139 敬意を払うレッスン
リコッタ! なんて馬鹿な真似を!
「いちちち……」
左足に落雷がかすったらしく顔をしかめて患部を手で押さえている。直撃してちぎれ飛ばなかったのが幸いか。
ほれ見せて見ろ、傷薬塗ってやるから。今雷を防ぐので手一杯で余力が無いから効果は低いけど我慢しろよ。
「リコッタちゃん、どうしてここに……」
そうだ。お前は村に帰ったはずじゃ。
「心配だったから」
「心配?」
「そうだよ。レナが、スーが、心配だったから!」
心配って……。気持ちは嬉しいけどここは危険なんだ。
いや……そう言えばここにはもう一人、心配だからって駆け付けた人がいましたね。
クシャーナの民はみんなこんな感じなんだろうか。
「レナとスーが怖い目にあってるんじゃないかって思ったら……村に帰るって約束して別れたけど、やっぱり心配になって途中で引き返して。それで走ってきたら大ピンチになってて。こっそり見てたけどスーの輝力の使い方がへたっぴで見てられなくて」
へたっぴって……。俺はだな全力で――
「スー、分かってるよ。レナは分かってる。レナの輝力が足りないことも、それを何とかやりくりしてスーがレナ達を守ってくれてることも」
レナ……。
「こめん、違うの。レナは頑張ってる。スーも頑張ってる。見てたら分かる!
だけどね、じれったいの。もっと、もっともっと、うまくやれるのに!」
リコッタ……。
「ほれ、ガキが一匹増えたぞ? 必死に守らないと死んじまうよ」
ぐぅぅぅぅっ!
落ちて来る稲妻の威力がさらに上がった!?
「ペチャクチャとだべっている暇なんかあるのかい? あーっはっははは!」
そうだ。俺の意識が戻ったところで状況は変わっていない。それどころか悪くなっている。
もともとフルパワーのメーザーライトニングにすら耐えれていなかったのだ。
さらに威力が上がれば死へのタイムリミットがますます短くなる。
泥で地面に引っ付いていないリコッタだけならば大砲のように撃ちだしてこの状況から脱出させることは可能だろう。最悪の場合、犠牲は少しでも少なくしなくては。
「違うのスー。今やるのはそんな事じゃない」
心臓は無いのにドキリとした。
リコッタには俺の考えは伝わらないはず。
それなのに見透かされていた。
「ここから逃げるんじゃない。ここで勝つの!」
勝つっていっても、どうやって……。
防戦一方で今にも土俵際まで押し切られて敗北寸前。手も無い脚も無い俺では相手の回しを取ることも出来ない。
「教えてあげる。輝力の使い方」
リコッタは手を伸ばして俺の体を触った。
触ったと言っても、そもそもリコッタは俺の体内にいるからずっとスライム細胞に触れてはいるのだが、リコッタの意識が俺にそう強く感じさせたのだ。
リコッタの手のひら辺りがぽうっと光り輝く。
温かい。これはリコッタの輝力か。
「感じるスー? 私の輝力」
ああ。温かいよ。でも小さい。俺が使ったら今にも消えてしまいそうだ。
「私ね、生まれた時から輝力の量が小さかったんだ。だから他の子より体が弱かったり沢山病気になったりしたんだって。お母さんがまだ生きてた頃の話だけどね。今も輝力の量は小さいけど、でもね、今はもう他の子と遊べるし、お役目もやってるし、このクシャーナから落ちても怪我しなかった」
リコッタの手のひらの輝力が……大きくなった!
大きさだけじゃない。密度が、集まっている力がだんだんと大きくなっていく!
「さあ、これを」
リコッタの手から離れた輝力が俺の体の中を駆け巡る。
な、なんだこれは!?
か、回転してる!?
リコッタから受け取った輝力は力強く渦を巻いており、それを受け取った俺のスライム細胞も流れに身を任せるようにその輝力の渦をさらに高めていって。
これがリコッタの力。輝力を回転させてだんだんと大きくしていって、それで。
「あぁ、やはり……。リコッタ、この子は……。私の目に狂いはありませんでした」
マフバマさんは気づいていたようだ。
輝力保有量の少ないリコッタが編み出した高出力輝力運用法。
その理屈、輝力を回転させて大きくするというというのは何となくわかるけど、誰もかれもが同じように出来るわけでは無い。
それは俺にも言えることで――
――ボムッ!!
回転の制御を行うことが出来なくなった俺のスライム細胞は、巨大に高めた輝力と共に爆発し吹っ飛んだ。
なんていうパワーなんだ……。
今の爆発で俺の体は四分の一程がはじけ飛んだ形だ。
「何やってるんだい? 自爆かい? 手も足も出ないから自ら命を絶つってのかい?
あっはっは、お笑いだ。いいぞ、それくらいの情けはかけてやろう。
ほら、ほら、ほら! 早く自爆してみせなよ!」
ええい、うるさい女だな。ちょっと失敗しただけだ!
いや、煽られて返したものの今のはちょっとの失敗じゃない……。
こんなもの制御できない。不可能だ。
確かに輝力はリコッタから受け取った時の3倍ほどまで大きくなっていた。
だけど制御しきれなかった。
輝力が巨大になる程回転の制御は難しく、それでいて途中で止めることもできない。
止めようとするとおそらく、止めようとする力が高まった輝力と相殺し合ってしまい、高めた輝力は元々の量より減ってしまうだろう。
「スーのへたっぴ。ちょっとずつやるんだよ。ほら、もう一回」
リコッタは簡単に言うけど、いいか、俺はすでに四分の一の体を失ってるんだ。次失敗したら半分だぞ半分。
あ、こら輝力を押し付けて来るな!
ちょっとずつって言っても、結局最後は大きくなって爆発するじゃないか!
爆発する前に回転中の輝力を吸って減らせばいいんじゃないかと思うかもしれないが、それは回転させ続けるより難しい。
つまり輝力を回し始めたらずっと回転させ続けなくてはならず、目的であったはずの輝力の利用すら出来ない。こんなもの使いこなせない。
「スーは私より体が大きいんだから出来るよ。きっと私の4人分は出来る。ほら、私の4倍だよ」
だから……そもそも一人分の回転もできていないわけで、4人分なんか……。
ま、て、よ?
4人分……4個……4つの回転……。
この輝力、全部を
ちょっとずつ、ほんの小さな俺のスライム細胞一つ一つでそれぞれが僅かな輝力を回転させれば。
それに………………。
この輝力回転法のサイクルはこうだ。
輝力を回転させる→輝力が大きくなる→スライム細胞がはじけ飛ぶ→輝力が放出される
これは核分裂と似ている。だからやり方が応用できるんじゃないか?
核分裂とは簡単に言うとこうだ。
核物質に中性子を1個ぶつける→核物質が分裂する→エネルギーと中性子が何個か発生する→何個かの中性子が何個かの核物質にぶつかる→何個かの核物質が分裂する→沢山のエネルギーと沢山の中性子が発生する→沢山の核物質にぶつかる
発生する中性子の量がぶつけた量よりも多いから、だんだんと核分裂する量が増えて行って……行きつくとこまで行ったのが核爆弾で制御しながらゆっくりとやるのが原子力発電所だ。
そのやり方を応用してだな――
1個のスライム細胞が輝力を回転させる→輝力が大きくなってスライム細胞がはじけ飛ぶ→大きくなりすぎて放出された輝力を複数のスライム細胞で受け止める→複数のスライム細胞が輝力を回転させる→くりかえし
放出された輝力は、
1.引き続き回転させて大きくするための輝力
2.はじけ飛んだスライム細胞を再生するための輝力
3.純粋に力として使うための輝力
の三つの役割に分ける。
こうすることで無限に輝力を増やし続ける事ができるはずだ。
まさに永久機関!
そして今すでにそれを試しているのだ!
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