024 リゼルとのせいかつアフター2
「やったぞスー! とうとうフルフレッジドアーマーの謎を解き明かしたぞ!」
リゼルは頬を高揚させながら興奮を抑えきれない様子でそう言った。
フルフレッジドアーマーとはDランクのグロリアで、Eランクのアーリィアーマーの進化した姿だ。
見た目は全身を覆う鎧、フルプレートメイルにそっくり。金属のような光沢もあって生物とは思えない姿なのだ。
実はこの全身鎧ガッチガチの姿はオスの姿で、メスはオスに比べて体を覆ういくつかの部分が無く、スピード重視になっている。
体を覆う面積は少なくなっているが、その分オスよりも固さも増しているので全体的な防御力はオスと変わらない。
これら鎧族グロリアは、グロリアとしては珍しく
つまり、
最初は胸当て部分だけだが、やがて肩パッドや小手、兜が作られる。もちろん大きくなる
一般的に5歳の初召喚時にアーリィアーマーを召喚できた場合、王宮の親衛隊へのエリートコースが約束されている。
王宮の親衛隊は子供たち、いや若者たちの間では憧れの職業だ。
かたや
俺とリゼルはフルフレッジドアーマーの生態を調査し、成長したフルフレッジドアーマーを他の
俺とリゼルは、と言ったがもちろんリゼルが調査しているのを俺は見ていただけだ。
そしてとうとうリゼルはそれを解き明かしたのだ。
これで不幸によって消えてしまう鎧属グロリアの数を減らすことができるし、鎧属グロリアを持っていないからといって親衛隊に入隊することを諦めていた人達への希望にもなり、熟練親衛隊が引退する際にも残った親衛隊員への契約変更が可能となって、親衛隊はますます発展することになるだろう。
かねてからの研究者たちの研究テーマであったこの謎を解き明かしたリゼルは、学会でその論文を発表することになった。
王都にある学会の講堂で大勢の前で論文を披露するリゼル。
そのよく通る声による理路整然とした説明は多くの聴衆の耳を引き付け、その内容と相まって講堂内は熱気に包まれていた。
「素人質問で恐縮ですが……」
リゼルが発表を終えて質問を募集している時に手を上げ、そう前置きしたベテランの風格漂う研究員。
この前置きは、お前を今からボコボコに論破してやるから覚悟しろよ、というお約束の定型文だ。
この世界にもあったのは驚きだったが、リゼルはそんな研究者を完膚なきまで叩きのめし、返り討ちにしていた。
やっぱりリゼルはかっこいい。
美人で頭も切れて言うこと無しなのに、なぜこの世界の男たちは結婚してあげないのか。見る目が無いと言わざるを得ないな。
そうこうして学会は大盛り上がりの中幕を下ろしたのだった。
なお、次の研究テーマは『鎧族グロリアを人間ではなくグロリアに装着することはできないのか』らしく、その手始めとして軟体である俺は人型に成長したフルフレッジドアーマーに押し込まれるご無体を受けた。
◆◆◆
「うわぁぁぁん、スー、またダメだったよぉぉぉ」
酒瓶を片手にべろんべろんに酔っぱらったリゼル。
どうやらまた男を逃がしてしまったらしい。
そんな時は決まって反省会という名のヤケ酒が始まるのだ。
もれなく俺が招集され、延々と愚痴を聞かされることになる。
「私の何がいけないんだよぅぅぅ。年齢か? 年齢なのか? それだけはどうしよもなーい!」
なんだろうな。俺には皆目見当もつかない。
「こんなにいい女を放っておくなんて、男たちは甲斐性なしばかりだよぅぅぅ」
そうだな。本当にそう思う。
ちなみに俺は今は男ではなくオスなのでそこにはカウントしないで欲しい。
スライムは一般的(地球感覚)にいうと分裂によって増えるのでオスメスが無いものだけど、この世界のスライムにはオスメスがある。
とはいっても、分裂で増えることには変わりないし、なぜオスメスがあるのかも研究者たちの研究テーマである。
人間の目では見分けもつかないしね。
ひよこのオスメスの見分け以上に難易度が高いんだよ。
おっと、リゼルが俺の体に手をまわして――
「私だってさ、こうぎゅーっと抱きしめられてみたいのにさ」
俺のスライムボディを締め上げるリゼル。
力の加減はしておいてくれよ。痛みは感じないとはいえ、真っ二つになったら大変だ。
リゼルは結構力が強い。以前にもリゼルの部屋を訪れたグロリアが寝ぼけたリゼルに抱きしめられてボロボロになる事件が起きている。
もしかして寝相が悪いのが結婚できない原因じゃないだろうか。
いや、お泊り会なんかしないから、それを知っている人なんかいないはずだな。
うーん。ちょいとキツめに見えるけど間違いなく美人だし、頭もよくってバンバン論文を発表して、本も書いてベストセラーになるほどの売れっ子作家でお金持ちだし。フィールドワークで鍛えているから運動神経もよくって、軽やかな身のこなしには憧れるし。
もしかして……オシャレ感覚のずれが原因か?
どこでも革鎧を着ていくような子だし。
いやまてよ、もしかして職業かもしれない。
男性からすると、リゼルと結婚するってことは都会の便利な生活を捨てて田舎で農業をやってくださいと言われているのと同じで、軟弱な都会人には耐えられないのかもしれないな。
んんん? 別に都会の男ばかりを狙っているわけでもないし、この考察も的外れかな。
うーん、どうしてリゼルが結婚できないのか、これも研究テーマの一つかもしれないな。
「うぅぅ、慰めておくれよスー」
ひとしきり俺をベアハッグした後リゼルはさらに酒を進めていて、スンスンと泣きながらテーブルに伏せていた。
俺はむにむにのスライムボディを伸ばしてリゼルの両頬をなでなでしてあげる。ひとしきり撫でたあとは頭をよしよししてあげ、満足するころにはリゼルは眠りについているというのがいつものコースだ。
今回も例に
リゼルももう慣れたもので、敷布団を敷いてからヤケ酒に入っており、今はそのうえで眠っている。
俺はずるずると掛布団を引っ張ってきてリゼルの上にかけてやり、部屋を後にした。
俺がリゼルの元にやってきてから2年。
こんな風ににぎやかに過ごしていたのだ。
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