146 スーの憤り
俺の名前はスー。8歳のオスのスライムだ。
俺の目的は俺の
当のレナはレディになる本命ルートの王立学校を辞めて現在は騎士の
レナが仕える騎士というのがこの国の最強騎士である自由騎士ウルガー。最強というだけあって一筋縄ではいかない厄介ごとばかり転がり込んでくる。
先日の浮遊大陸クシャーナの案件は特に厄介だった。まあ終わりよければ全てよし。帝国も撃退し、クシャーナも元の状態に戻った。
結果、レナは学校では学べないほどの経験を積んで、俺も久しぶりに進化して強くなった。
何に進化したかって? 聞いて驚け。それは――
そうだな、実際に神カンペを見てもらうのがいいだろう。
今まで神カンペに存在しなかったページ、グロリアの情報が記載されているページに2種類のグロリアが増えていたのだ。
一つがこちら。
『シャナララ:Cランク
秘匿されし大地クシャーナに生息するグロリア。高度な知能を持ち言語を用いて人間と会話することが出来る。獣の耳と尻尾以外は人間と見分けがつかない容姿をしている。知能、身体的特徴、宗教などは創造時に後天的に付与されたイレギュラーなものであるため、召喚に応じることが無いように設定している』
これがきっとクシャーナの民のことだ。
抽象的な内容のため良く分からない部分もあるが、俺と同じくイレギュラーな存在だということだ。
そしてもう一つがこちら。
『くさだんご:Xランク
輝力無限増殖を行うことが出来るスライム。深い海のように綺麗な
……。
いかがでしょうか。
くさだんごのスーです。
くさだんごの……。
なんでこうなってるんだ!
俺は格好良く『
それがさ! 事後処理が終わってひと段落ついて、格好いい名前も夜な夜な考えて、ようやく書き込もうと思っていたらすでにこうなっていたんだ。
もちろん書き換えられないか試したさ。
でも、『上位権限による書き込みを修正することは出来ません』って言われたんだ!
誰なんだよこのネーミングセンスは。くさだんごは無いだろくさだんごは。もはやスライムかどうかも分からないじゃないか。
確かに色は似てるかもしれないよ?
それでもさ、グラスダンプリングとかさ、ちょっとカッコよくしてもいいはずじゃないか。
なんで『ひらがな』なんだよ! そりゃこの世界の言葉にひらがなは無いから俺には翻訳されて日本語に見えるだけなんだけどさ。
食べた事ある? くさだんご。ヨモギが入った緑色の団子で大体があんことセットでいただくのだ。
で、なんで、これが、おれの、グロリア名なんだよ!
確かに丸いけど場合によっては串にささってたりするんだぞ。あ、俺も何度かくし刺しになったことあるけど、くさだんごなら複数体刺さってなんぼだろー?
と憤りを感じたので『
どのみち神カンペの情報は俺しか見えなくて街の人たちにもレナにも分からない。
問題ないね?
◆◆◆◆
クシャーナから帰ってきて数日後。俺が神カンペの内容に不満を述べていた以外にも大きな出来事があった。
セバスチャンと言っても過言ではないバリバリの執事の方がレナ宛てに手紙を持ってきたのだ。
差出人はグラウ・ヴァル・ルーナ。この国、ルーナシア王国の第三王子だ。
内容をかいつまむと『グラウ王子の私室に呼ばれている』ということだ。用件などは書いていない。一体何用だろうか。
グラウ王子は現在14歳。病弱なため私室に引きこもっており、ほとんど姿をお見かけすることはない。そう言えば以前、豊穣祭の式典で一度だけ見たことがあるな。
あまり表に出ないため情報は少ないが、悪い噂は聞かない。そのため、いきなり取って食われることは無いだろうが、内容が分からないとちょっと不安だな。
レナと一緒に思案したいのだが、セバスチャンさんが無言の上、不動で立っていて早く返事をしなくてはならないという圧が強いのだ。
そもそもよっぽどのことが無い限りお断りすることは出来ないので思案も何もなく……謁見させていただく旨をお伝えしてお帰りいただいた。
事の次第を主であるウルガーに伝えて許可を得て。
そうして当日。
セバスチャンさんが迎えに来てくれて、その後に続いて王城内にある王子の私室へと向かう。
ちなみにレナは直前まで
セバスチャンさんと共に王城内の普段は立ち入る事が出来ない区画を歩く。途中どでかい絵画が壁にかけられていて、王冠を被った男性とその横に鎮座する馬型のグロリアがどどーんと描かれていた。
その絵はルーナシアの初代王とパートナーのグロリアであるルナシスを描いたものです、との説明がセバスチャンからあった。
ルーナシア建国の祖、初代王ガリアン。争いの中にあったこの地をルナシスと共に平定してルーナシア王国を打ち立てた凄い人だ。確かかなり昔の話だが、今もルナシスは代々の王に引き継がれているので伝承の信ぴょう性は高い。
ちなみに、第一王子ガリアン様はこの初代王ガリアンのように強く聡明に育つ事を願って名付けられたとのことだ。
などという雑談を行いながら、とうとう王子部屋に到着してしまった。
緊張して粘液吹き出してしまわないだろうかだとか、実は王子様はスライムが苦手で即手打ちにされたりしないだろうかとドキドキしているのは俺だけでレナは平然と構えている。
これが小さなころから貴族社会に慣れ親しんできたレナと、35年一般ピープルで生きてきた記憶が染みついている俺との違いだというのか……。
セバスチャンが扉をノックし、王子とのやり取りを経て入室する。
そこは薄暗い空間だった。
部屋の明かりは極限まで絞られており、ボヤっとしか辺りの様子をうかがう事が出来ない。
部屋全体でいくつの調度品があるのかは分からないが、金の糸が細かく編み込まれたレースのテーブルクロスや一本の大木から掘り出されたであろう緻密な構図の背もたれの椅子など、そこら辺りのどれもこれもが豪華な装飾が施されたものだ。
部屋の中のこの暗さは病気の治療的なやつだろうか?
とは言っても、窓も締め切ってこれじゃあ治る物も治らないぞ。
「ようこそレナ。ボクの部屋へ」
ギシッと音を立てて椅子から立ち上がった少年。肩まである流れるような銀色の髪と吸い込まれるような灰色の瞳。日焼けとは無縁なのか肌はとても白く、少しやせ気味の頬ではあるが見るからに美男子。身長はレナより少し高いくらいで、この年頃の平均身長と比べると少し低めだ。
私室だからだろうか、貴族がいつも身に着けているような重そうで歩くと音が鳴るほどの量の装飾品も床を擦って歩くほど長いマントも身に着けておらず、ワイシャツのような前開けボタンの上着と西洋ズボン風のスラックスをはいている。
正直、美男子だから何を着ても絵になるのがジェラシーだ。
「本日はお招きくださり光栄に存じます」
レナがこれまでに培ってきた貴族社会礼儀作法で応対する。
「そんなかしこまった話し方はいらないよ。本当に久しぶり。元気にしてた?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます