151 人間の俺とドラゴンのレナと、そして…… その1
「さて……。これからどうするか……」
今までの俺は
落ち着き払って風呂に入ったり歯を磨いたり爪を切ったりしたけど、なぜ今そんなことをしたのかと自分を問い詰めたい。
「俺は何をやってたんだぁぁ!」
とりあえず叫んでみたあたり、まだまだ冷静ではない事が分かる。
何を叫んでるのスー? 的な小首をかしげた仕草のレナ竜。
何をと言われましてもね、これからどうすればいいのかってことですよ。
腹も減ってきた。
これも本当に久しい感覚だ。スライムに腹はないからね。
俺が空腹だということはレナも空腹に違いないということである。
ちなみに保冷庫(密閉された箱の中に冷却源となるフロストコークの殻を入れて食材を冷やす箱)の中にはろくな食べ物は無い。
レナは忙しくて食事はいつも外食なのだ。
決して自炊能力が低いというわけじゃないからな。忙しいから作れないだけなんだよ。やたらめったら時間をかければ食べれるものが生み出せる、はず……。
ちなみにドラゴンは何を食べるのだろうか。肉なのか野菜なのか。そもそも食材が無いんだけどね、って、あぁー!
「違う、違うだろ俺! 空腹よりも大切な事があるはずだ!」
そう。人間の腹がとかドラゴンの腹がとか、そんな事よりもだ、そもそも、なんで人間とドラゴンになっていて、どうやったら元に戻れるのかを考えなくてはいけないのだ!
うろたえる俺の姿をみてレナ竜がきゅいきゅいとはしゃいでいる。
はぁ、レナは幸せそうでいいなぁ。俺は悩み満載だよ。
目下、このチェンジ状態を引き起こした原因は第3王子グラウ様のグロリア、
仮に原因が違ったとしてもヴォヴォ様なら何とかしてくれるはずだ。今すぐにでもヴォヴォ様にお会いしなければ。
さてここで問題がある。
「俺が素っ裸な事だぁぁぁぁ!」
もう全てが問題なので問題だらけなのだが。とにかく俺は素っ裸。着る物が無い、履くパンツも無い。この家にある物はレナの服だけだ。下着を含めて。
もちろんサイズが合わないので借りる事は出来ないし、借りたらもう犯罪案件だ。石鹸を借りるのとはわけが違う。
布団のシーツとかカーテンとか巻き付けて外出するか? そんなの古代ローマでもなかったファッションだろ。ファンタジー世界とは言え警邏の騎士さんに見つかった時点で職質からのブタ箱行きだわ。
つまりは外出不可能!
俺が不可能と言う事は相棒に頼ることになるわけだが……。
「くぴっ?」
うーん、レナはどんな姿になっても可愛いな。
じゃなくて、この状態のレナを一人でお使いに出すなんてとんでもない。
世にも珍しいドラゴンが一体でそこらを歩いているだなんて、いくら治安のいい王都でも大問題だ。
観光客とかいるし、裏道に入るとガラの悪いのもいなくはないからな。さらわれたりしたら大変だ。
俺はよっこらしょとレナを抱えてベッドに座る。
抱っこされたのが嬉しいのかきゅいきゅいと喜んでいるレナ。
たとえどちらかが王城にたどり着いたとしても、そもそも謁見できるのかどうか。身の証も立てられないのに。
仮に謁見できて事情を話しても、王族である兄弟にすらも存在が伏せられているヴォヴォ様がここまで来てくれるとは思えない。
「つまりは二人して外に出るしか選択肢が無いんだ」
――コンコンコンコン
「うわぁ!」
急に鳴った音に驚いた。
玄関から聞こえたこれはドアノッカーの音だ。つまりは誰かやってきたということだ!
誰かやってきたとしても出る事は出来ない。
この家にはレナしかいないはずなのに35歳(男)がお出迎えしたら大問題だ。しかも素っ裸だというおまけつき。犯罪の香りしかしない。
――コンコンコンコン
再びドアノッカーの音が鳴り響く。
ここは居留守を使うしかない。
「レナ、しーだ。静かにするんだぞ」
留守中を装うためにお互い気配を消すようレナに伝える。
………。
………………。
…………………………。
息を殺して数十秒。ドアノッカーの音は聞こえてこない。
ふぅ、何とかやり過ごしたかな。
――ガチャッ
「えっ!?」
玄関が開いた!?
ちょっと待て、鍵が開いてたのか!? 閉めて無かったの?
いかん、まずいぞ。まずいぞ!
「鍵が開いているなんて不用心だな。レナ~、いないのか~、入るぞ~」
あ、あの声は、聞き覚えのあるあの声はマーカスパパ!
なんでパパがここに! って、今はそれどころじゃない。
足音が近づいてくる。遠慮なく入ってきてるぅぅぅ!
どうする、どうしよう!
「くぴっ?」
えっと、レナはレナは、いや、レナよりも俺だよ俺! 素っ裸なのはこしみのを巻いてやり過ごすか、こしみのの代わりに布団のシーツを巻くか、いやこしみのがあってもなくても上半身が素っ裸で、そもそも俺は35歳男で!
もはや何が何だか分からないくらいにワタワタと慌てて。
そんな状態で大ピンチな状況を切り抜けられるわけもなく――
「あ……」
レナを探して入ってきたマーカスパパと目が合ってしまった。
「きっ、きっ、きっ……」
「いや、あの、その」
「きっ、きっさまぁ、何モンじゃぁぁぁ! レナの寝室で何をやってるんじゃぁぁぁぁ!」
「うひぃ! 誤解です、落ち着いて!」
「何が誤解じゃぁぁぁ! 全裸のおっさんが娘の下着を漁ってるんやろうがぁぁぁ!」
「ち、違います! 誤解です! 全裸なのはわけがあって」
「この下郎がぁぁぁ! 下着泥棒などというこの世の害悪、ましてや愛娘のレナの下着を盗もうとするなど言語道断! 手打ちにしてやる!」
「ま、まってマーカスパパ! 俺だよ、スーだよ!」
「軽々しく私の名前を呼ぶなぁぁ! しかもパパって言うなパパって。赤の他人が汚らわしい!
それにスーだと? ジョシュアの名前を出すならともかくスーを名乗るなんて調べ方が足りんな! スーはスライムだ。お前みたいなおっさんじゃない!」
「いや、本当なんだ。俺はスーなんだ。朝起きたら人間の姿に――」
「ええい、まだ言うか! その汚い口を永遠に閉ざしてやる!」
まったく話を聞きゃしないぞ!!
「出てこい、もごっち!」
半狂乱のマーカスパパはクラテルを取り出すと中から自分のグロリアを呼び出した。
丸い体のほとんどを大きな口が占めるそのグロリアはモゴン。腹の中に数々の道具を収納できる商人御用達のグロリアだ。
「出てこい、ピクサ!」
そして間を置かず二体目のグロリアを呼び出すマーカスパパ。
こちらは空を浮遊するハンカチというかタオルというか、ボールの上に布をかけたようなそんな形状のグロリア、Eランクのゴーストリークロースだ。
パパ、こんなグロリアとも契約していたのか。
「いくぞ! もごっち、ピクサ、
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