040 リゼルとの魔境探検 始まりにして終わり1
俺たちの行動を察知したのか、ヒューマンイーターがその黄土色のボディをフルフルと震わせ始める。
飛び道具には気を付けなければならない。
俺の後ろには守るべき人達がいる。
神経を集中し気を張り詰めてヤツの出方を窺う。
竜巻を打ち破るときに使ったいくつもの刃物付き触手がヤツの体内へと引き込まれていく。
いったい何をしようというのか。そう思った瞬間、ビクンと一際大きくヤツの体が揺れ、やつの体の中央から外側に向かって津波のように波紋が広がっていく。
それを皮切りにヤツの体が膨張し始める。
横に縦にと膨張し、周囲の枝、木の葉、大木がその体内に吸い込まれて行く。
巨大化して俺たちごと周囲を吸収するつもりか⁉
これ以上増殖するんじゃない! カミャムが死んでしまう!
くそっ、ヤツの腹の中のカミャムが発光しているじゃないか。
もう一刻の猶予も無い。
レナ急いでやるぞ!
「落ち着いてスー! 冷静にならないと勝てるものも勝てないよ!」
っ!!
そ、そうだ。失敗は許されない。雑念が混じったままだとそれこそカミャムを助ける事なんかできないというものだ。
すまないレナ。ありがとう。
もう大丈夫だ!
うんうんと頷くレナ。
俺は心のどこかで一人で戦わなくてはならないと思っていたのだろう。俺は一人じゃない。後ろには頼もしく成長した俺の
そんなやり取りをしている間もヒューマンイーターは姿を変えていた。巨大化して俺たちを取り込むのかと思ったが、どうやら違うようだ。
確かに巨大化はしていたが、ヤツの体は縦へと伸び、両手両足を持つ巨大な巨人の姿に変わっていたのだ。
天を衝くほどの全長。あのフォートレスタートルのデカさを上回っている。これがヤツの
予想される攻撃方法は!
来るっ!
ぐっと腕を引いた巨人が力を溜めると体をかがめ、その溜めた力を一気に開放するように高高度からの強烈なパンチを放ってきた。
俺はパンチを回避するために後方に跳ぶと、体を変形させ平たい餅のように大きく体を広げる。
地面をえぐるほどの拳の一撃でできたクレーターの破片が飛散し、俺へと襲ってくる。
俺は想定通りに後方へ向かって弾けた破片をすべて処理し、球形に戻って地面に着地する。
一撃目は不発に終わったが、この攻撃なら俺を倒すことが出来ると自信を深めたのか、体を起こし二撃目の体勢に入るヒューマンイーター。
ええい、確かにこれだけの攻撃が直撃すると防げないし、破片がレナに向かって飛ぶのも問題だ。
それに何度もヤツの攻撃を許すわけにはいかない。
攻撃は1ターンに1回っていうのが決まりだろ!
レナ、次は俺たちの攻撃だ!
「うん。レナ達の力を見せよう! まずは変身だよ!」
反撃の火ぶたが切って落とされる。
俺はレナの思い描いた姿どおりに自分のスライムボディの形状を変えていく。
さっき破片を防いだ時に形状を変えた様に、サンロードスライムになってもその特性は変わっていない。むしろこれまでよりもうまく形を変えることが出来るほどだ。
「いいよスー、レナの思ったとおりの形だよ!」
俺がとった形。それはコップだ。
取っ手がないコップ。俺の透けた体からすると理科の実験で使うビーカーのような形状を想像してもらいたい。
3メートルほどの高さの大きなコップ形状。円形の飲み口ももちろん大きく、レナの体なんかすっぽりと収まってしまうだろう。
「じゃあ行くよっ!」
俺はそのコップ形状に角度をつけ斜めになる。
底はレナの方に、そして口はヒューマンイーターの方にだ。
見ようによっては大砲のように見えなくもない。
ヒューマンイーターが2撃目の体勢に入っている。
いつでもいけるぞレナ!
こくりと頷くレナ。
「スー、体当たり!」
レナの指示と同時に俺はその状態のままヒューマンイーターに向かって跳躍する。
目指すはそのどてっぱら!
囚われているカミャムだ!
跳躍し宙を飛翔する俺と2撃目を放つ巨人の腕とが交差する。
俺のほうが僅かに速いっ!
攻撃中のヤツの無防備な腹部スライムボディと俺のビーカースライムボディが接触する。
跳躍中にコップの淵の部分から外側を超高温にしてある。
そのため、焼けた金属でその身を切り取られるかのようにヤツのスライムボディは円形にくり抜かれ……俺の体はヤツの後方へと到達した。
攻撃からこの間、
つまり、一瞬ってことだ!
俺はどさりと地面に着地する。
体を貫通されたヒューマンイーターは俺の灼熱ボディの余波で燃え上がる。くり抜かれたどてっぱらから炎が上がり、それが体全体に燃え広がり……そんな炎にもだえ苦しむかのように両手を頭部に当てて暴れる巨人。
耐えることは出来ず、じきに燃え尽きるだろう。
外側は炎に焼かれ燃え尽きるとはいえ、これで終わりではない。
俺のビーカースライムボディの中には、ゼリーのようにくりぬかれたヤツのボディが残っていて……そしてその中心にはカミャムの姿がある。
ここからはカミャムに影響が出ないように慎重に事を進める必要がある。冷静さを失っていては成功しないって言ったのはここからのことだ。
間違っても灼熱での焼却なんてやってはいけない。
じゃあどうするかっていうとだな。
おれは現在のビーカーボディから形状を変えて、開いている口の部分を塞ぐようにしてヤツを包み込む。
これでヤツはもう逃げられない。
ここからはスライムとしての意地のぶつかり合い。
そう、ヤツを食うのだ!
サンロードスライムに進化する前はヤツの破片だけでもこちらが食われそうになった。
でもな、それもここまでなんだよ。
抵抗などさせん。再生などさせる暇もあたえん。
どっちが捕食者なのか教えてやる!
俺はヤツを上回る圧倒的な捕食力でヤツを食い漁った。
もちろんカラクリはある。ちょっと熱を加えて硬くなった所を食っていくのだ。
熱を通すのはヤツの表面のほんの1ミリにも満たない部分で、そこをこそぐように食う。
それを繰り返し繰り返し、工程で行くと凄い工程があるのだが、今の俺には造作もない。
10秒もしないうちにカミャムにまとわりついていた部分を含めてすべての部分を完食した。
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