050 アルダント美少女四天王だ!
「お父様、お母様、行ってきまーす!」
元気よく挨拶をして玄関を出ようとするレナ。
こらこらレナ、制服の
ぴょいこらぴょいこらと飛び跳ねてその
俺の頑張りを感じ取ったのか、話の主役であるバーナが、お嬢様お待ちくださいと
てへへとかわいく笑いながら再びレナは玄関を出る。
俺とバーナも続いてお屋敷から出る。
庭には花壇があり、ライザママが育てている色とりどりの綺麗な花が咲き乱れている。それを横目に庭を進み、俺とレナは入口の門でおとなしく待機する。
バーナの準備を待っているのだ。
お嬢様をお待たせするわけにはいかないと、バーナは自らのクラテルを取り出す。そして屋敷の前の幅広の道に彼女のグロリアを呼び出した。
大きな翼を持った白い鳥グロリア。鳥にしては体が丸っこくて大きい。丸々と太ったニワトリというか七面鳥というかそんな様相で、バーナの身長よりも大きいのだ。
このグロリアはDランクのマースピーガル。空を飛んで人を運ぶことのできるグロリアの一種なのだが、その方法は少し変わっている。
「今日もよろしくね、ガルル」
レナがしろふわもこもこの
今はしゃがんでいるため2mほどの高さだが、全高は3mほどになる。そのためレナの背の高さでは顔まで届かないので、腹のあたりをなでなでしているのだ。
「それじゃあ入るね」
入る? と思った皆様の疑問も当然だろう。普通の鳥に対して『入る』などという言葉は使わない。
だが、このマースピーガルは腹にカンガルーのような袋があるのだ。つまり、飛行時には背に乗るわけではなく、腹の袋に入って空を飛ぶことになる。
腹の袋に入りやすいように体をさらに下げるガルル。袋が地面と接してその入口がトンネルのようにぽっかりと開く。
レナは靴を脱ぐと土管の中に入るかのようにしゃがんで袋の中に入っていく。
ここが一番危険なポイントだ。
しゃがんで両手両ひざを着いて入るため、パンツが見えてしまうのだ。
そのため俺は自分のスライムボディをシートの様に広げて、レナのその様子をシャットアウトして外から見えないようにするのに余念がない。
レナからいいよーの合図があれば俺も袋の中に入り、最後に
ガルルがぐいっと立ち上がり、飛行の準備に入る。袋からはレナとバーナが顔を出している。残念ながら俺は高さが足りないので外の景色を見ることは出来ない。薄暗い袋の底でレナとバーナの足が見えるだけだな。
ただ、初回はレナが俺も外を見れるようにと抱えてくれたので、その時見た光景で補正しながら今からの説明をするぞ。
ガルルは翼を大きく羽ばたかせ始める。辺りに羽ばたきによるつむじ風が発生するが、一向に空に浮かび上がる気配はない。
なぜならば――
マースピーガルが飛行するには
袋の中が振動する。ガルルが走り始めたのだ。
ブライス家の前の道は長い直線になっている。街の郊外ともあってこの時間の人通りもなく、滑走にはもってこい。
ふいに体にかかる重力の感じが変わった。
飛行に成功したのだろう。
「今日もいい風してるね、バーナ」
「はい。絶好の飛行日和です」
穏やかに会話しているように聞こえるが、かなりの大声でしゃべっている。風がぶつかってくる勢いが強くて耳に入ってくる風の音がすごいからだ。
このまま1時間飛んで学校に着くのかと言えばそうではない。マースピーガルでの空の旅は大変なのだ。
実はこのマースピーガル、飛行しているというより滑空しているという表現のほうが正しい。ハンググライダーを思い浮かべていただけるだろうか。自力飛行しているのではなく、風に乗っているのだ。
しばらくすると高度が徐々に下がっていく。最高時は山をも越えるかと思う高度だったが、今は眼下の畑や家屋がよく見えるところまで来ている。
着陸するのか、という地面すれすれのところまで来た時、ガルルは地面を両足で強く一蹴りして、その反動で再び高く高く舞い上がる。
そうやって再び高度を得たガルルは次の着地ポイントまで再び空の旅を行うのである。
この説明ではすごく華麗な飛行を行っているように聞こえるかもしれないが、実は激しく揺れる!
跳躍の時が一番揺れるのは言わずもがな、飛行中もずっと翼をばっさばっさしているので凄まじく揺れる!
乗り物に弱い人なんかリバース間違いなしの劣悪な環境!
だけど
俺はというと三半規管は無いけどいくらか影響は受ける。クラテルの中に入っているほうが楽なのだが、いざという時にレナを守るため袋の中で待機している。
そして何度かの着地と上昇を繰り返して、学校へと到着するのである。
これが新たなメイド、バーナが雇われた理由だ。
バーナはこの後アルダントで食材などを買い入れ、ブライス家のお屋敷に戻る。そして学校が終わるころまた迎えにくるのだ。
ちなみにレナがナバラ師匠の
さてさて、そろそろアルダントに到着する頃だろう。
王立学校は街中にあるため、巨大なマースピーガルで直接乗り付けるわけにはいかない。離れた場所でバーナとお別れし、そこから歩いて学校に向かうのだ。
ぷっはー、シャバの空気はうまいぜ。
なんせ揺れないのがいいよな。
そんな事を考えながらレナが歩く横をぽよぽよと跳ねる俺。
いくつかの路地を超えると、辺りに学生服を着た子供たちの姿が多くなってくる。通学路だ。
「レナおはよー!」
「レナちゃんおはようございます」
のっしのっしと歩くダチョウに似た鳥グロリアの上には2人の女の子。小さいころからのお友達、ミイちゃんナノちゃんだ。
ダチョウグロリア、デュークモアは主達が背中から降りやすいようにと
元気いっぱいの赤毛娘ミイちゃん。いえーい、と朝からレナとハイタッチする姿に、若いってうらやましいって思う。
おとなしめの黒髪娘ナノちゃんは、えいっと小さくハイタッチに参加して、おしとやかさの中にも元気さが内包されていて良い。
「おい、あれ、アルダント美少女四天王だ」
「今日もお美しい……」
「俺はブライスさん派だな。お前は?」
「ブライスさん美人だよな。でもバルツさんも、エディンさんも捨てがたい……、うおー俺には選択することなんてできん。神よお許しください!」
こちらの様子を遠目で見つめている制服を着た男子諸君ら。
バルツさんってのがミイちゃんで、エディンさんってのがナノちゃんの事だ。
ミイちゃんの名前はミーリス・バルツ、ナノちゃんの名前はクラナノ・エディン。学校に通う男子の中でこの名前を知らない男子たちはいないらしい。
3人が美人であることは疑いのない事実だからまあ許すが、本人たちに聞こえないようにやるんだぞ。
ミイちゃんナノちゃんの二人は学校の寮住まいだ。王立学校は基本は寮生活なので、辺りに見える学生たちはみな学校から歩いて10分ほどの寮から登校している。
歩いて10分と言ってもちょっとした距離があるので、いつものとおりレナと俺もデュークモアに乗せてもらい、その道のりを楽しむ。
数日前の初対面の時から俺はデュークモアには毛嫌いされていたが、レナが俺をだっこして乗ることを条件に許されている。
ちなみにこのデュークモア、俺とは顔見知りなのだが?
思い出してくれ。小さいころナノちゃんの後ろをついてあるいていたとりさん、リトルフェザーを。その成長した姿だ。
実はこのデュークモアの
昔、とある出来事でナノちゃんとミイちゃんはお互いのグロリアを交換しているのだ。
おっと、校門が見えてきた。この話はまたどこかの機会に。
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