041 リゼルとの魔境探検 始まりにして終わり2

 奴が消滅したことによって、俺の体内には俺のスライム細胞に満たされたカミャムだけが残っている。

 そのカミャムはかなり衰弱しているようで、心音は弱く、今にも消えてしまいそうだ。


 すぐさま回復薬を投与する。

 俺の体内にいるカミャムの姿は、マンガなどでよくある液体に満たされた蘇生装置に入っているかのようだ。

 回復薬を投与したものの、飲み込む力が無いくらい弱っているため、無理矢理鼻から喉から流し込んで、肌からも吸収できるように全身に塗りこんでいく。


 俺のスライム細胞には呼吸が必要ないように酸素を満たしてある。いつものやつだ。

 ヤツの体内に居た時も同じ環境だったのだろうと思うと、少し悔しくもある。


 ピクリ、とカミャムの指が動いた。


 その動きに反応したのか、燃え尽きるのを待つだけだったヒューマンイーターの巨人部分が肘を使い這いずるように、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 体は炎に包まれながら、ぼたぼたとその燃え尽きたスライム細胞を地面に垂らしながらゆっくりと。


「スー、気を付けて! その子、まだ戦う気だよ!」


 ああ分かってるレナ。

 ヤツだって契約グロリアだ。契約者マスターを奪われてそのままでいるようなヤワなやつじゃない。

 俺はヤツの最後の挑戦を受けることを決める。


 とは言え激しい動きは出来ない。

 俺の体内にはカミャムがいて、その治療に全力を注いでいる所だ。

 

 ヤツが俺に近づくまでにはあと数メートル。

 激しい動きが出来ないとはいえ、俺からは近づくまでもない。

 フレイムブリンガーで決めてやる!


「だ、め……」


 カミャム⁉

 俺の体内からかすかな声が聞こえた。


 カミャムが意識を取り戻したのだ。

 

「あの子を、きずつけ……ないで……」


 うわごとのように呟きながら、俺の体内でヒューマンイーターの方に弱々しく手を伸ばすカミャム。


 こんな状態になる前に、ヒューマンイーターの体内に取り込まれる前に、ヤツとの契約を破棄すれば助かったはずだ。

 この魔境の中でヤツがいなくなればどのみちやられてしまうから、だから契約を破棄しなかったという推察もあり得るが、そうじゃない。

 カミャム自身がこのスライムの生存を望んでいるのだ。

 自分の体を犠牲にしてまでも。


 その強い想いは伝わってくるよ。

 だけどな、人を襲う事を覚えたグロリアを放置するわけにはいかない。

 許してくれ。おれは同じグロリアとしてヤツを裁く。


 くらえ、フレイムブリンガーッ!


「だめぇぇぇぇぇ!」


 灼熱の弾丸がヤツに届き、抵抗レジストするまもなく燃え尽きる。

 その予定だった。


 だが、そうなる前にやつの体は光を放ち、縮んでいったのだ……。


 光が収まると、そこにはゴルフボール大の小さな白いスライムの姿があった。


 進化だ。いや、この場合は退化と言ってもいい。

 始まりにして終わりのスライム。プリミティブスライムに。


『プリミティブスライム:Fランク

 最初にこの世界に生み出された生物を模して造られたスライム。その力は弱く通常のスライムにも及ばず、スライム族だけではなくすべてのグロリアの中でも最弱レベルである。なお、このグロリアは進化することは無い。そのため原始にて終末のスライムである』


 これならば人に危害を加えることは無いだろう。

 そこまで計算していたのかは今となっては分からない。

 知性も一緒に退化してしまっただろうから。


 ゆっくりと、ぷるぷると、その小さな体を震わせながらこちらへ向かってくるプリミティブスライム。


 カミャムの懐から正方形のクラテルが零れ落ちる。


 俺の体内のそれを見つめるかのように、俺の目の前でじっと動きを止めている小さなスライム。


 悪いな、カミャムを今出してやることは出来ない。

 だから……。


 俺は小さなスライムの上にのしかかった。


 それにより俺の体内に入ったスライム。

 カミャムはうっすらと目を開くと、手を伸ばし、白く小さなスライムを抱きかかえると……それに応えるようにプリミティブスライムはクラテルに吸い込まれていった。


 それを見届けて安心したのか、カミャムは再び気を失ってしまった。

 

 ……しばらく俺の体内で安静にしててくれよな。

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