055 ターゲットはあと3分ほどで帰宅します

「ええーっ! そんな事になってるの⁉」


 そうなんだよ。どうしようか。


「小説だって本当は読みたかったのよ? でも今読んでしまうと誕生日までに鎧が完成しないからって、しかたなく諦めたのに……」


 ――コンコン


「レナ、根を詰めすぎては体に悪いわ。ハーブティーでも飲んで休憩なさいな」


 ライザママだ。ブライス家内の協力者の一人で、今までパパに鎧を作っていることがばれていないのはママの力によるところも大きい。


「お母様。かくかくしかじかなの」


「あらあら、あの人もレナの前では形無しね。仕方のない人。まかせて。私が何とかしてあげるわ。心配しないでレナ」


 そういうとライザママはうふふと言いながら去っていった。

 抜群の安心感だ。これで当面は問題ないだろう。


 そしてXデーまであと数日。

 俺たちは鎧を完成させないといけないぞ?

 造形は大方完成したんだが、目下1700℃の高温に耐える部分で行き詰っているんだ。それがクリアできないとマーカスパパがドラゴンと戦う時に問題だからな。


 俺たちは素敵な鎧の完成を目指して引き続き頑張るのだった。


 ◆◆◆


「かんせー! できたよスー!」


 マーカスパパの誕生日当日。なんとか完成にこぎつけた。

 その煌めく光を放つ鎧を見ていると俺も感無量だ。


「やったね、むにゃむにゃ……」


 そのまま前のめりになってへたり込んでしまうレナ。

 昨日は詰めの作業で寝て無かったからな。しかたない。

 今日は学校は休みの日だし、まだ午前中だ。


 俺はレナをベッドまで運ぶと布団をかけて、自分もその横で休むことにした。


 ◆◆◆


 鎧を箱に入れてプレゼント包装して、そうして完成したレナの努力の結晶を玄関前に運び込む。

 仕事から帰ってきたマーカスパパに第一声でお誕生日おめでとうするためだ。

 いまかいまかとソワソワするレナ。

 そんな中、「お嬢様。ターゲットはあと3分ほどで帰宅します」との声が聞こえて来た。密偵に出ているメイドさんからの報告だ。


「お父様喜んでくれるかなぁ」


 抱きかかえられた俺の体にレナの心臓の鼓動が伝わってくる。

 大丈夫だレナ。これは素晴らしいものだ。安心するといい。


 そんな俺の想いが通じたのか、レナは俺を床に降ろした。

 

 ――ガチャリ


 ドアの開く音がした。ターゲット帰宅だレナ!


「お父様、お誕生日おめでとう!」


 ぴょいんと跳びはねてマーカスパパに抱き着くレナ。


 きょとんとした表情を浮かべたまま、抱き着いてくる愛娘を受け止めるマーカスパパ。

 うんうん、美しい親子愛だ。


「レナ、もしかして……」


「そうよお父様、あれを見て! レナからお父様へのプレゼント!」


 マーカスパパの手を引いてプレゼントの元へと誘導するレナ。

 そして巨大なプレゼントボックスを開放するパパ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 そこに現れたのは、自らが淡く発光するブルーメタリックのフルプレートメイル。小手、足具はもちろんの事、牛の角のように雄々しい突起がついた兜もセットだ。

 1700℃の炎に耐えれることもさることながら、破損の自己修復と装備者自動回復がついた逸品だ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 レナと寝不足の頭の良く分からないテンションで色々な機能を付けたけど、いい仕上がりだ。もちろん神カンペの力を借りている。青い炎を吐くようなドラゴンに立ち向かうには物足りないが、民間人が装備する分には問題ないだろう。


 ちなみに俺が主に担当したのは鎧をまとっているマネキンだ。マーカスパパの体形を寸分の狂いもなく再現してある。顔部分は少々美化しておいた。ナイスミドルをもっとナイスミドルにしておいたぜ。おまけ機能としては万が一のために自立行動をとるようにしている。外敵が侵入した際には単体で撃退できるすぐれものだ!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 喜んでもらえたようで、何よりだな。レナ。


「レナぁぁぁぁぁぁあ、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 ようやく現実世界に戻ってきたパパはレナを抱きしめると、その頬にちゅっちゅし始める。


「あはははは、お父様くすぐったいよ。それにレナだけじゃないのよ。スーも手伝ってくれたんだから」


「おおそうか。スーもありがとぉぉぉぉぉ!」


 うおっ!

 なんか身の危険を感じた俺は咄嗟にパパのハグを回避したのだった。


 ◆◆◆


 『お父様喜んでくださったのね。私も久しぶりに誰かにプレゼントしてみようかしら。お父様は早くに亡くなってしまったけど、叔父様が代わりに良くしてくださるし。レナさんの話を聞いたらいてもたってもいられなくなってきたわ』


 窓辺にはキャリースパロウがとまっている。

 文通相手のエミルちゃんからの手紙が届いたところだ。


「それがね、お父様ったらおかしいの。よっぽど嬉しかったのか、四六時中鎧を着けててね、仕事に行くときも着けて行って、街のみんなにも自慢してね。俺がドラゴンを倒すんだーって意気込んで、早朝からガチャンガチャンと音を立ててランニングなんかし始めたの。薄暗い中で青く光る幽霊を見たっていう噂がたったけど、それは鎧を着たお父様だったりね。さすがにご飯を食べるときは脱ぎなさいってお母様に怒られていたわ」


 レナは返事を口にしながら手紙をしたためている。


 本当に大成功だったよな。

 俺としてはマネキン自動人形君が盗賊を撃退する様子が見たいから飾っておいて欲しいんだけどな。


「これでよしと。エミルさんの元に届けてね」


 キャリースパロウに手紙を持たせ窓から放つ。


「ねえスー。来年は何にしよっか。お父様の嬉しそうな顔、また見たいわ。そうだ、次は戦闘馬車にしましょ!」



 そんなこんなでレディが贈るプレゼント大作戦は大成功で幕を閉じたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る