140 編集者権限

 リコッタの回転と核分裂の仕組みを取り入れて編み出した俺だけの輝力増幅法。

 

 俺の予想どおり輝力を回転させているスライム細胞は爆発していくが、発生した輝力を吸収してそれを上回る再生を可能にしている。


 それと、スライム細胞が爆発してしまうのはしょうがないと受け入れて、どうせ爆発して無くなってしまうのならばと爆発の代わりに上手にぱっくり割るようにしたため体内ではさざ波すらも経たない。


「な、なんだいありゃあ!? レッドスライムXが膨らんで、大きくなっていくじゃないか!?」


 回転回転回転! 再生再生再生! 増殖増殖増殖!


 思った以上に輝力が増えてるので、その輝力を使って増殖して体を大きくしている所だ。


「いったい何なんだい! 稲妻が、私のメーザーライトニングが効いちゃいないじゃないか!」


 効いてるよ。でも焼け焦げるスピードより再生スピードのほうが速いんだな、これが。

 今まで俺の体を貫いて地表まで到達していた稲妻だったが、地表はおろか上から10cmくらいまでしか到達していない。


 ぶにぶにとさらに体積を増していく俺。

 すでに最初の5倍ほど。戸建ての家5件分くらいかな。しかも5階建て。もう大き目のアパート並の大きさだ。


 レナを守るため、勝つために、必死に輝力を大きくして増殖しているそんな時――


『個体名:スーは進化の条件を満たしました。進化先を選択してください』


 突如、頭の中に響いたのは機械的な女性の声。


 こ、これは……。

 進化だ! ここにきて俺が進化するのか!?

 

 何に進化出来るんだ?

 Sランクか? いやいやXランクの続きか?


 …………。

 ………………。

 ……………………?


 進化先、出てこないぞ?


 その昔同じように聞こえた時は頭の中に進化先が出て、そこでカーソルを動かせたはずなんだが……。


『エラー。進化先が登録されていません』


 え゛っ!?

 どういうこと? 進化出来ないってこと?


『進化元がイレギュラーのため通常の進化ルーチンを停止します』


 停止!? 終わりってこと!?

 俺が未実装のXランクだから普通に進化出来ないってこと!?


 そ、そんな……。


 ちょっとガッカリしている。

 リゼルのところで進化してから約3年、今まで進化の兆しもなかった。

 だからもう進化しないのかと思ってたから嬉しかったんだ……。


 俺が進化して強くなればレナも喜んでくれるし、立派な騎士への近道にもなる。

 だからちょっとどころのガッカリ感じゃない。


『特殊プロセスを実行します。テスト個体:スーに編集者権限を付与します。進化先のグロリア種族名、ランク、特徴を記載してください』


 いま、なんて?

 俺に、編集者権限を付与したっていった? なんの?


『******:**ランク

 *********************************』


 こ、これは……。

 神カンペじゃないか。編集者権限ってことは、書き込めるの?


 俺は*の部分に文字を入れようと頭の中で念じてみる。


『ああああ**:**ランク

 *********************************』

 

 入ったぞ!

 これ、もしかして俺の進化先を自分で名前を付けられるってこと?

 いや、そもそも進化先が無いって言ってるのに何に進化するんだ?


「スーの色が、青くなってる……」


 えっ?


 増殖膨張しながら雷を防ぐのに必死で気づいていなかった。

 いつの間にか俺の体はSUNサン ROADロード SLIMEスライムの真紅から、海のように深いあおみどり色、つまりは碧色へきしょくになっていた。

 もしかして、俺、すでにSUNサン ROADロード SLIMEスライムじゃない、違うスライムになってるってこと!?


『グロリア種族名、ランク、特徴を記載してください』


 って、言われてもすぐに思いつくものでもなくって。


「あ、あぁぁ、ナフコッド様! お助けください! スライムに、スライムに食われてしまいま、あぁぁぁぁあぁ!」


 叫びながら俺の体内に侵入してきたのは空を飛んでいた帝国兵。

 俺の体はさらに膨張を続け、不用意に攻撃してきた帝国兵たちを絡め取っていたようだ。

 招き入れたわけじゃないので、俺のスライム細胞の中では息ができずゴボゴボとやっている。


『グロリア種族名、ランク、特徴を記載してください』


 ちょっと待って、今立て込んでるから。

 あの帝国兵をなんとかしないといけなくて。


『編集プロセスを中断します。続けるときは再開を選択してください』


 あ、中断できるんだ……。

 わかった、また後でお願いします。


 俺は神カンペさん(だと思う)に別れを告げて、戦場に意識を戻す。


 すでに雷攻撃は止んでおり、四方に置かれていたライトニングライガーの爪も体内に取り込まれている。

 巨大化したスライムボディはいつの間にか野球場くらいの大きさになっていて驚きだ。


 俺の体は相当急激に大きくなったのだろう。

 逃げる暇も無かったのか、多くの帝国兵とそのグロリアを体内に入り込んでいた。

 とりあえず彼らには酸素の供給をして、体内で暴れないように手足は拘束させてもらう。


「ちいっ! おい、オーロラシェルのエネルギーは貯まってるんだろ! コスモブラスターの第2射を撃ちな!」


「し、しかしナフコッド様、味方が取り込まれております。そのまま撃つと巻き込んでしまいます!」


「お前の頭は空っぽか。あいつを野放しにしてみろ、もっと多くの帝国人民がやつに食われることになるんだぞ。迷っている暇はない!」


「しかし……」


「ええい、なら私がやる。責任は私がすべて取る。

 エンチクロペディア! オーロラシェルとの輝力リンクを繋げ!」


 ナフコッドめ、味方ごと俺をオーロラシェルの一撃で撃ち抜くつもりか。


「スー!」


 大丈夫だレナ。俺に任せて。


 目を閉じたままふわふわと宙に浮遊しているナフコッド。手に持った本型グロリアのエンチクロペディアは光り輝き、そこから伸びた輝力の光がオーロラシェルとつながっている。


 隙だらけだが、他の帝国兵のように俺の体内に取り込むにはナフコッドの位置は高すぎる。


 虹色に光り輝くオーロラシェルの貝殻がさらに光を増して――


「くらいなっ、コスモブラスター!!」


 カッと目を見開いたナフコッド。

 その言葉を合図にオーロラシェルの前方に収束したエネルギーがこちらへと向かって来る。


 膨大なエネルギー量だ。このクシャーナを貫いて地上を焼き払うほどの圧倒的なパワー。


 だけどなっ!


「へっ?」


 ――ドォォォォォォォォォォン


 俺は撃ち込まれたエネルギーを、撃ち込んで来たオーロラシェルに向けてはじき返した。


「な、なんだって!? コスモブラスターが!? オーロラシェルが!?」


 煙を吹いてゆっくりと墜ちていくオーロラシェル。

 強固な貝殻はひび割れ、直撃した部分は穴が空き内装が見えている。


 どうだみたか。

 永久機関、エターナルドライブを手に入れた俺には通じないのだ。


 さあ、降参しろ。

 切り札のオーロラシェルも失ってお前一人だ。

 お前が驚いている隙に残った帝国兵も確保したからな。

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