023 リゼルとのせいかつアフター1

「すごいやグラグラ! 本当に空を飛べるようになったんだね!」


 目の前で空を見上げた少年。

 そしてその先には大空を華麗に飛行して見せるフォレストオウルグラグラの姿があった。


 皆様覚えているだろうか。フォレストオウルのグラグラは俺がリゼルの元に来た時からの修行仲間だ。

 鳥グロリアであるはずのグラグラはなぜか飛ぶことが出来ず、空を飛ぶ修行のためにこの少年の元からリゼルへと預けられたのだ。


 グラウンドを一緒にダッシュしたり、お互いにバトルしたり、空を飛ぶ感覚を掴むんだとリゼルに言われて二人してヴァリアントホークヒーランに括り付けられて風を感じたり(なんで俺まで括り付けられたのかは今でも謎なんだけど)、あの危険なサウザンドテンタクルス戦の時も一緒にいてお互い無事に生還した。

 同じ釜の飯を食った仲で、もはや戦友と呼んでも過言ではない。


 そのグラグラが先日飛べるようになったのだ。


 その日も俺たちはグレーターハウンドルプシュの牙から逃げるように命がけでグラウンドをダッシュしていたのだが、俺より若干遅れていたグラグラが今にも噛みつかれてしまう、という時、突然グラグラの体が光に包まれて、ルプシュの噛みつきをかわして、なんとその光の玉は空へと昇っていったのだ。

 光が収まった時、いつも見慣れたグラグラの姿ではなく、大きな翼をもったターニングヘッドに進化していた。


 ちなみにターニングヘッドとはこんなグロリアだ。


『ターニングヘッド:Eランク

 華麗に大空を舞うその姿は古代より信仰の対象ともなっている。より広く視界を確保するために首は360度以上回転し、3回転まで可能。時たま首を何回転させたか忘れてしまい、それ以上回らずに苦しんでいる姿を見かける』


 俺たちの修行監督役のルプシュがすぐさまリゼルを呼んできて……空を見上げたリゼルが「よくやったなグラグラ」と小さくつぶやいていた。

 その表情は満足感を湛えた優しく微笑んでいるもので、母性を含んだ美しいものだった。


 とうとうグラグラは目的を達成したのだが、つまりそれは俺たちとの別れを意味していた。

 グラグラは元の契約者マスターの所に戻るのだ。


 グラグラおめでとう&さようなら会が開かれて、グラグラには好物の果実がたくさん振舞われた。

 俺たちにも食べ物が振舞われ、チャンティングバードの讃美歌のような鳴き声が会をにぎわして、そうやって皆が笑顔で会を終えた。


 後日依頼主の元を訪れ、グラグラの契約者変更が行われて、そして冒頭へと戻る。


 見事に空を飛んで見せたグラグラをぎゅっと抱きしめる少年。

 俺はその姿に自分とレナの姿を重ねてしまった。


 レナが今どうしているのかは俺には教えてもらえない。

 俺の進化に影響がでる可能性があるというのが理由なそうだ。


 レナ……元気にしているだろうか。無茶していなければいいんだが。俺も頑張ってジャックスライムに進化して、そしてレナのところに戻るからな……。


 これがグラグラとのエピソードだ。


 ◆◆◆


「ルプシュ、よくやったな。元気な5つ子だぞ!」


 リゼルは満面の笑みを浮かべてそう言った。


 俺のランニングコーチ(俺がダッシュするように牙を剥きながら追いかけてくる役。もちろん追いつかれたら噛まれる)であるルプシュが子供を産んだ。

 いつの間に、という思いと、メスだったのか……という思いとで複雑な気持ちだ。


 横たわったルプシュの腹で、もぞもぞと乳を求めて動く子供たち。

 ちいさくてかわええ。

 なんていうか庇護欲をかきたてられるというかこう、この子供たちを守るためならなんだってやれるっていう気持ちになる。

 出会った頃のレナもそんな感じだったな。レナは赤ん坊ではなかったけどね。


 グレーターハウンドの子供はグレーターハウンドの幼体ではなく、リトルハウンドとして生まれる。成長するにつれて進化し、リトルハウンド→ハイハウンド→グレーターハウンドとなるのだ。


 リゼルが円柱形のクラテルを持ってきた。この形はイングヴァイトで製造されているクラテルだ。

 クラテルは先進テクノロジーの塊のため国家が生産を管理しており、民間企業が参入しての市場競争は行われていない。

 そのため国ごとに画一的な形になるのだ。

 そんなクラテルの形だが、リゼルはルーナシア王国製の正方形のクラテルよりイングヴァイト製の円柱形のクラテルを好んで使っている。


 話を戻すけど、契約済みのグロリアから生まれたグロリアにも契約が必要となる。

 リゼルがクラテルを五つ持ってきたのも子供たちと契約を結ぶためだ。


 グロリアの中には出産の際に子供を含めたファミリーグロリアとして進化するものもあり、その場合は元々のクラテル一つで済む。

 例えば、カルガモに似ているレッドフットダックは子供を産むとダックファミリーに進化して、一つのクラテルの中に母親と数匹の子供たちが一緒に入っているのだ。

 お父さんは……聞かないであげてね。


 リゼルが一体一体に名前を付けて契約を行っていく。

 生まれたばかりの子供たちでもその意味は分かっているのだろう。

 きゃうぅ、と鳴いて大人しく契約を受け入れていた。


 ルーリ

 ルーブ

 ルタンタ

 ルック

 ルナン


 と名付けられた五つ子は、メス3体オス2体の女の子多めの構成。

 契約が終わりクラテルから出されて、再びルプシュママのおっぱいを求めておなかの辺りでもぞもぞし始めた。

 

 このように子供にも契約を結ぶ必要があるため、契約者マスターのグロリア許容量を超えてしまう事が多々ある。

 そんな事もあって、契約グロリア同士の交配はあまり行われてはいない。


 リゼルはそんなグロリア達を不憫ふびんに思っているらしく、可能な限り交配を行っているとの事。

 もちろんグロリアの意向もあるのだが、どうやらルプシュはリゼルの研究者仲間のグレーターハウンドを気に入ったようで、度々逢瀬おうせしていたらしい。

 まったく気づかなかった……。


 そんなわけで子供が生まれたルプシュだが、子育てに忙しくなって俺の修行監督をする暇もなくなって、修行が幾分か楽になるだろうな、と思っていたがそうではなかった。


 リトルハウンド達5匹は生まれて間もないのにすぐに走り回る様になり、翌日からはルプシュにその5匹も加わって俺を追い回すようになったのだ。


 子供たちは俺の修行を遊びと勘違いしており、その小さな体から生み出されるスピードをもってすぐに俺に追いつくと、小さいながらも尖った牙で俺に噛みついてくる。

 幸いにも噛む力はそれほどでもなくチクチクする程度だが、俺の体に引っ付いているのを払い落とすわけにもいかず、俺は5匹の温かさと重みを感じながら、さらに過酷になったダッシュを行うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る