097 カラカール流双拳法 その1

 そんなこんなで実技試験のための準備を終えて、校庭に移動した一行。


 校庭にはグロリアバトルを行うフィールドがある。

 バトルフィールドはテニスコートほどの広さ。それに四角く枠線が引かれていて、この枠から出てしまったら負けとなってしまう。

 実技試験はいつも見慣れたここで行われる。


 いつもと違う点は審判席が用意されていることだ。

 国の偉い人が見に来ることになっていて、すでに身なりの良い人や鎧を身に着けた騎士らしき人が座って待機している。


 いくつか空席があるようだが、遅刻かな?


「それではルール説明を行います」


 校庭に横一列に並んだレナ達の前で、先生がルールを説明を行ってくれる。


 試験のグロリアバトルは通常ルールではなく【騎士ルール】で行われる。

 騎士ルールでは戦わせるグロリア数の制限は無く、何体でも契約しているだけ戦わせることが出来る。そして一対一の形式ではなく同時に何体もフィールドに出して良いのだ。さらに契約者がフィールドに立ち入る事も許されている。

 騎士ルールは有事の際の実戦に近づけたルールになっているのだ。


「それでは第1回戦A組のバトルを開始します。トルネ・カラカールさん、レナ・ブライスさん位置についてください」


 レナとトルネちゃんがバトルフィールドを挟んで向かい合う。

 対戦者以外は審判席の反対側に用意された選手席で自分の出番を待つことになる。


「ようやくこの時が来たなブライス。小っちゃくて可愛いお嬢様がたった1年でよくここまでやってきたもんだ。それは素直に褒めてやるよ。だけどな、世の中はそんなに甘く無い。このオレがそれを分からせてやるよ」


「トルネちゃんが強いのは知ってる。だけどレナも負けるわけにはいかないわ。今までの修行の成果見せてあげる。最後まで立っていたほうが続きを語りましょ」


「いいねぇ。男前じゃないか。もう言葉はいらないな!」


 そして静かに、言葉を発さずに、己の目に想いを乗せぶつけ合う二人。


「それでは、両者グロリアを!」


 審判の先生が準備を促す。


「行くよ、スー!」


 任せておけ。俺だって気合十分だ!


 レナの胸から飛び降りてフィールドの中にインする俺。

 ブルりと武者震いをする。いつもと違った感覚だ。

 審判と国の要人に見られながら一発勝負のバトル。

 だけど緊張しているわけでは無い。むしろ引き締まった感覚が俺の意識を高めてくれる。


「出てこい、ゲリ、ゲラ!」


 トルネちゃんが左右の手を体の前で交差させる。

 その手に持っているのは二つのクラテル。そこから伸びた光の粒子がフィールドに触れ、グロリアの形を形成していく。


 現れたのは体長2メートルほどのグロリア。黒い体毛に覆われた体を持ち、足の長さの割に腕の長さが長いムキムキマッチョ。まあゴリラだ。

 このグロリアはスマッシュゴリラ、Dランク。ムキムキの長い腕から繰り出される一撃は1トンもの岩をも砕く。


 それが2体!!


 まったく同じ背格好のスマッシュゴリラ達。ゲリとゲラという名前なんだが、俺にはどちらがゲリでどちらがゲラなのか区別はつかない。

 

 そのゴリラ達が戦いのポーズをとる。

 向かって左側のゴリラは右腕を下に左手を上に。向かって右側のゴリラはそれとは対照的に左腕を下に、右手を上に。右前構えと左前構えをとっているのだ。

 その左右対称の構えは金剛力士像のような圧倒的な圧力を生み出している。


「見せてやるよ、カラカール流双拳法。ついてこれるか?」


 ルーナシア王国八大武家の一つカラカール家。ミイちゃんのバルツ家と同じく何人もの有名な騎士を輩出している。

 カラカール家は独自の拳法の流派を開いていて、それすなわちカラカール流双拳法。幼いころから2体のグロリアと共に過ごし拳の道を究めることを目的としている。

 そんなカラカール家の次女がトルネちゃんなのだ。


「それではバトルスタート!」


 審判の先生から開始の合図。

 それと当時に巨大な黒い塊が2つ、勢いよく俺の方に向かってくる。


 重量ってのは理屈のいらない最もシンプルな武器だ。重ければ強い。軽ければ弱い。そう言った点で俺はあの2体に及ばない。


 左右両方から勢いの乗ったパンチが俺に向かって叩き込まれる。


 ええい、そんなものに当たるかよ。

 俺は小手調べであろう一撃を紙一重ではなく大き目に横に距離を取って回避する。


 案の定、強力な一撃が地面をえぐり取った。

 紙一重で回避していたら勢いに巻き込まれただろう。


「スー、体当たりよ!」


 任せろレナ!

 ゲリかゲラか分からんが左側のやつ、くらえ狙いは脇腹!


 相手の技後にできる一瞬の硬直を狙い、脇腹に向かって体当たりを繰り出す。


 だが、そうは簡単にいかないものだ。

 パンチに使ったのとは逆の腕が脇腹のガードに入り、俺の体当たりは防がれてしまう。


「ゲラ、牙竜拳! ゲリは強打衝!」


 今度は俺の技後の硬直を狙って右側のゴリラがスピードの速いパンチを繰り出してくる。


 くそっ、技後の硬直というか俺が技を出してる途中から狙われていた感じだ。

 先ほどの一撃より威力は低いと判断し、俺は回避ではなく防御に回る。

 拳がヒットする瞬間、体を震わせて衝撃を散らし威力を減衰させることに成功した。


 のだが、防御行動をとったがゆえに、ある意味無防備になった俺の体。

 そこを、もう片方ほうのスマッシュゴリラの重い一撃が襲った。


「スー!!」


 パンチが直撃した俺の体は地面に叩きつけられワンバウンドツーバウンド。そのまま場外コースの威力の高い一発だったが、なんとか場外に出る前に体勢を立て直すことは出来た。


 くっそ、やはり強い。

 一体一体が強いのもあるけど各々がそれぞれの隙をかばうように動いてくる。片方を攻撃しているうちにもう片方に攻撃されてしまうのは厄介極まりない。

 とはいえ2体同時に倒せるような技、フレイムブリンガーをこんな衆人環視の中で出すわけにはいかない。


「どうしたどうした。そんなものか。オレの買い被りすぎだったか?」


「今のはただのウォーミングアップよ。スーの体も温まってきたんだから」


「なら見せてみろよ、お前たちの力を! ゲリ、ゲラ、二神背皇撃法にしんはいこうげきほう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る