127 リコッタの想い その1
女騎士さんが持ってきてくれたタオルでリコッタの汗を拭いて、ぐっしょりと濡れたリコッタの服は脱がせて代わりにぶかぶかの大人用シャツを着せる。
子供用の服なんて騎士団詰め所に都合よくは置いていないから騎士団支給品のシャツだ。大き目サイズなのでそれだけでワンピースのミニスカートに見えなくもない。
袖は長すぎるので折って完成。
うわぁ、本当にこの子グロリアなのね、と着替えの途中でリコッタ生尻尾を見て納得する女騎士さん。
リコッタが目覚めるまでもう少しばかりかかるだろう。
一度家に帰りたいのだが寝たまま無理に動かすのも良くないので、俺達は先にウルガーの手紙を届けることにした。
向かうのは王都守護騎士団の本部。王都内にいくつもある騎士団詰め所の大元だ。
場所はこの王都の街中。手紙の宛先はそこに所属するとある騎士になっている。
ちなみに全ての騎士団を取りまとめる騎士団総本部は王城内にある。
大通りを通って王都守護騎士団本部へ。
相変わらず俺はレナに抱っこされたままです。たまには俺も歩かないと鈍ってしまうかもしれない。俺には筋肉は無いんですけどね。
そんなこんなで、周囲の建物に比べて大きく重厚な建造物がお出迎えしてくれた。
「えっ!? ウルガー様からの手紙っすか!?」
本部に併設された広場で雑務に追われる一人の男性騎士。ウルガーから手紙であることを伝えると、彼はため息をつきながらそれを受け取った。
剣山の様にツンツンに尖った金髪頭の彼の名はマックス。王都守護騎士団の飛行部隊に所属する18歳の騎士。何の因果かウルガーに目をつけられてタクシー替わりに使われているのだという。
「これ、本当っすか!? こうしちゃいられない!」
手紙に目を通すや否やマックスは手紙を握りしめて慌てて本部建物に駆け込んだ。
やれやれせわしないやつだなと、俺達も後を追う。
「カルル団長、これは一大事っすよ!」
「……うるさい……」
団長室と書かれた部屋の中には若い女騎士が一人。鎧は着ておらず騎士団服に身を包んでいる。
男性としては平均的な身長のマックスと比べるとやや小さめで体も細めだ。短くまとめた茶褐色の髪には小さな髪飾りが一つだけつけられている。
式典で見たことがある。この人は王都守護騎士団長カルル・マルさんだ。
弱冠22歳という若さにして守護騎士団長を務める優秀な騎士。物静かで淡々と仕事をこなすタイプの人ということで、一大事だと騒ぎ立てるマックスに辟易した表情を浮かべている。
「マックス。お前は明日の朝一で出立」
「明日っすか!? 今から急いで向かわないとウルガー様がピンチっすよ!」
「……うるさい……。もう夕方だ。今からとなると夜間飛行となり危険が増す。お前だけなら尊い犠牲で済むが民間人を乗せるとなるとそうはいかない。それに各地に散っている飛行部隊に召集をかけている。明日の朝一には第1陣が飛べる」
静かに諭すような口調で、それでいて反論を許さないような圧も感じる。
「わかったっす……」
さしものマックスも大人しく折れる。
「心配するな。ウルガー様は100や200の騎士とやりあったとしても負ける事は無い。
しかしな……お前がそんなにウルガー様を助けに行きたいとは意外だった。いつも嫌そうにしているのにな」
「よく見てるっすね団長。そりゃパシリのように使われるのは大変ですけど、自由騎士ウルガーは俺の憧れっすからね。ピンチとなると何をおいてでも加勢する所存っす!
それよりも団長、今日はよくしゃべるっすね。珍しいっす。ははん、さては団長もウルガー様のことが心配なんっすね」
「……うるさい……」
などと言うやり取りを経て出発は明日の朝一に決まった。
そうと決まったらやることがある。リコッタの説得だ。
今朝の様子を見るとクシャーナに帰るのは相当嫌なんだろう。
レナと説得について考えながらリコッタの待つ騎士団詰め所に戻るのだった。
◆◆◆
「おいしー!」
ずるずる、はふはふとラーメンのようなものを食べているリコッタの姿。
彼女を囲むように所狭しと料理が並べられていた。
詰め所に戻った俺達だったが、リコッタが寝ていた部屋に戻ったもののもぬけの殻。
一体どこに行ったのかと辺りをうろついているとリコッタの声が聞こえてきて……その場所に向かったところこの光景だった。
「レナ! お帰り!」
もぎゅもぎゅと豚まんのようなものを頬張るリコッタ。
どうやら元気になったようだ。それだけ食欲が出ればもう安心だな。
「レナさんお帰りなさい。見てこの食べっぷりを。ほれぼれするわよ」
次々と料理を運び込んでくる女騎士さん。
あー、これは小鹿亭の野菜スープに、パンタロンのクリームたっぷりパン。ひらキングのテイクアウト白身ムニエルもあるじゃないか。
空になった皿も多い。帰ってくるまでに一体どれだけ平らげていたというのか……。
「すみません。すみません。代金は全部ウルガー様にツケておいてください」
パシリの様にリコッタに使われている騎士さんに申し訳ないという思いと金銭的な部分の負い目とでペコペコと頭を下げるレナ。
いや本当にうちのリコッタが申し訳ない。
俺も平身低頭してプニプニと頭を下げる。
そんな中、ぐー、とレナの腹の虫が鳴った。
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