。
などと回復状態に浸っていたら、レナが次々と瓶を体に挿入してきた。
ちょっとレナ、そんなにいっぺんに!
そもそもそんなに必要ないから!
などとこちらはこちらでやっている間、クリングリンさんはフルフレッジドアーマーを脱いで、その表面に丁寧に回復薬を塗りこんでいた。
へえ。ガッチガチのお嬢様だから使用人に任せているのかとばかり思っていたけど、自分でやるなんて。騎士に真摯に向かい合ってる証拠だな。
体内に傷薬が溜まりすぎたのでぴゅっぴゅっと余剰分を吹き出して、そんな風にしている間に10分が経過した。
「それでは第2回戦のバトルを開始します。レナ・ブライスさん、クリングリン・ドリルロールさん位置についてください」
とうとう2回戦だ。泣いても笑ってもこのバトルで勝負が決まる。このバトルの勝者が第1王女守護騎士隊に選抜されるのだ。
フィールドを挟んで向かい合うレナとクリングリンさん。
まさか彼女とこの場で戦うなんて思ってもみなかったな。
令嬢科でも優秀な成績を修める彼女。ともすればレナよりも優秀で作法も完璧な令嬢オブ令嬢のような彼女だが、なぜかレナに食って掛かるのだ。
俺がレナの元に帰って来て初めて登校した時は注目を集めるために
サイリちゃんと
あと、俺が尻に当たってしまったときはものすごく怒られたものだ。あ、これは俺が悪いんですけどね。
そんな風にレナと張り合いたがる彼女。
一大決戦の場であった
そんな仁王立ちの彼女がじっとこちらを見据えながら口を開いた。
「ブライスさん。いえ、レナ・ブライス。今日、この場で決着をつけましょう。わたくしの全身全霊をもって、あなたを粉砕し、そして勝利を掴み取ります」
「うん。レナ全力でやるよ。クリングリンさんは倒さなくてはならない相手。私が夢をつかむために立ちはだかる最大のライバル。あなたに勝ってレナ、守護騎士になるんだから!」
お互いに気合十分だ。
「それでは、両者グロリアを!」
「行くよスー!」
おうっ!
ポヨポヨと跳ねてフィールドインする。
「出ましたわね、赤いスライム。簡単にわたくしを倒せるとは思わないことね。とうっ!」
なぜかダッシュジャンプし、フィギュアスケート選手のように空中でくるくる回って……そのさなかに鎧グロリアフルフレッジドアーマーを纏ってフィールドに着地した。
華麗という言葉が似合う。
だけど相当練習したんだろうな、と思わせるフィールドインパフォーマンスだ。
「それでは試合開始!」
いつまでも見とれているわけにはいかないと俺はクリングリンさんに集中する。華麗パフォーマンス中にも笑顔を見せていた先ほどとは異なり、キッとこちらをにらむような鋭い表情のクリングリンさん。
前回の戦闘時と同じくなんらかの格闘技の構えをとっている。
これまで遠距離攻撃を見せたことはないから、構えよろしく近距離攻撃が主体だろう。とはいえ油断は禁物だ。いつ何が来ても対応できるようにしておかなければな。
さてレナ、どうする? 指示をくれ。
俺は後方にいるレナの様子を感覚で掴む。
レナもやる気十分だ。
「スー、体当たりよ! スーの力を見せてあげるのよ!」
了解だ。カウンターに注意して攻撃を仕掛ける!
対面のクリングリンさんとの距離は少し遠い。
俺は走り幅跳びのようにホップステップと距離合わせをしながら跳ね進む。
だがカウンター狙いかと思っていたクリングリンさんが予想に反して前に出てきて、素早い拳撃が距離合わせ中の俺にめがけて放たれる。
俺は攻撃姿勢を止めてクリングリンさんの攻撃を回避する。
今日ずっと思っていたことなんだけど、この子お嬢様だよね?
格闘家と呼んでも差し支えないほどの動きをクリングリンさんは見せているんだけど。
攻撃後の硬直を狙って体当たりをお見舞いするも、くるりとステップを踏み回避され、その直後に蹴りがやってくる始末。
フルフレッジドアーマーの能力で身体能力が強化されているとは言え、修練を積まないとここまでの動きは出来ないだろう。つまりは俺たちの知らないところで血のにじむような努力を重ねたに違いない。
俺とクリングリンさんは攻撃の応酬を繰り返す。
攻撃のペースを掴まれているのか俺の攻撃は当たることなく、そしてクリングリンさんも俺の粘着液を警戒してなのか攻め手に欠けるようだ。
そんな状態を見かねてレナが戦法を変える。
「スー、早い体当たりよ!」
分かったレナ。五月雨連撃だな!
ちなみにこの技名はレナには伝わっていない。元々言葉が伝わらない上にこの世界に五月雨って言葉が無いのが原因だ。でもせっかく技名を考えたから俺の中では五月雨連撃で通すのだ。
威力重視からスピード重視に変えた体当たりを繰り出す。スピード重視とは言え当たればドッジボールをぶつけられたくらいは痛い。つまりは雨あられのようにドッジボールが飛んでくると思ってもらったらいい。
俺の手数に押されてクリングリンさんは防御に回る。急所を的確に守るお手本のようなガードだ。そのため俺の攻撃はたいして効果を上げていない。
クリングリンさんとの接触時に硬化液を塗りつけてみるものの、どうやらミイちゃんの黒羽攻撃を防いだ防御膜に阻まれて効果は出ないようだ。
それでも俺は連続攻撃を続ける。ドッジボールが当たっただけとは言えダメージは与えられるし、グロリアの力を借りて身体能力を強化しているとは言えクリングリンさんは13歳の女の子。いつまでも体力が持つわけがないのだ。
さあどうするんだクリングリンさん。ずっとこのままなのか?
レナのライバルなんだろ?
当り前ですわ、と聞こえた気がした。
クリングリンさんの目を見るとその目は全然死んではいない。むしろ喜んでいるかのようだ。
「出てきなさい、カラカラ!」
音声認識によるクラテルへの指示。ポケットに入っているクラテルからグロリアが呼び出され……俺の体当たりは硬い何かに阻まれたのだ。
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