156 レナ、従者《チルカ》やめます その1
さらわれたケロラインを助けるにしても何にしても、まずはこの麻痺を解除しなくてはならない。
真っ先に大本命のレナを
次はウルガーだが……おい、ウルガー大丈夫か?
先ほどから片膝立ちの体勢のまま動いていない。
自力で解除するよりも俺がやった方が速いだろ、ほらいくぞ?
俺はむにょりと体を伸ばしてウルガーを取り込もうとするが――
「俺は大丈夫だ。すでに麻痺は解けている……」
その言葉のとおり、麻痺など無かったかのごとくウルガーはその場にストンと腰を下ろした。
胡坐をかいたまま
こちらからでは彼の背中しか見えず、その表情をうかがうことが出来ない。
「ウルガー様、座ってないで早くケロラインを助けにいかないと!」
「…………」
どうしたんだウルガー、急ごうぜ?
「ウルガー様!」
「……いや、俺は行かない…………」
「何を言ってるんですか! ケロラインがさらわれたんですよ!」
お、おい、行かないってなんだよ?
なあ?
「……」
ウルガーは無言のままこちらに何かを放り投げた。
それは銀色をした手のひら大の正方形の金属体。クラテルだった。
「……そいつを見て見ろ」
レナがクラテルを拾って手に取る。
「契約が……」
「そうだ。契約が破棄されたんだ……」
なんだって!?
レナ、俺にも見せてくれ。
レナは
確かにこれは……契約が維持されている状態とは言えない。
抜け殻というか未使用というか、輝力のかけらも無くなっている。
グロリア契約を解除・破棄するにはいくつかのパターンがある。
一つは
それに続いて多いのが、
そしてめったにない事だが、グロリア側から契約を解除できる場合がある。
とてもひどい仕打ちを受けたとか、何らかの理由で
それに、
「破棄されても仕方なかった……」
どういうことだ?
ウルガーは5歳の初回グロリア召喚時からずっとケロライン一筋でやってきている。レナと同じように他のグロリアと契約せず俺一体だけと契約する形だ。
だけど俺達と決定的に違うのは、ケロラインはずっとグリーンフロッグのままであるということだ。
これはウルガーとケロラインの絆によるものだ。と、雑誌のウルガー特集によるとそう言う事なんだが……。
「俺はケロラインに
「ウルガー様……」
雇い主の聞きなれない弱々しい声にレナは困惑しているのだろう。
その返事も同じく小さく弱々しいものだった。
そしてしばらくの沈黙があった後、ウルガーが静かに話し始める。
「俺の幼い頃の夢のため、ケロラインは進化しないことを受け入れてくれた。
弱いグロリアだと友達に馬鹿にされたから絶対にグリーンフロッグのままで天下を取ってやろうっていう、向こう見ずな夢さ。
もちろんそれは平坦な道じゃなかったさ。だけど俺達はやり遂げた。
俺とケロラインはそろって腕を上げ、俺は自由騎士に、ケロラインは自由騎士のグロリアとなって、幼いころの夢をかなえたってわけだ」
うん。まあ大体雑誌の特集のとおりだな。
「だけど自由騎士になって少しした頃。そのころから薄々と感じてはいたんだ。
俺とケロラインの考える天下がずれているんじゃないかって。ケロラインの考える天下はここではないんじゃないかって。
だけど俺は気づかないふりをしていたんだ。
自由騎士になった今、これ以上どこに向かえばいいのか分からなかったからだ。
それに輪をかけたのが自由騎士での生活だった。順風満帆な生活というか、これまで手にした事の無い大金の給料も貰えて、騎士団を指揮する権力もあって、何も言わなくても女たちが寄ってくる生活……自由騎士になった俺はいつのまにか覇気を失っていたんだ」
ウルガーは後ろに両手をついて空を見上げる。
「そんな俺の心の内にケロラインも気づいていたと思う。気づいていた上で何も言わず俺にずっと付き合ってくれていた。自由騎士という、最強が服を着て歩いているような、そんなものを演じる俺に」
ふうっ、と自嘲気味に一息つくウルガー。
がさつで大雑把で適当なウルガーにもそんな悩みがあったんだな。
いや、適当だったのは悩んでいた故の事だったのかもな。
「だけどあの時、俺はそれを見透かされたんだ……」
「あの時?」
そうだよ、どの時だよ。
「リゼルさんさ。
彼女はしっかりとした信念を持った女性だった。一目見たときからそれは分かっていた。多くの貴族女性に囲まれてきた俺でも、彼女を見たときは子供のように心が震えたさ。
お前も知ってのとおり夢破れてしまったがな。
あの時……彼女は俺の心の内を見透かしていたんだ」
全然自分の好みじゃないって言われてた時の事か?
「確か、リゼルさんに
「そうだ。心当たりがあるんだろ、って言われた。俺の心がもやついているのが分かっていたんだ」
「それでケロラインに愛想をつかされたと?」
「いや、それだけなら今までと変わらず俺の覇気が足りないだけだ。ケロラインが俺を見限ることは無い、はずだ……」
「じゃあ別に原因が。心当たりはあるのですか?」
「……」
ウルガーは口をつぐんでしまった。
「ウルガー様!」
「……これ以上は言えん」
「何を言ってるんですか。理由も言えないのに、ケロラインも助けに行かない。そんな事で納得は出来ません!」
「……」
「
先ほど声を荒らげたのとは違い、ゆっくりとそして静かな声。
「
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