035 リゼルとの魔境探検 Xランクグロリア
『HUMAN EATER:人間を体内に取り込みその輝力を吸い出すことによってスライム族の限界を超えることを目的として創造する。テストではベヒーモスを超える能力を引き出すことに成功した。
確認者コメント:人間に危害が及ぶことが想定されるので実装は許可できない。性能の修正を求む。だいたいお前はいつもこうだ。もっとまともなグロリアを創造しろ』
いろいろ突っ込みたいことは満載だが、それは後だ。
おそらくこいつで間違いない。
やっぱりカミャムはその体内に囚われて、輝力発生装置にされているんだ。
もちろん契約者は衰弱して死に至る。
栄養として捕食するのも、輝力の元として捕食するのも、行きつく先は同じ「死」だ。
どうして未実装グロリアを召喚できたのか、その理屈は分からないけどカミャムはこの未実装グロリアを召喚した。
カミャムはヤツを新種のグロリアであると確信し、このダグラード山脈にやってきた。きちんとキャンプも張っていた。
その後どのタイミングでカミャムがヤツに捕食されたのかは分からない。岩女を倒した後なのか、
ベヒーモスってのはAランクのグロリアだ。つまりヤツはそれ以上の力を持っていることになる。
イレギュラーで召喚されたやつにそんな力があるのかは分からないが、破片だけで俺の命を脅かすようなやつだ。俺ではまったく相手にならないのは身をもって体験した。
「キルベス、スピードを落とすんじゃないぞ、さらにギアを上げて相手に攻撃の隙を与えるな!」
急に入ってきた声に、まとまらない俺の思考は中断する。
俺が思考に
外野とはいえ俺も戦いに集中しなければ。
俺は気持ちを切り替える。
キルベス先輩の素早いドリルのラッシュは確実にヤツのスライムボディを削り取っている。
さすがの巨体ではあの攻撃に対応できないようだ。
だけど逆さになって囚われているカミャムの体は眩しく光っていて……おそらく輝力を吸い上げているのだろう。
そのせいかキルベス先輩が削った体は、ちゅるんとゼリーが絞り出されるようにすぐさま再生されて行く。
回転するドリルが一呼吸の間に無数の穴をあけ、次の瞬間にはその穴は埋まっている。再生している瞬間にも無数の穴が生み出され……そして埋まる。
むしろその再生能力があるから防御を行っていないのかもしれない。
ヤツの体から生えた触手は、先ほどまで両手と背中の合わせて3本だったはずが、いつの間にか背中に2本増えていて激しい猛攻を見せている。
それを捌きながらもヤツをハチの巣にしているキルベス先輩だったが、じわじわとキルベス先輩の攻撃スピードよりもヤツの再生スピードのほうが上回ってきている。
終わりの見えない戦いにキルベス先輩の息も上がってきて、徐々にその攻撃を捌ききれなくなってきているのが見て取れる。
「キルベス、戻れ、あれをやるぞ!」
リゼルの声に、そちらをちらりと見たキルベス先輩はこくりと頷き、ヤツとの距離を取ってリゼルの前面に陣取る。
これはもしかして必殺技を出すのか?
リゼルはバッと両腕を横に突き出し一瞬手のひらを開くと、空を見上げて目をつむり、ゆっくりと両手を自分の胸の上に持ってきた。
あれがリゼルのルーティーン。輝力を高めるために行う決まった動作か。
リゼルの体が青白い光を帯びていき、それは徐々に強くきらめくようになり、やがては気泡のようにリゼルの体から空へと浮かび上がっていく。
目を閉じていたリゼルが鋭く目を見開くと、瞬間、その青白い光が眼前にいるキルベス先輩の背に向かって橋を架けるかのようになって……それを受けてキルベス先輩の背中に生える金色の背びれのような毛が光を放ち始める。
「いくぞキルベス! ライオットパルサー!」
両足を開いてしっかりと大地を踏みしめ、尻尾を地面に突っ込んで固定し、そうして必殺技の体勢を整えたキルベス先輩は口を大きく開くと、そこから眩しくきらめく光の奔流、すなわちビームを発射した!
その一条の光はヒューマンイーターの右肩辺りから腹までをごっそりと消失させ、後方の木々を焼き払い、瘴気の舞い上がった空を貫通し、一瞬だけどよく晴れた水色の空が見えた。
「いまだキルベス!」
リゼルの指示。とどめを刺すのだろうか。
今戦闘に参加していない俺には分からないが、おそらくキルベス先輩はリゼルのたった一言の意味を理解している。
リゼルは不思議な女性だ。人間の言葉をしゃべれない俺たちグロリアの言いたいこと、伝えたい事をよく理解している。
俺たちグロリアもそんなリゼルの事をよく理解している。
俺はリゼルの言葉が理解できているし、キルベス先輩も理解していると思うけど、人間の言葉が理解できていないグロリアでも同じことだろう。
今のように、はたから見ている場合はその効果は薄いのだが、直接心を通わせて戦っている最中なら以心伝心と言っても過言ではないのだ。
意図を解したキルベス先輩は必殺技後の硬直を終え、大地を蹴り一足飛びに未だダメージから回復しやらぬヒューマンイーターへと飛び掛かった。
これはとどめじゃない、ヤツの体内に囚われているカミャムを助け出す気だ!
必殺技の一撃を受け消滅した部分との境目、そこからぽたぽたとスライム細胞が溶け落ち始めており、逆さになったカミャムの足がそこから露出しているのだ。
足を引っ張ってヤツからカミャムを引っこ抜こうという意図に違いない。
キルベス先輩の左手がカミャムの足を掴んでそのまま後方へすれ違う、と言う所で、ヒューマンイーターが華麗な体捌きを見せ、キルベス先輩の手は空を切った。
キルベス先輩は後方での着地と同時に片足で地面を蹴って跳ね、まるで返す刀のように再びカミャムの奪取を狙うが、その動作もヤツの背中側の鞭で叩き落とされる。
必殺技で体力を消耗しているのか、キルベス先輩の動作が鈍い気がするぞ。
ダメージ後の着地の隙をなくすため、手を地面についてバック転で体勢を立て直し、1回転2回転3回転としてリゼルの元に戻る途中、ガクリと体勢を崩してその場に膝をついた。
どうしたんだ。そんなにダメージを受けているようには見えなかったけど……。
――ザッ
音に反応して視界を向けた先に、リゼルも膝をついている姿があった。
どうしたんだリゼル⁉
大丈夫か? 輝力を使い過ぎたのか?
「……どういうことだ。これは輝力の使い過ぎから来る疲労じゃない……」
足を引きずったキルベス先輩が何とかリゼルの元まで帰ってきたけど、そのまま地面に倒れこんでしまった。
そしてリゼルの様子もおかしい。一体何が……。
「まさか……毒? 一体どうやって……」
毒だって? 俺は何ともないぞ。
どうしてリゼルとキルベス先輩だけに効果があるんだ。
「毒を振りまいた様子は無かった……。やつの体液が毒だというのなら吸い込んだ時に分かるはずだ」
リゼルの予想は遅効性の毒。それも呼吸器から侵入するタイプということか。
確かに俺は肺呼吸しないから吸い込むことは無い。
だけどリゼル。飛び散ったあいつの破片を分析したけど毒の成分なんて無かったぞ。
体をぷるぷると震わせて俺の考えを伝える。
だけど俺の動作を見終える前に、リゼルも地面に倒れこんでしまった。
俺は急いでリゼルの元に跳ね寄る。
どういうことだ、吸い込む遅効性の毒……。
いつからだ、リゼルが気づかない無色無臭の毒?
まさか……。
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